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(回答先: アイン・ランド 投稿者 ワヤクチャ 日時 2009 年 4 月 18 日 14:48:10)
http://park8.wakwak.com/~w22/557.htm
「水源」 アイン・ランド (アメリカ) <ビジネス社 単行本> 【Amazon】
1922年初夏、スタントン工科大学で建築家を目指す学生であるハワード・ロークは、優秀な成績をおさめながらも、退学を強いられた。
世はローマ時代やルネサンス時代などの古典建築模倣の全盛期、大学教授たちも学生たちに古典様式の建築を学ぶよう指導してきたのだが、ハワード・ロークは、そんなものはくだらないと一蹴し、独自の道を歩もうとしていたのだ。
大学を辞めたロークは、かつて最も先進的な建築家ともてはやされたが、モダン建築の衰退とともに落ちぶれてしまった建築家ヘンリー・キャメロンのもとで働くことにした。
同じ頃、ロークが学生時代に下宿していた家の息子ピーター・キーティングは、最優秀の成績でスタントン工科大学を卒業し、ニューヨークでもナンバー1と言われるフランコン&ハイヤー建築事務所で働きはじめた。
これは、1998年にモダンライブラリーから発表された、20世紀の小説ベスト100の読者投票部門の方で、1位と2位のトップ2を独占したアイン・ランドの2位のほうで、デビュー作にあたる作品です。
アイン・ランドは40年代から60年代に若者たちの圧倒的な支持を受け、アイン・ランドを信奉する若者たちは総称してランディアンと呼ばれていたそうなんだけど、読んで納得っ。
おもしろい小説だなあと思って読んでいたら、じつは思想書だったのね!って感じかな。しかも、圧倒的パワーで書かれていて。
小説としては、上手いかヘタか微妙なところだよね。ハッとするようなシーンがいくつもあったし、人物造詣で巧いなってところも多々あったんだけど、書き出しからしばらくはぎこちないし、最後の方なんて、そこから先は読者に預けろよってところまでぜんぶ書いちゃってたりもするし、かなりアラが目立つの。
小説だけで判断すると、やっぱり上手いかヘタかっていったら、ヘタってことになるんじゃないかな。先に思想があってから作ったって感じの小説だし。ただ、思想が先にしては小説としての魅力がありすぎるんだよね。これには、まいった。
そうなんだよ、とにかく読んでるあいだじゅう、作者にものすごく強い力でグイグイ引っぱられている感じがした。こんなにパワフルな小説ってはじめて読んだ気がするな。髪の毛ひっぱられて、そのまま引きずられていくみたいだったよ(笑)
読みはじめは、あらまあって思わなかった? オレンジ色の髪で、孤児で、圧倒的な個性を持ち、自分の思うとおりにしか生きられない天才肌の若き建築家と、それほどの才能はないけど努力家で、上に媚び、ライバルを蹴落として、出世街道をまっしぐらに進む若き建築家。はいはい、天才とエリート、二人の生き様を追うっていう、まあ、ありがちな設定よねって。
うん、だいたい先は読めたかなと思った。中盤にはいるまで、その予想を疑いもしなかったしね。あれ、ちょっと違うのかなと思ったのは、ある人物がクローズアップされはじめてからかな。
そこからはもう震えがくるぐらいおもしろいと思った。
巨大な小者って感じの人物で、大衆を遠隔操作して、思い通りに動かそうとする奴なんだけど、まわりの人たちはどんどん洗脳されていくし、かいま見える裏の顔にはゾクゾクさせられるし。
主題は天才vsエリート、ではなかったんだよね。
個人vs集団、個人vs大衆、個人vs組織ってことなのよね。
利己主義vs利他主義、とも言えるよね。
とにかくそういう対比が、主人公のハワード・ロークと、そのある人物との対比で、くっきりと鮮やかになっていくし、作者の主張も明確に見えてくる。
あとはやっぱりハワード・ロークを取り巻く人々でしょ。
ハワード・ロークを支持する人たちのなかにも、ハワード・ロークの一貫した態度を理解しきれなかったりとかして、ロークの望まないことをしてしまう。
そういうものが繰り返し書かれていることによって、なにがロークの、というか作者の主張なのか、ハッキリと見えてくる。
ストーリーとしては、圧倒的な個性を持つ天才的な建築家ハワード・ロークの約18年間にわたる苦闘の物語。
見る人が見れば、ロークの設計した建物がまったく新しいながらも、際だって優れていることがわかるんだけど、その個性と才能ゆえに、世間に認められることが徹底して阻止されてしまうの。
さてさて、ロークの建てたビルが摩天楼を席捲する日は来るやいなや〜っ。
建築については、私はド素人もいいところだから、よくわかってはいないんだけど、なんだか凄く説得力があったよね。
ロークの設計した建物はどれもこれも頭にはっきり浮かぶし、たしかに斬新かつ機能的だ! と思ってしまった。
著者が建築の専門家ではないみたいだから、どうともわからないけど、たしかに説得力があったよね。
ちなみにアイン・ランドはユダヤ系ロシア人で、単身アメリカに亡命し、その後はハリウッドでシナリオ作家を目指していたという女性。
一筋縄ではいかない人っていうのだけは確かかな。
ローク以外の登場人物としては、まずピーター・キーティング。ロークが学生時代に下宿していた家の息子で、母一人子一人、頑張ってきたのはいいんだけど、母親はかなり支配的で、マザコン気味かな。
最初のうちは、ライバルを蹴落として、出世していくことしか考えていないエリート志向の男でしかなかったよね。
そのうちに、彼の本質が見えてきて、哀れみに近い共感を覚えるようになるんだけど。
それを最後の方でロークにきっちり説明されたときにはギョッとしたけどね(笑) 力みすぎなのか、読者を信用できないのか、親切すぎるのか・・・こういう遣り過ぎのオンパレードではあったんだけどね、最後の方は。
最初の方は逆に、わかりづらかったんだけどね。
とくにわかりづらいのが、主人公ロークと、ヒロインのドミニク・フランコンだった。
ドミニクはピーターが勤める建築事務所の共同経営者の一人であり、スタントン工科大学の卒業生の中でも、もっとも出世した建築家ガイ・フランコンの美貌の一人娘で、大衆的な新聞「バナー新聞」の女性記者。
この方は喋り方がなんか変なのも最初のうち気になってしかたなかったんだけど。
類い稀なる美貌と煌めくような知性で人々を魅了し、つねに取り巻きに囲まれながらも、他人に対してまったく感情を揺れ動かすことのない、クール・ビューティーなんだよね。
うわ、こりゃまたいかにもなヒロインが出てきちゃったなあ、とゲンナリしちゃったけど、最後の方ではロークとともに、すんなり理解の内に入ってきたな。
あとは、ロークの生涯の師匠となるヘンリー・キャメロン、ピーターの恋人キャサリン・ハルスィー・・・この人についてもネタバレになっちゃうからあまり語れないけど、登場回数の少ない脇役ながら、かなり面白味があるというか、気になる存在だった。
従順で純粋な少女として登場するんだけどね。あとは、スラム出身ながらも、叩き上げで新聞社の社長となり、さらにメディアを牛耳るところまでいったゲイル・ワインナンドや、富や名声に目もくれず、社会改良を提案しつづけるオピニオン・リーダー的存在の建築評論家エルスワース・トゥーイー、ロークを支えることになる剛毅な財界人などなど。
とにかくストーリーは、読みはじめに予想していたよりももっと大きなところにまで進んでいくよね。
2段がまえの1000ページ超えと大長編なんだけど、一気に読めた。
先に行くほど展開が読めなくなっていく感じで、どんどん夢中になっていくの。
一番話したい作者の主張については、読んでそれぞれが感じ取るべきだと思うから、ここで触れるのは我慢するけど、私たち的には、日頃からこうありたいと思っている考え方にかなり近くて、ものすごく共感した、というか、惑わされることなく、しっかりと生きなくちゃとあらためて励まされたような思いがしたよね。
50年以上前に書かれた小説とはいえ、こういうテーマって普遍的、というか、この時代だからなおさら読んでよかったと思うような内容だと思う。
あなたが気に入るかどうかわからないけど、とにかく読んでみてくださいよ、読んだら熱く語り合いましょうよ、と言いたくなる小説でした。