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2009年03月12日
中国と言えば、これまで「コピー天国」「模倣品天国」と世界中から揶揄されて来た。海賊版のDVDや遊園地の「偽ミッキーマウス事件」が世界で報道され、日本でも「クレヨンしんちゃん事件」「青森事件」など、商標にからむ問題が表面化した。まさに中国は“知財の問題児”的な存在であり、模倣品問題は依然として留まることを知らない。
ところが最近、「これまでとは全く異なる中国の知財問題が浮上している」という話を小耳に挟んだ。
中国に進出している日系企業や外資系企業が、逆に中国企業から「特許権侵害」で訴えられるケースが出て来ているというのだ。
従来、繰り返し報道されて来たようなモラルの低い「模倣天国ぶり」を考えるとにわかには信じがたい話だが、現にこれまで以下のようなニュースが報道されている。いずれも裁判で中国企業に外資系企業が敗訴(いずれも1審)した案件の一例である。
(1)仏シュナイダー社の中国子会社が敗訴した実用新案特許権侵害事件(2007年9月)3・3億人民元の損害賠償を命じる一審判決。
(2)日本富士化水工業株式会社が敗訴した発明特許権侵害事件(08年5月)5061万人民元の損害賠償を命じる一審判決。
(3) 韓国サムソン社の中国子会社が敗訴した発明特許権侵害事件(08年12月)5000万人民元の損害賠償を命じる一審判決。
実は水面下で増え続ける
日本企業への「特許侵害」訴訟
中国の法律関係者によると、これらの他にも、中国企業から水面下で「特許権侵害だ」と指摘されている外資系企業が増えて来ているという。
商標権侵害と比べて特許権侵害はビジネス規模が大きく、敗訴した場合の損害額も大きくなる傾向があるだけに、中国市場を狙う日系企業にとって由々しき事態と言えるだろう。
それにしても、最近になって中国企業が外国企業を訴えるケースが、いったい何故増えて来ているのか?
「第一に、中国企業が外国企業よりも先に特許を取得しているケースが多いことが要因です。また、中国企業の実力がじわじわと上がっていることとも関係しています」と、中国の特許事情に詳しい河野特許事務所の河野英仁弁理士は指摘する。
河野氏によると、これまで企業が特許を取得する場合、母国とマーケットの大きい米国などを中心に、各企業の営業戦略によって出願国を決めるというのが通常の方法だったという。
今回訴えられたケースは、いずれも中国で特許を取得せずに進出した結果、中国企業がすでに特許を取得していたことに起因する。中国で外国企業が被告になるケースはまだ全体の2〜3%と稀だが、すでに中国企業同士の特許権侵害事件は頻発しているというのだ。
中国の専利法(日本の特許法に当たる)では、特許、実用新案、意匠の3つを区別せず、3つ合わせて“特許”と呼び、そのうち実用新案と意匠は無審査で受理される。
発明特許は日本と同じく審査を経るが、中国の法律では商標と同様に“先願主義”を採用しているため、とにかく先に申請しておくことが重要となる。最近の中国では企業の技術力を評価する際、専利権をどれだけ持っているかを重視する傾向もあり、特許出願には特に熱心だという。
国際特許出願数で中国企業が
世界トップに躍り出た衝撃度
それを裏づけるように、中国知識産権局(日本の特許庁に当たる)のHPによれば、実用新案の出願数で見ると中国は1997年からすでに世界トップとなっている。06年には個人・法人の合計出願件数は約16万件と日本の約15倍にも上っているのだ。
また、中国知識産権局が08年に受理した国内外からの特許出願件数は前年比19・4%増の約82万8000件、登録件数は同17・1%増の約41万2000件に上った。ちなみに、日本が07年(最新データ)に受理した特許出願件数は約39万6000件だから、いかに中国での出願件数が多いかがわかるだろう。
さらに驚くことに、今年1月の世界知的所有権機関(WIPO)の発表によれば、08年における企業別の国際特許出願件数では、日本のパナソニック、オランダのフィリップスを抑えて、中国の通信機器メーカー、華為技術(広東省)が初めて世界トップに躍り出た。
国別でも1位が米国、2位が日本、3位がドイツとなっており、中国は過去最高の6位にランクインしたのだ。
これらのデータを見ても明らかのように、中国はいつの間にか米国や日本に迫るほどの“特許大国”となっていたのである。その背景には、どのような事情があったのか?
そもそも中国が特許意識に目覚めたのは、01年のWTO(世界貿易機関)加盟がきっかけだ。世界に足並みを揃えるために法整備を進め、裁判所も拡充された。
模倣品問題を世界中から指摘されたことにより、04年には呉儀副総理を中心として「国家知的財産権保護作業チーム」を立ち上げ、模倣業者の取り締まりにも本腰を挙げて取り組み始めた。
さらに08年には、知財問題を包括的に解決して行く「国家知的財産権戦略綱要」も策定している。このような意識の高まりのなかで、中国企業も特許権を意識するようになった。
日本で特許法が制定されてから100年以上が経っているのに対し、中国ではまだ20年余りしか経っていないことを考えると、これは「想像以上にスピーディ」と言えるだろう。
実は中国は、特許権を意識するだけの実力も同時に着々と身に着けて来た。中国企業の技術力がアップした背景には、90年代以降、外資系企業が中国の安い労働力に目をつけて、「世界の工場」としたことがある。
中国人エンジニアは外資系企業から高度な技術を学び取り、中国企業も外資系企業と切磋琢磨することで技術や経営を学んだのだ。いわば「外資が中国を育てた」といっても過言ではないだろう。
その結果、すでに「確立した海外ブランド」の旨味を知り、海外ブランドを手っ取り早く模倣するという“負の遺産”も生まれてしまったわけだ。しかしその一方で、いつまでも安価な外国製品作りの下請けに甘んじるのではなく、自分たちの技術を向上させるべくR&D(研究開発)に重点を置くという“正の財産”も身に着けたのである。
その過程において、「独自の発明をして特許を取得していない限り、外資系企業に高額な特許料を支払わなければならない」という実態を知ったことは、彼らにとって大きかった。こうした内的・外的要因が中国企業に危機感を持たせ、特許取得に殺到させたとも言える。
ちなみに、昨年特許出願件数で世界一となった華為技術は、ハイテク企業の激戦地、深センで88年に設立された企業。創業からわずか20年で通信機器メーカーとして中国トップの座につき、特許出願でも世界一になった。同社は売上高の10〜15%をR&Dに投資するという徹底した“技術先行型”の企業戦略をとっている。
同社の郭海衛副総経理は、06年にメディアのインタビューで「知的財産権は国家の発展に不可欠な国家戦略である。知的財産権の厳格な保護や発明者の正当な利益保護がなければ、研究に奮闘する人も減るだろうし、創造的な発明もあり得ない。発明の蓄積がなければ、中国は永遠に他人の尻に敷かれてしまうだろう」と述べ、非常に高い知財意識を示した。
むろん、R&Dに力を入れているのは華為技術だけでなく、中国企業で特許出願件数が多い中興通信、海爾などの大手企業も同様だ。
不況でR&Dが減少する日本は
知財戦略で中国にかなわなくなる?
このように高い知財意識を持ち、R&Dへの投資を積極的に行なう中国企業が今後猛スピード増えていくことは、容易に想像できる。そうなると、「日本企業は知財問題で中国企業と互角に渡り合って行けるのか」といった懸念が生まれてくる。
日本に目を転じれば、バブル崩壊後、日本企業のR&D投資額は年々減少している。特に技術力はあっても資金力がない中小企業の場合、金融危機の影響もあって倒産の危機に瀕しているケースも多い。
そうした日本企業に目を付けて、今後中国企業が「うちの下請けをやってくれないか」と申し出るケースも、ないとは言えないだろう。
もしそうなれば、日本の中小企業はゆくゆく「中国企業の生産拠点」となってしまうかもしれない。実際、数年前から日本企業を定年退職したエンジニアOBが中国で再就職するケースがちらほら出始めているが、日本の優秀な人材が資金力のある中国企業に流出する可能性も否定できないのだ。
つまり、従来のような日本企業と中国企業のパワーバランスが逆転することにより、日本企業は知財戦略において、中国企業に大きく水を空けられることにもなりかねないのである。
こうした問題に対し、現在日本企業は真剣な対応を迫られている。知的財産権問題に詳しい三菱総合研究所科学・安全政策研究本部の須崎彩斗主任研究員は、その対応策として以下の3点を挙げている。
(1)日本企業は限られた資金をどの分野の技術に投じるのかをシビアに検討し、R&Dをより効率化させること。
(2)量よりも質を重視した特許戦略を取ること。
(3)将来的に対等なパートナーとなり得る中国企業を探索し、早期に協力関係を構築すること。
これらに加えて、今後は米国などの主要国と同様に、中国でも特許出願しておくことはいうまでもない。ただし「特許出願は費用がかさむだけに、どういう事業戦略を描くか、自社のプランに合わせた経営判断が重要になって来る」(須崎氏)。
これまで日本企業の対中知財対策は中国の模倣品などを「監視・摘発する」立場だった。だが、今後は自社が中国で加害者にならないかをチェックする体制作りも急務となる。
中国の特許出願は、企業が倒産しても知的財産権は個人の権利として温存できるため、個人の出願が多い。侵害訴訟になる場合も予測して、日本企業は出願者が個人なのか法人なのかをチェックしておくことも重要だ。
またそれとは逆に、中国企業が日本の特許庁に申請する特許出願件数も05年に397件、06年には505件と年々増え続けている。中国に進出しなくても、日本国内で中国企業が特許を取得している可能性があることも念頭に置いておくべきだろう。
これまで“模倣天国”と言われて来た中国――。しかし、陳腐な模倣から高度な模倣へと技術が進み、いつしか先端企業は高付加価値の技術を自ら発明して、日本や欧米企業を脅かすまでに成長した。
日本企業と日本人は、そろそろ中国に対するステレオタイプの認識を改めなければならなくなるだろう。近い将来、中国企業と知財を巡る問題は、現在とは全く違った局面に突入するかもしれないのだ。
(ジャーナリスト 中島 恵)