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野村進著「どこでも神様〜日本の知られざる出雲世界をあるく」
http://www.asyura2.com/09/bun2/msg/859.html
投稿者 仁王像 日時 2019 年 2 月 01 日 20:19:46: jdZgmZ21Prm8E kG2JpJGc
 


序章 スーパーから“異界”へ
 なかには泣き出す子や、親のいるところに逃げ帰る子もいる。
オロチの頭部は一見、獅子頭にも相通ずるおもむきがある。えもいわれぬ愛嬌と滑稽味があり、伊勢海老を思わせる豪奢な雰囲気もある。
 そんなオロチの頭部に、子どもらは最初おそるおそる手を伸ばしていたが、何もしてこないと分かると、ばんばん叩いたり二本のツノを引っ張ったりしてゲラゲラ笑いあっている。
 笛や太鼓の音も最高潮に達し、スサノオが最後の一頭を仕留めて、この日の神楽は幕を閉じた。…
にぎやかなさざめきが、スーパーの片隅に暖色の空気をただよわせている。
われ知らず、うなった。この場にいた人々は、年齢や性別、職業などに一切とらわれず、同じ石見神楽に打ち興じることができた。
しかも聞いたところでは、神楽の舞手も楽器の奏者も全員が素人で、本業は別にあり、小学生もいれば、80を超えるお年寄りもいる。…この日の観劇料もなんと無料であった。

 石見地方だけでも神楽の団体は実に百四、五十もあり、最多に見積もって傘下に千名以上ものメンバーを擁している。おまけに、こうした団体の数は減るどころか、年々増加しつつあるというのだから驚く。「激甚過疎」などという用語で語られる島根県も地方で起きている出来事とは、到底思えない。
「石見のジャイーズ」なる呼び名もある。晩秋のある日、江津市桜江町で開かれた石見神楽の「共演大会」に接して、その意味が実感として理解できた。
会場を見渡すと、小学生の男の子らが、ふざけて追いかけっこをしている。スマホのゲームに夢中になっているグループも。ところが信じ難いことが起きた。
演目が始まり、神楽の笛や太鼓が鳴り始めた途端、彼らは猫背の姿勢のまま、顔の向きだけ同時に変え、舞台に目が釘付けになったかのように身じろぎひとつしなくなったのである。
 
 私は、またもや感嘆の声をあげずにはいられなかった。
お目当ての社中や団体が登場すると、しきりに写真と動画を撮る女子中学生や女子高校生らしき一団も目を引く。彼女らの視線の先には、まばゆいばかりの金色の武具をまとった若武者姿のふたりの少年がいて、くるくるとスピーディに輪舞…すばやく見得を切ったりする。「石見のジャニーズ」とは彼らのような少年たちもことなのである。
 石見神楽には、伝統芸能や郷土芸能につきものの“若者離れ”が見られないー。
地元の子どもらは物心つくかつかない頃から、いたるところで神楽に触れ、舞台の凛々しい若武者や勇壮果敢な英雄豪傑に憧れて、「いつか舞っやるぞ」と胸に誓いつつ成長する。特筆すべきなのは、こうした憧れの存在が、近所でよく見かける普通の高校生だったり、JRの窓口にいる中年男性だったりする。
彼らが「アイドル」であり「ヒーロー」なのである。
 これほど熱烈に神楽が支持されている風土ゆえ、人気の高い社中や団体には入門希望者が引きも切らず、メンバーが増え続けているケースもある。全国都道府県中、人工が鳥取県に次いで少なく、過疎化や少子高齢化がもはや行き着くところまで行ったと嘆かれてきた島根県で、こんな現象がおきているのである。

第二章 “神社ガール”と出雲をめぐる
 彼女らをそこまで(小さな祠に若い女性たちが連れだって来ること)突き動かしているものは何か。…“神社ガール”たちの胸の内は分からない。
「神社に行くと、元気がもらえるから」「気持ちが落ち着くし、清々しくなるから」「お守りがかわいいから」といった答えばかり。
 彼女らの動機は、いかにも言語化のしにくいものであろう。これまでの経験からも…彼女らの“アンテナ”が私のものよりずっと性能が良く、時代の最先端を鋭敏にとらえられることくらいは承知している。
 そうした無数のアンテナが、こぞって神社の方に向けられているのである。これは文字通り「画期的な」出来事ではないか。日本の50代以上の男性たちと違って。今の30代以下の女性たちはまるで違う。彼女らの口から、神社に対する否定的な声を耳にしたことは一度たりともない。逆に、「かっこいい」「かわいい」という言葉がよく聞かれる。

【出典】
 「どこでも神様〜日本の知られざる出雲世界をあるく」野村進/新潮社’19年  

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