私は、レーウェンフックと、ギリシャの哲学者ディオゲネスが好きである。 ディオゲネスはひどく変り者で、無欲で、社会批判を続けながら、樽の中で寝起きするのが好きだった。ギリシャ全土を征服したアレクサンドロス大王がこの評判の哲学者に会おうとしたが、まったく無視されてしまった。 仕方なく大王自らディオゲネスの住居におもむいて、樽の中の住人に声をかけた。 「何か、私にできることはないか。何でも望み通りのことをしてやろう」 すると、樽の中の住人が尋ね返した。 「本当に、わしの望みをきいてくれるのか」 「いいとも、私はアレクサンドロスだ。できることであれば、何でも言ってみよ」 「それなら、頼みがある。あなたにしかできないことだ」 それを聞いたアレクサンドロスは、いよいよ自分が高名な哲学者に認められた大王である自負をもって、ディオゲネスの言葉を待った。 「大王、そこをどいてくれないか。いま日なたぼっこをしているところだ。あなたがそこに立っていると、太陽がさえぎられてしまうのだ」 レーウェンフックがレンズを磨いて小さな生物を発見したのと同じ動機で、樽の住人のように怠惰に、この世がどのように成り立っているか、その事実を、生き物を観察しながら探究するほど興味深いことはない。
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