私が、海外の企業について調査しはじめたのは十数年前、すべて国会図書館と東京都立中央図書館にある。“ムーディーズ”の企業年鑑による体系的な調査からであった。 この企業年鑑は、“金融・銀行編”“産業編”“輸送業編”“公益事業編”“外国企業編”などに分類され、すべての企業について、沿革から業務内容、重役リスト、メインバンク、債権・債務状況、子会社の買収・売却史などを詳細正確に記載、毎年ニメートルにもおよぶ厚さの英文資料として刊行されている。そのうち唯一わが家にある“外国企業編”には、アメリカ以外の全世界の主な企業が網羅されている。 しかし、上下巻を揃えるだけでも三十万円かかるので、個人ではなかなか購入できないが、国会図書館や東京都立中央図書館でも、それらが使われている形跡がまったくない。九七年、その“ムーディーズ”のおこなう金融機関の格付け変更が、山一証券の崩壊を一挙に加速し、日本の金融界にパニックをもたらしてきた元凶なのである。 “ムーディーズ”の必要なページをコピーしたあと、私は、その重役を徹底的に調査することにしている。それには、全世界主要国の人名年鑑と死亡者年鑑(Who's Who と Who Was Who)が最低限必要な資料で、これも膨大な体積と価格を覚悟しなければならないが、これはまだ調査資料としては、入口にしかならないものである。このほか、歴史的要人の伝記、貴族年鑑、王室記録、大統領史と閣僚人事録、石油・金融・食品などそれぞれの業界史、主要企業の一社ごとの社史、ゴシップ記録集、“フォーブス”“フォーチュン”の企業番付と富豪番付など、過去少なくとも百年、できれば二百年におよび、二十年(ほぼ一世代)間隔で途切れない原文資料が必要になる。 この国際関係の人物資料に関する限り、わが国で最も充実した図書館は、国会図書館でも東京都立中央図書館でもない。外国の古書を購入したおかけで、現在のところ、わが家の書庫である。 これら膨大な資料は、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・スイス・香港・カリブ海などについて、すべてが同時に手許になければ国際的な脈絡を追跡できないので、かなり大変であることは間違いない。ここに、日々続発する事件ニュースを重ね合わせて事象を丹念に集積し、分類しながら五年ほど経過すると、初めて地球の実業の動きが少し見えはじめ、十年たつと明確な実像が結ばれてくる。データベースで知ることができるのは、このうちアメリカの企業情報とWho's Whoという入口だけであるから、洞窟の内部は何も分らない。
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