九七年の香港・兜町の暴落直後、十一月三日にフランス・ロスチャイルド財閥の中心人物エドモンが死去したが、日本の大新聞におけるその死亡記事は、到底信じられないことだが、「エドモン・ド・ロートシルト男爵が死去し、息子のベンジャミン氏が継ぐ(パリDPA時事)」という内容であった。エドモンはフランス名、ロートシルトはドイツ名、ベンジャミンは英語名、という実に豊かな語学力を駆使しためちゃやくちゃ記事である。この人物はデビアス支配者のダイヤ王で、夫人がしばしば来日したのでご存知の財界人は大勢いるはずだが、正真正銘のフランス人なので、エドモン・ド・ロチルドであり、息子はバンジャマンと発音する。現状の日本の報道は、これはどの世界的実業家について、かくの加しである。 これに対して、海外金融を業務とする東京銀行(現在の東京三菱銀行)や大手商社員で海外の第一線にあって目先の利く人間たちは、かなりの危機に直面して金融マフィアと渡り合わなければならない。そのため、日本国内でしか通用しないジャーナリズムに苦笑しているという。 拙著『赤い楯』(集英社)は、国際金融マフィアと世界の実業史について記述した資料だが、最も熱心に読んでくれたのは、こうした海外業務に携わるビジネスマンたちであり、マーカーを片手に、二度も三度も読み返してくれている。ところが、ジャーナリストでこの本を最後まで読んだ人間は、ほとんどいないだろう。こうした読書姿勢が海外の大事件に直面して、登場人物に対する読み取り方に大きな差をもたらすのである。
|