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(回答先: 【孤独の岸辺】4/ 69歳 みとる者なく、いった弟 (毎日新聞) 投稿者 クマのプーさん 日時 2009 年 1 月 04 日 19:31:49)
http://mainichi.jp/select/wadai/kishibe/news/20090103ddm041040036000c.html
孤独の岸辺:/3 道失い、男は東尋坊を目指した
◇「自分だけじゃない」自殺遺児の手記読み気付く
06年9月、蒸し暑さの残る京都駅。元ホテルマンの男性(34)は北陸へ向かう特急列車に乗った。平日の午前で乗客はまばら。ひっそりとした車内に、レールをこする車輪の音が響く。座席で文庫本を開いた。自死遺児たちの手記集「自殺って言えなかった。」。前日に立ち寄った中古書店で、タイトルにひかれて手に取った。
親を突然失い、周囲に隠し続けるつらさがつづられていた。悲劇を訴えるだけではない。誰かに打ち明け、立ち直るきっかけをつかむまでが記されていた。小学4年生の男児の文章が目に留まった。「ぼくは、お父さんがいないのはとても悲しいです」
男性も母子家庭で育った。小学5年の時には母親を病で亡くし、叔父一家に引き取られた。夕食は別々で、家族旅行の時は留守番。年の近いいとこたちに遠慮しながら暮らした。「仕方ねえから引き取ってやる」。叔父の一言がずっと忘れられなかった。
長野県の高校を卒業後、逃げるように上京した。横浜でホテルの仕事を得たが、同僚とそりが合わず1年で退職。それから10年以上、水商売を転々とした。同じ境遇の友人をいつも探したが、出会えなかった。キャバクラにぬくもりを求め、給料以上に飲み歩き、気が付くと借金は200万円まで膨らんでいた。
身を投げるため、福井県坂井市の景勝地・東尋坊を目指した。死へと向かう列車内で「自分だけが特別じゃない」とようやく悟った。もっと早く、この本に出会いたかった。
ポケットの残金は数百円。窓の外には、見慣れない田園風景が過ぎていく。視界がにじんできたが、列車は進む。数時間後、がけの突端に立っていた。
水平線がはっきりと見渡せるほどの快晴。観光客がやまない。日暮れを待つため近くの餅屋をのぞくと、中年の男女がいた。そこは東尋坊で自殺防止パトロールをするNPO法人「心に響く文集・編集局」の事務所を兼ねていた。男性が握っていた本に、理事長の茂幸雄(しげゆきお)さん(64)が気付いた。
生い立ちのこと、借金のこと。聞かれるままに答えた。「君も大変だったかもしれないけどね、私だって大変だったんだよ」。女性スタッフは、両親をともに自殺で亡くしたことを打ち明けてくれた。緊張が緩み、涙が止まらないまま何時間も話し続けた。「本当は誰かに止めてほしかったんだ」と気付いた時、注文したおろし餅は手つかずのまま硬くなっていた。
自己破産手続きを取り、再出発した。福井県にとどまり、派遣社員として働く。最近、釣りを始めた。2年前に見下ろした岩場に下りて糸を垂らす。当たりがあると大声で笑う。信じられないほど変わったと自分でも思う。
週末、恩人に会うために必ず餅屋を訪れる。その度に新たな訪問者らがうつむいて座っている。家や職を失った人。うつ病を患う人。仕方なくたどり着いた人ばかり。あの時の自分を思い出しながら、話しかけられずに見守る。どんな言葉を掛けられるのだろう。
列車で読んだ本の背表紙に、こう書かれていた。「ひとりじゃないんだよ」【津久井達】=つづく
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毎日新聞 2009年1月3日 東京朝刊