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第99回 画像処理技術に革命もたらした東大安田浩教授の最終講義 (2007/03/02)
http://www.asyura2.com/08/senkyo56/msg/786.html
投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 10 日 14:20:54: Dh66aZsq5vxts
 

(回答先: 第95回 明治の「バラバラ事件」もヒット 読売新聞の記事DBを体感 (2007/01/30) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 10 日 14:15:33)

第99回 画像処理技術に革命もたらした東大安田浩教授の最終講義 (2007/03/02)
http://web.archive.org/web/20070309154353/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index.html

2007年3月2日

 東大国際・産学共同研究センターの安田浩教授が定年退官することになり、その最終講義があるというので、それを聴きに本郷の工学部2号館の大講堂に行ってきた。正門に「安田浩教授、最終講義」という大きな立看板が立てられ、会場は定刻前からギッシリ満員という盛況。

 会場には、多数の学界人、研究者だけでなく、多数の経済界の人々がきていた。

 安田教授は、実は、東大教授は97年からで、その前ずっと25年間は、電電公社、NTTの武蔵野電気通信研究所、横須賀電気通信所にいた。一貫して情報通信システム、ネットワーク、情報処理の研究にたずさわり、東大に移ってからも、産業界と密接な連携を保って産学の共同研究を推し進めてきた人だから、産業界に知己が多いのである。

 東大での研究生活は、先端研(先端科学技術研究センター)からはじまり、そのとき私も先端研にいた関係上、お付き合いが長い。2000年には、私の駒場時代のゼミの学生が安田教授のところに、ネットワーク社会がこれからどう展開していくかを聞きに行き、その結果をまとめて本にする(「新世紀デジタル講義」新潮社)などの経緯があったので、特に親しくしていただいてきた。

 最終講義は、自分の研究経歴を紹介するところからはじまったが、これが面白かった。

 
画像圧縮技術標準化への立役者
……………………………………………………………………
 安田教授の研究でいちばん世に知られているのは、情報処理技術の中でも、画像符号化・画像処理・画像情報圧縮の技術である。この分野では、若いときから世界に先駆けたリーディングな技術を開発してきたが、90年代から世界中の技術者に呼びかけて、技術を国際的に標準化することに努力傾注してきた。

 ともすれば、この技術世界、各国とも自国が主導権を取って自国の技術を世界に広げようとするので、国際標準化の話はすぐにこわれがちである。標準化の話が出ても結局はまとまらず、実力で勝負をしようということになる。そして各国各企業が血で血を洗う争いをさんざん繰り広げてから、勝者がヘゲモニーを取って、デファクトスタンダードを確立するというのが、これまでの歴史だった。ビデオの規格にしろ、パソコンのOSにしろ、そのような展開をたどってきた。

 しかし、画像圧縮の技術だけは、国際標準化の話し合いが見事に実を結び、静止画はJPEG、動画はMPEG1とMPEG2で統一され、ハードウエアのメーカーがちがってもメディアがちがっても、ソフト・メーカーがちがっても、みんな同じ方式を使うようになったので、情報通信の世界で画像情報化が一挙にすすんだのは、よく知られる通りだ。

 しかし、それがそうなった背景に、日本の力というか、安田教授の大きな働きがあったということは、一般にはほとんど知られていない。

 
next: 標準化がない世界は不都合な世界
http://web.archive.org/web/20070309154353/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index1.html

標準化がない世界は不都合な世界
……………………………………………………………………
 そもそも、国際標準が成立していない世界だとどれほど多くの不都合が生じるかということが、それほど知られていないのだ。

 日本で一般にも知られているのは、電化製品を外国にもっていくと、電圧がちがったり、プラグの形状が現地のコンセントに合わなかったりして、そのままでは使えないことがあるということくらいだろう。

 昔は、外国旅行をするときは、各種の変換プラグを用意していったり、電圧調整のためのトランスを用意していったりしたものだが、最近では、どのコンセントにも合うユニバーサル・プラグが開発されたり、電圧を自動的に測定して100Vに変換してくれる電子式自動電圧変換装置が内蔵された製品が多くなったりしているので、日本ではその不都合を実体験したことがない人がふえている。

 同じような不都合がテレビ・ビデオの世界にもあって、日本のNTSC方式とヨーロッパのパル方式の間には互換性がないから、外国で買ってきたビデオが日本では見られなかったり、その逆(日本のビデオを外国にもっていっても、現地のテレビモニターでは画がでてこない)がいまでもある(詳しくいうと実は 3方式が並存している)。

 しかし、コンピュータにかける画像CD、DVDだけは、国際標準であるMPEG方式で収録されており、それを見るソフトはあらゆるコンピュータに標準装備されているから、どこの国のものであろうとかけることができる。あるいは、インターネットでダウンロードした画像情報、友人から送ってもらったメールに添付された画像ファイルにしろ、いまではすべてがMPEGで圧縮されたものだから、どこからどこに送られたものでも気楽に開いて見ることができる。

 いまではそれが当り前すぎるほど当り前のことになっているから、誰もそれが特別便利なものとは感じてないかもしれないが、ついこの間まで、コンピュータの世界ではいろいろな画像圧縮方式が並存していて、それを圧縮したり開いたりするソフトをお互いに持っていないと、せっかく送ってもらった画像も見ることができなかったのだ。

 コンピュータ画像の世界でJPEG、MPEGの世界標準が成立しなかったら、いまでも、同じ画像ソフトを持っている人同士しか画像情報を交換できない世界がつづいていたにちがいないのである。そしてそのような世界標準が実現したのは、そんな遠い昔のことではない。JPEGができたのが1987年、 MPEG1が91年、MPEG2は、94年である。

 
next: 日本案以外は、「なにがなんでもノーといえ」
http://web.archive.org/web/20070312023213/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index2.html

日本案以外は、「なにがなんでもノーといえ」
……………………………………………………………………
 世界標準が確立するまでに、どの方式を世界標準とするかをめぐって、日米欧三極の激しいヘゲモニー争いがあり、放っておけば、テレビ画像と同じように、3つの方式がそれぞれならび立つということになりそうだった。それをそうさせなかったのが、1985年から1991年にかけて、国際標準化機構(ISO)において、この問題を担当した国際電気標準会議・合同技術委員会(IEC JTC1)の画像符号化ワーキンググループ(WG8)の議長をつとめていた安田氏だったのだ。JPEGとMPEG1のとりまとめはこの間の仕事である。

 画像を符号化して圧縮する方式を標準化しようという議論そのものは、ISOにおいて、80年代のはじめからはじまっていた。提案された方式は日米欧の3つの方式があって、具体的提案は企業レベルで10社からあった。技術的には一長一短あった。しかし、三極とも譲ろうとせず、ひたすら議論ばかりつづいていた。

 安田氏がはじめてこの会議に日本代表(NTT)として参加したころ、日本案以外は、「なにがなんでもノーといえ」という上司の命令に従って、すべてに「ノー」といいつづけた。IBMが中心だったアメリカも、同方式のカナダもアメリカ案以外にノーといいつづけた。

 しかし、85年にワーキンググループの議長になった安田氏は、世界標準の確立こそすべての人の利益になるという強い信念を持っていたので、話をまとめる方向に積極的に動いた。

 そこで、議論だけではいつまでたっても決着がつかないから、どの符号化方式がベストか、同じ条件でコンペをやって決着をつけようと提案した。

 その提案が受け入れられ、87年6月、コペンハーゲンに集まって関係者一同1週間泊まりがけで、提案のあった10社の方式によって、3種類の画像を 4種類のビットレートで帯域圧縮したものをくらべるという方式で行われた。どの画像がよい画像かという評価には主観性がまぎれこみがちで、そうなると決着がつかなくなる。

 そこでまず、安田氏は皆の合意にもとづく客観的な評価基準を決めた。そして、それを物理的に計測可能なデータ的なものにした。1社あたり画像の種類とビットレートのちがう12枚の変換画像を25人の評価委員が見て物理データを計測しつつくらべるという作業を毎日夜10時までつづけた。

 
next: 「日本は降りる。だからアメリカも降りないか」
http://web.archive.org/web/20070312023351/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index3.html

「日本は降りる。だからアメリカも降りないか」
……………………………………………………………………
 コンペの最後の日、安田氏が自室ですべてのデータを集計してみると、一長一短があるものの、総合得点でフランス案が1位、日本のNTT案が2位、アメリカのIBM案が3位ということになった。評価軸がいろいろあったので、フランス案がぶっちぎりの1位というほどの差はついておらず、評価軸の力点の置き方によってはまだまだ議論の余地があった。しかし、技術の将来性という観点からすると、フランス案をよしとする学会レベルの高い評価があった。

 本日最終評価の議論の決着をつけるという日の朝、ホテルの食堂でアメリカ代表の姿を見かけた安田氏はすぐそばによって単刀直入にいった。

 「日本は降りる。だからアメリカも降りないか。フランス案で行こう」

 日本の案のほうがデータ的にはハッキリアメリカ案の上を行くという結果が出ていた。その日本が率先して降りるといえば、アメリカはそれでもがんばるとはいわないだろうと踏んだのだ。そして、アメリカの面子も立てるためにこういった。「アメリカ案にも、日本案にもいいところがあるから、フランス案をベースにして、それにアメリカ案のいいところと、日本案のいいところをプラスするということでどうだ」

 アメリカ代表はしばらく不満そうに何かまくしたてたが、数分後には、「それでいこう」とOKした。

 これが、延々失敗しつづけた画像の世界の国際技術標準が確立した瞬間だった。

 JPEGの成功につづいて、MPEGも安田氏が中心になってまとめあげた。

 JPEG、MPEG1、2によって、コンピュータ画像・デジタルTV画像の世界標準を確立した功績は国際的にも高く評価された。この功によって、安田氏は、1996年に米国テレビジョンアカデミーから、テレビ界のアカデミー賞といわれる「エミー賞」の技術開発部門賞を受けている。

 標準化技術にこの賞が与えられたのは、はじめてのことだった。

 
next: データの積み上げが成功をもたらす
http://web.archive.org/web/20070312023341/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index4.html

データの積み上げが成功をもたらす
……………………………………………………………………
 何がこのような成功を安田氏にもたらしたのか。

「一つは、これまでAC電源から、テレビ放送、ビデオ方式などさまざまの電気系の技術が単一の世界標準を確立することに失敗して、不自由で不便な技術世界を作ってしまったことを反省して、絶対に複数の世界標準ではなくて、単一の世界標準を作ることにこだわろうという強い決意を持ってこの問題に取り組んだことです。そのためには、自分たちが一歩引き下がってでも、全体の合意を取りつける方向を選んだことです」

「もう一つは、合意を取りつけるために、客観的な評価方法をきちんと確立した上で、公平なコンペをするという方法を選んだことです。そしてそのようなコンペを実現するために、日本があらゆる技術支援を惜しまなかったことです。『口を動かすより、まず手を動かせ』が日本からの技術支援部隊の合言葉でした。手を動かすより口を動かすことが達者な人ばかり集まる国際会議の場では、日本の技術支援によって、文句の出しようのない物理データをきちんと積み上げて議論に決着をつけるという方式が功を奏したのです」

 という。

 いま世界中でデジタル画像は基本的にMPEG2でやりとりされている。しかし、安田氏はこれに満足していない。なぜなら、

 「MPEG2を使うかぎり、色が完全に再現されない」

 からである。

 圧縮技術はすべて情報を落とすことによって実現される。MPEG2は、画素あたりのビット数を落とし、色相、彩度などの色情報を落とすことによって成立させた情報圧縮技術である。だから、色情報に欠落が生ずるのは避けられないのだという。

 しかし、いま画像情報処理の最先端では、色情報完全再現に向けて技術開発が次々に進んでおり、MPEG4とかMPEG7などという高次画像規格の話が進んでいるところだという。

 最終講義では、高次規格が実現したときの色情報完全再現画像のサンプルも見せてもらったが、なるほど、ちがう。

 いまフルハイビジョン規格の画像を見ると、これ以上の画像はもう必要ないのではないかと思うくらい美しい画像を見ることができるが、その何倍も美しいというか、リアルな画像を見ることができるのである。

 
next: コンテンツ自動生成システムの開発に着手
http://web.archive.org/web/20070312023324/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/index5.html

コンテンツ自動生成システムの開発に着手
……………………………………………………………………
 しかし、そのような高画質の情報を日常的に流すためには、伝送系から、情報処理系、モニターにいたるまで、いまの何倍もの情報を扱う必要が出てくる。しかし、「ブロードバンド・プラス・ユビキタス」時代の向こうには、ケータイを含むあらゆるメディアを通してそのような高画質情報がなんでもなく日常的に流れる時代がくるだろうという。

 それは同時に、そういう高画質情報を誰でも受発信できるようなメディア環境が万人に与えられる時代でもある。

 そうなったときにいちばん問題になってくるのは、個人個人の(画像)情報発信能力のほうだろうという。そこで、いま安田氏は、「デジタル・ムービー・ディレクター(DMD)」という新しい映像コンテンツ自動生成システムの開発に乗り出している。

 このシステムを使うと、コンピュータに仕込んだソフトによって、誰でも簡単にデジタル・アニメ・ムービーを作ることができる。これを普及させられれば、日本社会を一億総映像作家にすることができるようになるという。

 これは一口には説明できないが技術だが、使用は意外に簡単で、数時間のトレーニングで本当にそれができてしまうのだ。現に小学生から老人まで、このソフトを利用したデジタルムービー作りがあちこちで行われはじめ、近い将来、その全国コンテストが行われる予定だという。

 興味がある人は、次のサイトにアクセスしてみれば、このソフトをダウンロードしたり、いろんな人が作った作品例を見たりすることができる。各地で開かれているこの技術の講習会(ムービー塾)の情報などを得ることもできる。

 
立花 隆

 評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月 -2006年9月東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。

 著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。近著に「滅びゆく国家」がある。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
 

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