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第73回 ポスト小泉を呪縛する靖国問題と竹中問題 (2006/05/17)
http://www.asyura2.com/08/senkyo56/msg/731.html
投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 09 日 00:18:10: Dh66aZsq5vxts
 

(回答先: 第72回 堀江被告の保釈・幕引きで闇に消えたライブドア事件 (2006/05/10) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 09 日 00:16:05)

第73回 ポスト小泉を呪縛する靖国問題と竹中問題 (2006/05/17)
http://web.archive.org/web/20070526180626/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060517_jubaku/index.html

2006年5月17日

 5月15日に発表された、日本経済新聞の「ポスト小泉にふさわしい候補」の世論調査の結果が、大きな波紋を広げている。

 相変わらず、安倍晋三が33%で他を大きく引き離して第1位であることに変わりはないが、第2位の福田康夫が21%も取ったことが大きく注目されたのだ。

 前回の調査(3月実施)でも、この順位だったが、1位と2位の差が前回26ポイントもあったのに対して、今回その差は12ポイントと半分以下になってしまったのだ。この差の縮まり具合はただごとではない。

 この勢いで両者の支持率が接近していったら、9月の決戦では、「ヒョッとしたらヒョッとするかもしれない」という観測が出てきたのだ。

 
靖国参拝問題で割れる党内世論
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 福田も安倍も、まだ公式にはハッキリ出馬を表明したわけではないが、周辺には出馬をにおわせる発言を繰り返しているし、周囲の応援団が過熱している。福田はこのゴールデンウィークには中東に出かけて独自の資源外交パフォーマンスをしてみせたのに続いてアメリカを訪問し、政府要人と次々に会見して、外交に強い福田をアピールした。

 小泉政権が発足後5年を経過して、戦後3番目の長期政権になったのを機に、各メディアが一斉に小泉政治5年間の総括をしているが、どこも小泉政治の最大の弱点としてあげているのが、中国・韓国との関係をどうしようもなく悪化させた近隣外交の失敗だ。

 その最大の原因になっているのが言わずとしれた靖国参拝の問題だ。安倍が小泉首相の靖国参拝を支持し、自分が首相になったあかつきにも靖国参拝を続ける姿勢を見せている(そうは公然と言わないものの、「そういうことはしない」などの否定発言をすることも避けている)のに対して、福田は、もともと自分が官房長官だったときに私的諮問機関を作り、靖国神社に代わる国立追悼施設を作ることで、靖国問題に最終決着をつけるプランをすでに9分通り作っていた(しかし小泉首相はその策を採らなかった)人だから、靖国参拝をするはずもない。

 中国・韓国は、ハッキリ声に出してそうは言わないものの、福田支持であることは明らかだ(声に出して言うと逆効果になることを恐れて言わないだけ)。

 
経済団体が異例の首相批判
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 つい1週間ほど前には、経済同友会が「今後の日中関係への提言」なる文書を発表した。日中間で首脳会談を開くことすらできない冷却状態がずっと続いていることを、「きわめて憂慮すべき情勢」と表現して、その根っこに小泉首相の靖国参拝問題があることを指摘した。そして、そのような首相の行動は「戦後の日本の否定」「日本の国益にとってプラスにならない」とハッキリ批判し、「総理の靖国参拝の再考」をストレートに求めた。

 
next: 経済団体がここまでハッキリ首相の行動を批判するのは…
http://web.archive.org/web/20071211211002/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060517_jubaku/index1.html
 経済団体がここまでハッキリ首相の行動を批判するのは歴史的にも異例中の異例のことである。その背景には、政経分離を大原則としてきた日中関係だが、そんな我関せずの表明のみではすまないほど靖国問題で関係が悪化しつつある現状を経済人たちが日に日に肌身で感じている現実があるのだということだ。

 新聞の大見出しになるようなイベントはまだ起きていないが、日中間の接点に立ついろんなレベルでの直接間接の不快感の表明が日常的にあるのだ。そしてそういうやりとりの過程で中国側の感情を害した場合に、なんらかの不利な取り扱いを受けるといったことは日常茶飯のことだと聞く。そういう場合、当事者としてできることは、中国側に口を合わせて小泉首相を非難することしかないから、今回の経済同友会提言程度のことは、そういう場ですでに何度も表明されてきたことなのだ。

 いまの景気回復の相当部分が、中国市場における日本の経済的成功によってもたらされている状況を考えれば、靖国問題は、日本の国益にとってマイナスと断じる経済人たちの心境はその通りとしかいいようがない。

 
経済同友会が事実上の福田支持発言
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 経済同友会の提言では、靖国神社に代えて、「民間人を含む戦争犠牲者すべてを慰霊する無宗教の追悼碑」を国が作るべきだとしているが、これは、かつて福田官房長官(当時)の私的諮問機関が出した提言と同じライン上の提言だから、まあ、いってみれば、経済界からの福田支持発言といってもよいだろう。

 そして、ここにある「民間人を含む戦争犠牲者すべて」という表現が大事なところで、靖国神社は軍人軍属の神社だから、民間の一般人の犠牲者は祀られていない。このままでは日本の国家はあの戦争犠牲者すべてを追悼するよすがを持っていないということになるのだ。靖国神社があれば、国立の追悼施設など必要ないという人たちはこの点をどう考えるのだろうか。

 経済同友会に続いては、アメリカからも福田支援の矢が飛んできている。米下院外交委員会のハイド委員長(共和党)が、ハスタート下院議長あてに、靖国神社参拝をつづける小泉首相の訪米に懸念を示す書簡を送ったのである。

 小泉首相は、前に、中韓以外の諸外国でも靖国参拝は不評との報道があったときに、いつもの夕方のぶら下がり記者会見で、「そんなことはありませんよ。サミットでもなんでも、靖国参拝は平和を祈るためなんだというと、各国首脳はみんな理解を示してくれますよ」と不審そうにTVカメラに向かって首を振ってみせたが、これは小泉首相一流のTVパフォーマンスにすぎず、現実には、靖国参拝に理解を示す首脳などいないのだ。A級戦犯に参拝する小泉首相の図は政治マンガでのヤユの対象でしかない。

 
next: 国内では、昨年暮に山崎拓、加藤紘一などの有力議員も加わって…
http://web.archive.org/web/20060705223748/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060517_jubaku/index2.html

 国内では、昨年暮に山崎拓、加藤紘一などの有力議員も加わって、超党派で作られた「国立追悼施設を作る会」が、事実上の福田応援団の役割を果たしつつある。

 
アンチ小泉の党内マグマが不穏な動き
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 最近の週刊朝日の「いまポスト小泉に最も近い男 福田康夫研究」という特集記事の中で、ある自民党職員の発言として、

「みな口には出しませんが、党内には小泉さんに対する不満がマグマのようにたまっている」

 として、これまでの小泉人事に対する不満、郵政民営化問題での不満などをあげ、そのマグマが不穏な動きをはじめようとしている状況を伝えている。

 この記事の中で、福田自身の言葉として、

「そんなもの(総裁選)はね、いま論議する段階じゃないんだよ。まわりは騒ぐけど、最後の1カ月か2カ月で形が決まっていくものなんだよ」

 というセリフが伝えられている。

 これを読んで、福田はさすがに情勢をよく見ていると思った。事実、自民党総裁選の歴史を見ればその通りなのである。

 たとえば、歴史上最も有名な田中角栄が福田赳夫に勝って総理になった72年総裁選の場合である。選挙が行われたのは、7月5日だが、多数派工作が公然とはじまったのは(それ以前にも、地下に潜行しての多数派工作があった)、約2カ月前の5月末であり、両派の総決起集会とか各派の派閥ぐるみの支持表明が相次ぎ、情勢がググッと一挙に動くのは、2週間前くらいなのである。

 まだ総裁選の日取りは決まっていないが、おそらく、小泉首相は任期いっぱいやるだろうから、情勢が大きく動く時期は、8月後半ということになるのではないか。

 とするなら、それに最も大きな影響を与えそうな社会的事件となりそうなことというと、なんといっても、今年の8月15日に小泉首相が靖国参拝を強行するかどうかということになるだろう。

 
総裁選の最終段階は“靖国決戦”
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 小泉首相は、これまでの自分の発言で約束を果たしていないのは、8月15日の靖国参拝だけということをハッキリ自覚している。

 よく知られるように、小泉首相は、自分の前言にこだわりにこだわる政治家である。そして極端な負けず嫌いの性格だから人になにかを押しつけられることを徹底的にきらう。それに中国韓国が好きではないから外交上の問題でこの両国に何かを押しつけられることは極端にきらう(アメリカから何かを押しつけられても喜んでそれにコミットするのとはえらい違いだ)。こういう性格から当然予想されることは、参拝強行だろう。

 
next: その場合、当然、中韓両国が猛烈に反発することは…
http://web.archive.org/web/20060705223757/http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060517_jubaku/index3.html

 その場合、当然、中韓両国が猛烈に反発することは目に見えているが、小泉首相は「どうせ辞めるのだから、あとは野となれ山となれ」とばかり、強行する可能性のほうがずっと高いと思う。

 福田はそれに正面切った批判をするだろうが、安倍はどうするのか。安倍を支持する最大の政治集団の1つが「靖国参拝を支持する若手議員の会」だから、安倍が靖国参拝を否定することは考えられない。

 そして、世論はどう動くのか。中韓両国の反発(とその表現形態)が予想以上に強すぎる場合、最近妙にナショナリスティクになってしまった若い世代を中心に、嫌韓派、嫌中派が増えている現状を考えると、福田の靖国参拝批判がマイナス効果を持ってしまうことも考えられる。福田も安倍に負けず劣らず、対応を悩まなければならないだろうが、総裁選の最終段階は“靖国決戦”の様相を帯びてきたといえそうだ。

 
小泉改革の経済的側面はどう総括されるのか
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 もうひとつ靖国問題に劣らず、総裁選に大きな影響を与えそうなのが竹中問題である。

 これまで、小泉改革の中心的なにない手として、小泉首相の寵愛が誰よりも深かったのは、竹中平蔵総務相である。

 それがここにきて、なぜか突然小泉首相と竹中総務相の間が冷たいものになっている。これまで竹中が好きなように経済政策を仕切ってきたのは、ひとえに小泉首相が背後にいたからだが、小泉首相の後立てが急になくなったらしいというニュースが伝わったとたん、竹中の政治力は一挙に失われ、いまや自民党内は竹中バッシングまっさかりの状況という。

 竹中が小泉首相と共倒れになる場合、安倍、福田はそれに代わる経済問題ブレーンとして誰をすえるのか。そして、小泉改革の経済的側面はどう総括され、どう変わっていくのか。それに国内国外のマーケットはどう反応するのか。それによって金利や為替が危険な水準まで変動することはないのか。その場合、経済に弱いのが定評の安倍はうまく対応できるのか。

 あまりに多くの予測不可能なファクターがからみ合っているだけに、これから8月の終わりまで、何が起きても不思議ではない状況が続きそうだ。

(文中敬称略)

 
立花 隆

 評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月 -2006年9月東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。2006年10月より東京大学大学院情報学環の特任教授。 2007年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授。

 著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。近著に「滅びゆく国家」がある。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
 

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