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(回答先: 第23回 “女帝”誕生は是か否か! 皇位継承の原点から考える (2005/06/28) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 11:34:49)
第24回 国際熱核融合炉「ITER」 日本への誘致“失敗”の舞台裏 (2005/07/04)
http://web.archive.org/web/20051215155317/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050704_iter1/
2005年7月4日
核融合炉を作ることに成功したら、地上に人工の太陽ができたのと同じことになる。そうなれば、将来、エネルギーの心配は何もなくなる、とはよく聞く未来の夢である。その未来の夢の実現に最も大きな一歩になると期待されているのが、ITER(イーター。国際熱核融合実験炉)計画である。
そのITER計画に加わっていた、日本、アメリカ、、欧州連合(EU)、ロシア、中国、韓国の閣僚級会議が6月28日モスクワで開かれ、実験炉本体はフランスのカダラッシュに作られることが正式に決まった。
この件に関して、朝日新聞からコメントを求められたので、「日本に誘致できなくて本当によかった」と述べた。
もし日本にITERが来ていたら、日本はそのために多額の資金を拠出しなければならないことになっており、それによって、日本の科学技術予算全体が大変な圧迫をこうむることになるのが必至だったからだ。
ホスト国“落選”で日本は大きな恩恵を享受することに
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どれくらいの資金が必要かというと、ITERは炉の本体を建設するのに約5000億円かかる。これを誘致するホスト国は、その半分の約2500億円を拠出しなければならない。研究参加するだけの他の五カ国は、おのおの建設費の10%、約500億円を負担するだけですむことになっていた。
日本はホスト国になったら2500億円かかるところ、500億円ですませたわけだから、ずいぶん安くすませたことになる。
その代わり、何を失ったのかというと、ホスト国は、負担が多い分、工事・設備・機材等の発注を、自国(地域)中心に行ってよいことになっていたが、その発注する権利を失ったわけである(10%負担の研究参加国も、その負担の割合に応じて受注権が得られることになっているが、その権利は残る)。
最終的に争いに残った日本とEUの間で、さまざまなネゴが重ねられた結果、最終契約獲得者(この場合はEU)は、敗れた側(この場合は日本)に、発注枠のうち、500億円分を移転することになっていた。つまり、日本は、ホスト国にならなかった代わり、負担金500億円に対して持つ500億円の発注枠(負担金分)にプラスしてさらに500億円の発注枠(EUからの移転分)を獲得したわけである。10%の負担で、20%の発注枠獲得だから、コストパフォーマンス的には、かなり得をしたことになる。
ITER計画では、炉の本体だけでなく、実験炉以外に、炉材料研究施設、高度計算機シミュレーションセンターなどの付帯研究施設を作ることになっているが、その重要部分(どの部分になるかは確定していないが、建設費500億円以上になると考えられている)を日本にもってくることにもなっている。さらにITERの実験炉本体についても、現場の実験研究主任に日本人がなることが決まっている上、現場の実験研究要員の20%は日本人になるなど、大幅に日本に有利な条件がついている。ここでも10%負担で、20%枠獲得なのである。日本はこの決着で損をしていないどころか、相当に得をしていることは明らかである。
next: この決着に不満を持っている人々の大部分は…
http://web.archive.org/web/20051215155317/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050704_iter1/index1.html
この決着に不満を持っている人々の大部分は、ITERが日本に来ることで、巨大公共事業の利権配分にあずかれる期待を抱いていた人々であって、核融合のサイエンスにたずさわる立場の人々は、EUから与えられたこの有利な条件で、相当部分が現場に入るのだし、そうでなくても、いまの技術をもってすると、日本にいても十分な研究参加ができるから、それほど不満を持っていないのである。
なぜこれほど日本に有利な条件がついたのかというと、熱核融合の研究においては、日本が国際的に大変進んでおり、ITERの基本設計も日本のチームが終始リーディングな立場で引っぱってきたという実績があったからなのである。
熱核融合でトップのデータ実績を誇る日本とヨーロッパ連合が一騎打ち
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第1図を見てほしいが、これはこれまでの40年間の熱核融合研究でトップデータを出しているトカマク装置(ドーナツ状の容器を使う磁気閉じ込め方式)のこれまでの実績を示した図だ。
図1 三大トカマクの性能の進展とITERの目標
(原子力研究所HPより)
核融合を起すには、プラズマを1億度以上に熱し、密度を十分に高めた上で(1立方センチ当り100兆個以上)、一定時間一定区画に閉じ込めた状態に置かなければならない。この図はそのパラメータがこの40年かけて、どのように向上してきたかを示す図である。
これは「ローソン図」と呼ばれる図で、縦軸に密度と閉じ込め時間の積、横軸に温度を取っている。この三つのパラメータの積(三重積)で、核融合の可能性が示される。右上の二つの青っぽい斜線をかけた弓形の部分が、核融合の臨界条件と自己点火条件を示している。臨界プラズマ条件は、核融合が開始される “とば口”的状況を示し、自己点火条件は核融合反応が持続的につづくようになる状況を示す。
next: 世界の三大トカマクの装置といわれる…
http://web.archive.org/web/20050713010833/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050704_iter1/index2.html
世界の三大トカマクの装置といわれる日本のJT60、ヨーロッパ連合のJET、アメリカのTFTRはいずれも、核融合成功の第一歩といわれる臨界プラズマ条件(投入した加熱エネルギー以上の出力が得られる)を達成している。ただし、実は正確にいうと、TFTRはその条件を超えたかどうかが微妙なレベルである。日本のJT60とヨーロッパのJETは文句なしの数値を出しており、たしかに核融合がはじまったといえるデータを出している。そこまでいっていたから、日本とヨーロッパが最後までITERのホスト国を争ったのである。この他の国々は、ホスト国になろうと思っても、なるだけの技術力を持っていない。
ただし正確にいうと、核融合反応はいまの技術レベルでは、燃料にトリチウム(三重水素)を使わないと本当に起こすことができない。日本の場合は、トリチウムを現実に使用する実験は行っていない。その代わり、水素を用いる実験を行って、もしトリチウムを使っていたら、これだけのエネルギーが出ていたはずというデータの読み換えを行った上で、「臨界条件突破」といっているだけなのである。本当にリアルに臨界条件を突破したわけではない。
それというのも、トリチウムには放射能があり、日本ではそれを実際に使用する実験がまだ社会的に容認されていないからだ。その点ヨーロッパは本当にトリチウムを使った実験をすでに行っている。この点では、ヨーロッパのほうが日本に先行している。
日本がヨーロッパに敗れたのは、ある意味では順当負けなのである。読み換えデータしか持たない国より、リアルなデータを持っている国のほうが強い発言力を持つのは当然である。
それに、ITERの実験では必ずトリチウムを使わなければならないが、いざ日本にITERが来たところで、日本ではトリチウムに対する社会的抵抗が厳しいので、トリチウム使用はひかえてくださいなどとは絶対にいえないのである。
この点日本は見切り発車にならざるをえないが、ヨーロッパは使用実績がすでにある。この差も大きい。
アメリカはどうかというと、もともとは世界のトップデータを争う力があったが、近年、後に述べるような理由で、その技術力は急速に落ちている。しかし、ITER建設計画が最初に持ち上がった1985年当時は、文句なしの世界のリード役で、ITERの初期の設計段階では、アメリカが中心的な役割を果たしていた。
ところが、後述するような理由で、アメリカは急速に力を落し、99年になるとITER計画から脱落するむねを宣言した。
そして、それまでアメリカもITER誘致のホスト国として名乗りをあげ、日本、ヨーロッパと激しく争っていたのに、その名乗りすら取り下げてしまったのである。
2003年になって、アメリカはITER計画に復帰したものの、ホスト国になるつもりは全くなくしており(それだけの予算がつかない)、研究参加国としてのみの復帰だった。
next: またロシアは、核融合研究のごく初期のころは…
http://web.archive.org/web/20050710021801/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050704_iter1/index3.html
またロシアは、核融合研究のごく初期のころは、世界でいちばん研究が進んでいた国だった。何しろ、トカマク方式を発明したのがロシア人で、トカマクとはロシア語なのである。しかしこの国も急速に国力(経済力・研究力)を落として、いまや、ホスト国に立候補することすらできない状況になっている。
中国、韓国は、まだ核融合研究の歴史が浅く、研究参加するのがやっとで、とてもホスト国に名乗りをあげられるような力はない。
ということで、トカマク型でいま世界をリードしているのは、ヨーロッパと日本なのである。最終的にこの二つの争いになったのも当然といえば当然といえる。
アメリカのITER計画撤退の理由とは
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日本は昨年までITER誘致に相当の力を入れており、最終的に日本に来るなら、交換条件として相当の利益・サービスをヨーロッパに与えるつもりになっていたといわれる。
かつての研究リーダーであった米ソ両国がへたりこんでいるいま、日本の政府当局者が、ここで核融合研究の国際的ヘゲモニーを我が手におさめようとして、懸命になったのもわからぬではないが。しかし、私はあえて、ここで日本は誘致合戦から身を引くべきだと主張してきた。
今回、日本のITER誘致が失敗に終ったことが明らかになったとき、ある核融合研究者から、「結局、あなたのあの記事が計画にとどめをさした」
といわれた。あの記事とは、私が今年3月に「文藝春秋」に発表した「日本の敗北 核融合と公共事業」という記事のことである。
この記事で、私は核融合研究の現状を批判的に紹介し、日本はITERに数千億円もの金を投じるべきではないと主張した。
結局この記事で、財務省の腰が引けてしまい、ヨーロッパとITER誘致の最終的な競り合いの場面になったとき、金の力(拠出金と敗者に与える対価・サービスの額)で押し切ろうとするヨーロッパに、こちらも金の力にものをいわせて、あくまで対抗しようという路線に踏み切ることができなかったのが最大の敗因だったというのだ。
あの記事が関係者に与えたショックは、相当部分、次回に示す異様な写真が与えたショックといってもよい。この写真は、これまで日本のメディアが何一つ伝えてこなかった、核融合研究の別の側面を、実に見事に伝えている。
(この項、次回に続く)
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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