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原油価格高騰劇の背景(経済コラムマガジン)-米ブッシュ政権はほぼ全員が「石油業界のインサイダー」
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投稿者 JAXVN 日時 2008 年 7 月 09 日 05:24:59: fSuEJ1ZfVg3Og
 

「経済コラムマガジン08/7/7(534号)

・原油価格高騰劇の背景

・原油先物市場の投機

原油先物価格の上昇が止まらない。筆者は原油価格高騰劇も最終局面と述べたが、それからさらに10ドルくらい上がっている。これに対して米国の商品先物市場の関係者は「需給関係を反映している」と強弁している。しかしとてもそのような言葉は信じられない。

原油先物市場に流れ込んでいる資金は、3割が実需であり7割が投機資金と言われている。以前はこの割合が逆であった。投機資金そのものは決して大きくないかもしれないが、原油先物市場が小さいため今日の高騰を招いている。さらに投資ファンドによる価格操作も行われていると思われる。

原油先物市場の監視を強化しても効果には限界がある。米国の議会でも、市場の監視強化に止まらず、規制を強めようという動きが出ている。しかし後ほど述べるが、不思議なほどブッシュ政権は、原油を始めとした商品先物価格の上昇に鈍感である。

まず原油先物市場の参加者は「実需家」と「非実需家」に分けられる。「非実需家」は純粋な投機家と見なされ、持ち高が厳しく制限される。一方、「実需家」は「非実需家」に比べずっと規制が緩い。ところがゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった投資銀行が「非実需家」ではなく、「実需家」として活発に取引を行っているのである。

これらの投資銀行は、石油会社と同様に石油の貯蔵タンクを持ち、規制上は「実需家」として見なされているのである。これは明らかに規制逃れの方便である。またこれまでの原油先物価格の上昇局面では、特にゴールドマン・サックスのレポートが大きく影響していた。しかしこれらの投資銀行のレポートが純粋で中立的な予測と考えるのは大間違いである。このように米国の原油先物市場ではほぼ「八百長」に近いことが行われていると思えば良い。

筆者は、石油の需給関係はかなり緩んでいると見ている。これだけ原油価格が上がれば当り前の話である。IAEAも石油の需要予測を下方修正している。さらにサウジアラビアとクウェートは原油増産を表明している。

たしかに産油国の一部には、逆に減産をしようという国がある(言っているだけであり、実際に減産するのか疑問であるが)。需要が伸びないのにサウジアラビアとクウェートが増産を行えば、原油がさらに余ってしまうのである。貯蔵タンクには物理的な限界があり、減産する他はなくなる。このように増産する国がある一方、減産しようとする産油国があり、需要が減ったとしても今後の需給関係は不透明である。

OPECなどの産油国の中では思惑の違いがある。サウジアラビアのように原油の埋蔵量が多い国は、長期的な観点から利益を最大にしようと考える。しかし埋蔵量の少ない国は、価格の高い今のうちに稼ごうという感覚である。以前のDD価格より投機による市場価格の方がずっと高い今日では、この市場価格が維持されている間に売り捌こうという考えである。当面、石油に代わる代替物がない現状では、需要側は市場価格がおかしいと思っていてもこれを受け入れざるを得ない。

しかし筆者は、サウジアラビアがこの現状を「まずい」と思っていると見ている。まずこれだけ石油価格が上がれば、需要の伸びが鈍化する。そして何よりも「まずい」ことは、新油田や代替エネルギーの開発に拍車が掛かることである。もっとも新油田の開発の方はそれほど心配していないかもしれない。新油田の開発はどんどん条件が悪くなっており、サウジアラビアなどはコスト的に対抗できるのである。問題は代替エネルギーの開発である。

・鈍感なブッシュ政権

サウジアラビアのような長期的な観点で石油の適正価格を考えている国は、価格高騰による石油需要の長期低迷こそ避けたいところである。ただ代替エネルギーといっても風力とか太陽光発電はライバル視していないであろう。たとえこれらに技術進歩があっても、あと20年や30年は石油に対抗できるとは思えない。またメタンハイドレートの活用もそれくらいの時間を要する。当面のライバルと目された原子力も反原発運動の高まりで足踏み状態である。

筆者が考える石油に対する有力な対抗馬は、08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」」で取上げたオイルサンドとオイルシェールである。両者の採算ラインは70ドルから80ドルである。しかしこれは採掘・運搬のためのインフラ設備費用を加味したトータルコストである。限界コストなら30ドルから40ドルである。つまり採掘が本格化すれば、採算ラインはどんどん下がる可能性が強い。

一方、新油田の開発はどんどん条件が悪くなっている。開発の権利料が高くなったり、開発地が極地や深海など条件の悪い所となっている。しかしオイルサンドとオイルシェールは、存在する所がはっきりしている。前者はカナダとベネズエラであり、後者は米国である。

まずオイルサンドとオイルシェールの特徴は、とにかく埋蔵量が莫大なことである。オイルシェールなら原油の倍くらい、オイルサンドにいたっては3倍から4倍である。これらの開発が遅れたのは、これまで原油価格が安すぎたからである。オイルサンドとオイルシェールの限界コストである30ドルから40ドルを、原油価格が越えてきたのがやっと5年前である。また抽出される油が重質油ということも開発の障害となっていた。しかしこれだけ原油価格が上昇すれば話は違ってくる。

このようにサウジアラビアなどの産油国の強力なライバルは、オイルサンドとオイルシェールと筆者は考えている。特にオイルサンドからの抽出油の出荷が来年の暮れあたりから本格化する。今日投機マネーに翻弄されている原油価格も、いずれ適正な価格に落着くものと筆者は考えている。

最後に、原油高がこれだけ世界的な問題になっているのに、ブッシュ政権がこれに対して鈍感ということを取上げる。これは筆者だけの感想かと思っていたが、米国本国では誰もがそう思っているらしい。ブッシュ政権に石油関係者が多すぎることがこの原因と見ているようだ。それも原油高でメリットを受ける者ばかりである。

まずブッシュ大統領の選挙資金のかなりの部分はテキサスの石油業者から提供されている。チェイニー副大統領の前職は、大手石油掘削機メーカのハリバートンのCEOであった。またライス国務長官の前職は、石油メジャーのシェブロンの取締役である。極め付けはボールソン財務長官である。長官の前職は、なんとゴールトマン・サックスの会長兼CEOである。これだけ揃っていては、石油の不合理な高値が続くのも不思議ではない。洞爺湖サミットでも投機による原油価格について話し合われるようだが、せいぜい市場の監視強化が唱われる程度と思われる。


来週は参入阻止価格を取上げる。」  

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