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2008年02月17日
日本の環境問題もまた政府の無策から来ているに違いない
昨今の日本の諸問題は、つまるところすべて政府の無策、失策から来ている。私はそう思っている。
例をあげるまでもないだろう。解決不能が明らかになったのにいまだ無駄な作業を繰り返している年金問題はその最たるものである。しかしそれだけではない。
例えばひと頃大騒ぎした耐震偽装事件。あの問題の本質は、建設省が天下り機関に耐震構造審査をマル投げし、おまけに自らつくった耐震構造審査のソフトに偽装し易い欠陥があったために偽装を助長したのだ。その責任を糊塗すべく、事件後に慌てて審査基準を厳しくしたため、今度は建築不況を招いてしまった。官製不況だ。建築業界は悲鳴を上げている。
薬害しかり、冤罪しかり、医師不足問題、限界集落問題などなど、枚挙にいとまがない。もっといえばここまで日本の財政赤字が膨らんだのも、日本の安全保障が米国の手に握られて身動きが取れなくなったのも、すべては与党政治家、官僚の馴れ合いによる無策、失策の積み重ねの結果ではないのか。
そう思っていたら、日本の環境問題さえも政府の環境政策の失政がもたらしたものである事を知った。そう教えてくれているのが中部大学教授の武田邦彦氏だ。
旭化成のサラリーマンからリサイクル研究者を経て大学教授(資源材料工学)となった彼は、17日の朝日新聞「耕論」のなかで、こう言っている。
「・・・この世界(製紙業界)は元々リサイクルがうまくいっていた。ちり紙交換で回収し、製紙会社が混ぜて作り、バランスのいいリサイクルができていた。ところが政府が調達するコピー紙は配合率100%、印刷用紙は70%でないと買わないといっておかしくなった。100%は技術的に難しいのに、そうでないと買ってもらえずごまかしが起きた・・・」
極めつきは、その武田教授が文藝春秋3月号で書いている「京都議定書は日本外交の完全な敗北である」という記事である。私は大きくうなずいた。
彼は言う。地球温暖化問題の発端となった1997年の京都議定書は、米、EC,開発途上国の間の熾烈な国際ゲームの産物であった。そしてそのゲームの最大の敗者は、もっとも環境問題に努力してきた日本であると。
その理由はこうだ。そもそも京都議定書づくりは、あまたある環境対策のうち、地球温暖化ガス削減の数値目標に交渉の焦点が絞られた産物である。その時点で各国の壮烈な利害争いが始まった。
経済成長と温暖化ガス排出量は比例関係にある。新興発展途上国陣営から、「先進国が原因で起きた環境問題になぜ発展途上国の発展が制約されるのか」という猛反発が当然のごとく起きた。その結果排出量削減義務は先進国のみに課されることになった。
もともと削減目標など達成する気のない米国はいち早く抜け、EUは削減義務の基準年を自らに都合のいい90年とすることに成功して切り抜けた。90年までの欧州は、旧東欧圏の統合もあり、省エネレベルは悪かった。それが90年代にエネルギー効率が急速に改善された。だから90年度が基準年にされた時点で、削減義務の目標数値はかなり達成できることになったのである。
ところが既に80年代から省エネを進めていた日本は、そうはいかない。それ以上大幅な改善をすることは容易ではない。実際日本は6%の削減目標達成どころか16%も増加させている。このままでは削減目標達成は不可能だ。
そこで登場するのが排出権取引という緩和措置である。つまり削減達成が困難な国は排出量に余裕のある国から未達成分を購入すればいいという事になった。かくして日本は排出量市場における最大のカモとされることになった。
はやくから省エネに取り組み、環境改善技術も進んでいる日本こそ、公正、公平で効果的な国際的枠組みづくりに指導力を発揮できる国であった。それなのに日本外交の失敗は米国、EC,途上国の利害争いの枠外に置かれっぱなしであった。それに加えて外務省、通産省、環境庁が本会議場で内輪もめする醜態を演じたりしていた。その結果日本だけが不当に大きな負担を背負い込まされる事になったのだ。
武田教授は言う。自分たちに有利な条約を結んで削減義務を負おうとしないEUや、京都議定書の批准を拒んだ米国にくらべ、最後の一国になっても排出量削減にまじめに取り組み、削減できない分については世界中から排出権を買い集めている日本のほうがよっぽど誠実である。
それにもかかわらず日本ほど温暖化問題で評判の悪い国はない。「口ではあたかも京都議定書を守ろうとしているが、継続的な経済成長政策をとっている」、「議定書を守ると表明する一方で、世界から排出権を買って済ませようとしている」などと批判される。おまけにポスト京都のあらたな削減目標をめぐって、数値目標の設定自体に反対した日本は各国から強い批判を浴びた。
これが失政でなくて、なんと言うのか。今からでも遅くない。洞爺湖サミットこそ、日本が不名誉な批判を挽回すべきチャンスだと武田教授は言う。
しかし官僚の上に乗っただけの福田首相には世界を説得させる環境外交は到底望めそうもない。サミット成功のためにも福田首相はサミット前に誰かに替わってもらったほうがいいかもしれない、そういう声が、政局がらみではなく、環境外交を重視する人たちから出てくるかもしれない。
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