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北朝鮮vs.アメリカ (IT & Economics 池田信夫ブログ)
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投稿者 新世紀人 日時 2008 年 1 月 24 日 12:31:13: uj2zhYZWUUp16
 

(回答先: 原田武夫 「騒然としたマーケットの陰で進む米朝接近を追う 」 投稿者 新世紀人 日時 2008 年 1 月 24 日 12:22:10)

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d3c20deb990f4a5d6f11fddd1bd5a3e4

北朝鮮vs.アメリカ   2008-01-22 / Books

手嶋龍一氏は、私の知っているかぎりNHKの政治部でもっとも優秀な記者だったが、彼のフリーになって最初の作品『ウルトラ・ダラー』はいただけない。北朝鮮の偽ドル印刷というネタに意外性がない上、ストーリー展開が平板で、落ちもつまらない。何より小説という形をとったことで、彼の取材した情報が台なしになっている。

本書はそれを枕に使いながら、まさに小説より奇怪な偽ドル事件の実態を描いている。私も奇異に思ったのは、2005年にバンコ・デルタ・アジア(BDA)が北朝鮮の資金洗浄を行なっていると主張するアメリカ政府の要求で資産凍結され、それに対して北朝鮮が抗議したとき、翌年ベルリンで2ヶ国協議を行ない、そのあと2007年の6ヶ国協議でアメリカが急に弱腰になったことだ。「テロリストとは交渉しない」はずのブッシュ政権が、テロ国家と名指した国と協議し、「核査察は金融制裁を解除しないと認めない」という筋違いの要求をのんだのは奇妙である。何かアメリカ側に弱みがあったとしか考えられない。

アメリカ政府がBDAを封鎖したのは、北朝鮮の印刷している精巧な偽札「スーパーノート」を流通させているという容疑だったが、そういう証拠は強制捜査でも出てこなかった。むしろスーパーノートほど精巧な偽物を北朝鮮の技術と資金力でつくることは不可能だ、というのが専門家の一致した意見だ。特にドイツの『フランクフルター・アルゲマイネ』のベンダー記者の分析によれば、
2006年、国際刑事警察機構に各国の専門家60人が集まってスーパーノート問題を協議した場で、アメリカ政府はそれが北朝鮮製であると主張したが、説得力のある証拠を何も示すことができなかった。

スーパーノートは、最新の検知器で紫外線か赤外線を透過して検査しないと判別できない。100ドル札の用紙は特殊なもので、偽造防止用に微細な糸が混入され、1/42000インチの文字が印刷されているが、スーパーノートはこれらをすべて忠実に再現している。北朝鮮の紙幣にみられる貧弱な印刷技術では不可能だ。

印刷技術もきわめて特殊で、印刷機は厳重な監視下に置かれているので、部外者が入手することはできない。インクも見る角度で色の変わる特殊なもので、その製造法も秘密である。

スーパーノートが北朝鮮からの送金に使われたことは事実だが、それは欧州に配備された最新の検知器ですぐ発覚し、今のところ5000万ドルしか見つかっていない。彼らがこれを資金源にしようとしたのなら、なぜアジアで使わないで、わざわざ最新の検知器のある欧州で、しかも足のつく形で使ったのか。
同様の指摘は、他の専門家からも行なわれており、スーパーノートを印刷したのが北朝鮮ではないことは、ほぼ確実と思われる。北朝鮮が強気に出て、アメリカが腰砕けになったのは、これが原因だろう。では、だれが印刷したのか。ベンダー氏の仮説は、それはCIAだという驚きべきものだ。偽札を北朝鮮につかませ、それを謀略に利用しようとしたというのだ。

ここから先は、著者の大きな構図の話が展開されるので、あとは本書を読んでいただくしかないが、私の印象では、このCIA説はおもしろいが、決定的な証拠に欠ける。たしかにCIAは、これまで海外で数多く違法な工作を行なってきたが、スーパーノートはかえってアメリカ政府を窮地に追い込んでしまった。もっともCIAの謀略が失敗続きだったことも事実だが・・・

いずれにせよ、北朝鮮担当の外交官だった著者の分析は、『ウルトラ・ダラー』や、それを受け売りしている佐藤優氏(彼はロシアの専門家にすぎない)の話よりはるかに説得力があり、おもしろい。最近の、佐藤氏を初めとするいい加減な「インテリジェンス・ブーム」に警鐘を鳴らす意味でも重要だ。

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