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米国による占領がもたらしたイラク経済の崩壊 2006/12/19
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【バグダッドIPS=ダール・ジャマイル、アリ・アルファデリ、11月29日】
イラクでは米国主導の100%民営化を目指した経済政策、治安崩壊、電気・燃料不足、インフレ高騰の影響を受け、企業のほとんどは破綻した。
外交政策の専門家で米国のInstitute for Policy Studiesの客員研究員、さらに『The Bush Agenda: Invading the World, One Economy at a Time』の著者でもあるアントニア・ユハズ氏は「イラクは米国が長年推し進めてきた『新外国投資法』を制定した」と以前、IPSの取材に応じて語った。
「同法は、ポール・ブレマー前文民行政官が暫定連合政府当局(Coalition Provisional Authority: CPA)の在任期間中に出した100の『ブレマー指令(命令)』に基づくものである。この法制定の結果、米企業は巨額の利益を手にすることができたのだ」
新たな法律には、イラクで活動する米国企業が得た全ての収益に対する本国への送金許可、イラクにおける(銀行を含む)事業の100%外資による所有、イラク国有企業の民営化、米国の請負業者や兵士に対するイラクの法律からの完全免責の適用、イラク企業を復興事業から排除する「(外国企業の)内国民待遇」などがある。その一方で、米国政府は500億ドルをイラクで活動する約150社の米国企業に資金提供した。
ユハズ氏は「イラクでは米国による経済的『侵略行為』が始まり、多くの多国籍企業はイラクの民主化を目指した。そしてブレマー指令によりこれが実現された。つまり(経済システムの確立や整備ではなく)抜本的な制度の見直しの中で米国企業に莫大な利益が流れたことになる」と説明した。
これとは対照的に占領以前のイラク政権下では、企業に対する国からの援助が盛んに行われていた。社会主義体制の中でイラク政府は、国民に工場や職場を設立する機会を与え、多くの面で彼らを支えてきた。
企業は低金利の貸付や外資の導入を認められ、会社設立には国有地が与えられた。行政法により事業活動の促進が図られた結果、1970年代や1980年代にはイラク系の中小企業が急速に発展した。
占領前のイラクでは、軍事産業と共に石油製品・リン酸塩・セメントを扱う大手企業は全て国有であった。そしてイラクに民主主義が根付き始めるにつれて、国家管理の下で多国籍企業による工場の設立が許可された。
しかしこの著しい経済成長も、(米国の支援を受けた)国連が対イラク経済制裁を発動した1990年代になると後退局面に入っていった。経済制裁はイラクの貨幣価値を完全に損なわせ、国民は物品やサービスを得ることができなくなった。
そして米国主導のイラク侵攻が本格化すると、ほとんどの工場が操業を停止し、同国の経済状況は益々悪化した。多くの工場は爆撃を受けたため、労働者は自宅待機を余儀なくされた。一部には略奪行為により2度と復旧できなくなった工場もある。
ある民間企業では持ちこたえることができたものの、治安問題、電気・燃料不足、驚異的なインフレ率(70%)、輸送における安全確保の不備により、多くの企業は閉鎖に追い込まれた。現在、公式の失業率は50%を超えているとしているが、実際にはこの数値以上に酷いとイラク国民の多くは見ている。
多くの企業や工場の所有者は持っているものを全て売り払い、近隣諸国へ逃げ出した。このような行動を取らなかった人々は、現在後悔している。
アッバス・アリは「私が経営するプラスチック製品の工場には、かつて30名以上の従業員が働き、占領前には会社の業績も良かった。しかし現在は、工場を稼動させることは不可能になったため、以前していた学校の教師に戻らなければならなくなった。工場の仕事では20万ドルを稼いでいたが、現在の仕事の給料はこれとは比較にならない。今では、なぜあの時、(現在シリアで安定した生活をしている同僚たちのように)全ての私物を売って逃げなかったのかと悔やんでいる」とバグダッドでIPSの取材に応じて語った。
しかし現在も製造を続けている製鉄工場や繊維工場もある。
カイズ・アル・カザールはファルージャ近郊、バグダッドの西60キロの場所に複数の製鉄工場を建設した。現在は再稼動に向けた準備をしている。彼は「我々は国際水準に合わせるため、最高級の製造設備を海外から輸入し、近代的な建物の建設費用として数百万ドルの資金を投じた」とIPSの取材に応じて語った。
「占領以前には我々にも仕事はあったが、現在でも混乱が続くイラク国内で仕事を得るためには、かなりの苦労が伴うのだ」
同国の調査では、製鉄業における失業率は85%にも上るという。一方仕事に従事している15%の多くは、(何も製造しなくても賃金が支払われる)国有の工場で働く労働者である。
バグダッド郊外の国有セメント工場の経営者は「我々はイラクで仕事を続けていくつもりであるが、実際の現状は極めて厳しい。奇跡が起こるのを待っているかのようだ」とIPSの取材に応じて語った。
現在イラクが直面しているビジネスや経済の破綻は、首都バグダッド周辺の市場にも現れている。
バグダッド中心部にあるショルジャ市場では、国産商品の約80%がイラク侵攻・占領に先立って流通された。この市場は狭い道路に数千軒の店舗がひしめく市内最大のマーケットである。
プラスチック製品の流通業者ジョハール・アジズは「ここには『イラク・ブランド』は存在しない。占領以前の経済が安定していた頃とは異なり、現在のイラクでは、我々商売人は品質の悪い輸入品を売ることしかできない。従って人々はその商品を仕方なく買っているのだ」とIPSの取材に応じて語った。
タイヤが売られているサマラ市街地や果実・野菜のマーケットが並ぶジャミーラ市場、パソコン部品の専門店街シナーア地区といった市場でも状況は同じである。
サドーン通りやラシード通り沿いにある大型ショッピングセンター、かつては高級品ばかりを扱っていたマンソール地区やカラダ地区も、現在はゴーストタウンと化している。
バグダッド市内カラダ地区で電化製品の店を経営しているドゥライド・アブドラは「昔は毎日少なくとも16時間は店を開けていたが、今は治安悪化の影響により営業時間は僅か2・3時間である。我々は、身代金目的や宗派対立による誘拐や政府軍が支援するギャング集団による店の襲撃など常に多くの脅威に晒されている」とIPSの取材に応じて語った。
一方、(かつて小さな繊維工場を所有していたが破産した経験を持つ)ある実業家は「米国によるイラク占領支配は、イラク経済に悪影響を及ぼすとは思っていなかった」と述べた。
「イラク統治のモデルとして第二次世界大戦後の米国による日本占領は、イラク人実業家の間で話題になった。我々は米国のイラク占領を全面的に否定してきたが、ビジネス一般、特に産業分野においてはプラスになっているはずだ。イラク経済が破綻をきたすことになったのは『政治的な要因』があったのだ」と語った。(原文へ)
翻訳=松本宏美(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩
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(IPSJapan)
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