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ウォール街の悪しき輸出品「リーマンのアドバイス」−ドイツの深い爪跡
10月28日(ブルームバーグ):ドイツ・フライブルクの中学教師らは、ザクセン州の財政黒字で教員を増やすことが可能になり人手不足が緩和されると期待していた。
ところが、ザクセン州立銀行(LB)が米国の住宅ローンを裏付けとした仕組み金融商品に手を出した結果、ザクセン州は28億ユーロ(約3500億円)の負担を強いられる恐れが出てきた。ザクセンLBはウォール街が組成・販売した資産担保証券(ABS)とデリバティブ(金融派生商品)を、自己資本の27倍に相当するほど購入していた。ザクセン州は同LBの資産に関して保証を約束している。
フライブルクの学校で数学と物理を教えるウォルフガング・レンナー氏(55)は「彼らはザクセン州の教師たちが必要としていた金をギャンブルに使ってしまった」と話す。ザクセン州で教員を採用したり新しい道路を造ったりするのが難しくなったことは、数学の先生でなくても分かる。
ザクセンLBは2007年8月に破たんの危機にひんした。米投資銀行が住宅ローンを証券化した「有毒」商品をどれほど幅広く販売していたかを示す事例だ。これは、その後に現実となったさらに悪い事態の前触れでもあった。結局、ドイツも米国もアイスランドも、自国の金融機関を一部管理下に置き、公的資金を注入する羽目になった。
ドイツ政府が商業用不動産金融で同国2位のヒポ・レアルエステート・ホールディングを救済した2日後、メルケル首相は米国の「無責任」な融資が世界の金融システムへの信頼を破壊したと指摘した。
積極投資
政府保有で信用格付けが高く調達コストが低いドイツの州立銀行は、ABSに積極的に投資し、世界で6500億ドル超の米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連評価損・貸倒損失のうち220億ドルを出した。
ドイツの警察・検察当局は8月12日の朝、ザクセンLBの元役員5人の自宅とオフィスを家宅捜索した。アイルランド警察当局も同行のダブリン事務所を捜索した。同行はその約1年前に、一連の商品の信用格付け引き下げとそれに伴う追加担保要求で破たん寸前に追い詰められた。他行から170億ユーロの緊急支援も受けたが、結局ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)の肝いりでバーデン・ヴュルテンベルク州立銀行(LBBW)への身売りが決まった。
事情に詳しい複数の関係者によると、この捜査の鍵となる人物の1人はザクセンLBの資本市場関連事業の責任者としてダブリンに拠点を置く投資ビークル「オーモンド・キー・ファンディング」設立を手掛けたシュテファン・ロイスデル氏(53)だった。同氏が部門を率いた2年間に、ABSへの投資は2倍以上の約180億ユーロに達した。
ダブリン
ザクセンLBは1999年に、クラウスハラルト・ウィルジング氏の指揮の下、ダブリン子会社「ザクセンLB欧州」を設立し資本市場事業に参入した。同行は、05年7月に州立銀行への州政府保証が廃止された後のことを懸念していた。政府保証がなくなれば資金調達コストが上昇する。事情に詳しい関係者2人によると、同行が起用したコンサルタント会社のマッキンゼーは、州政府保証がなくなることを理由に資本市場事業への積極参入は得策ではないと警告した。
だが、ザクセンLBの幹部はこの警告を無視し、ダブリン事業を拡大。ABSを購入するため短期証券を発行した。ウィルジング氏は、利益拡大への圧力が強かったと振り返る。ザクセンLBはこのためにリーマンの助言をあおぎ、2004年初めにオーモンド・キー・ファンディングを設立した。これが後に致命傷をもたらすことになった。オーモンド・キーの存在理由は、コマーシャルペーパー(CP)を発行して資金を集めることだった。同社はこの資金をABSに投資する。ABSの売り手はリーマンやドイツ銀行、英バークレイズなどだった。
ザクセンLBはさらに、オーモンド・キーに最高の信用格付けを取得する作戦をリーマンとともに練った。LBへの州政府保証がなくなる05年には、ザクセンLBの格付けはドイツのLBの中で最低となり、オーモンドの格付けにも影響を与えると見込まれていた。そこで考案された解決策が、ザクセン州が2015年までオーモンドのリスクを保証するという案だった。
最高格付け
格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は04年6月に、オーモンド・キーに、短期格付けの最上級である「A−1+」を付与した。ザクセン州による保証が高格付けの理由だった。こうして舞台が整い、オーモンドはABS保有を増やし、05年末には83億ユーロと、04年6月の10億ユーロから拡大していた。
投資拡大は続いた。07年春に、ロイスデル氏はバークレイズ・キャピタルを起用し、ストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)ライトと呼ばれる別種の投資会社を設立した。SIVライトの投資先は住宅ローン担保証券(MBS)が中心だった。米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンのデフォルト(債務不履行)増を示すデータが出始めたのは、ちょうど同じころだった。
ザクセンLBのSIVライト「ザクセン・ファンディングI」は07年5月に米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスから最高の短期格付けを得た。同ファンドは集めた資金25億ドルをすべて、サブプライムを含むMBSに投資した。
ベアー・スターンズ
同年7月には、サブプライムMBSを中心に投資していたベアー・スターンズのヘッジファンドが破たん。世界の金融危機の引き金を引いた。
ザクセンLBは同年8月10日に「流動性は十分」と発表したが、16日には格付け会社フィッチ・レーティングスが同行の格付けを引き下げ方向で見直すと発表。オーモンド・キーがその理由だった。17日には他の政府系銀行がザクセンLBに170億ユーロを緊急融資し、オーモンドの債務返済資金を提供した。S&Pは同月20日にザクセンLBの格付けを引き下げ、「投資家の信頼回復の必要性」を指摘した。
しかし、ザクセンLBにその時間はなかった。数日後、バークレイズがザクセンLBのファンド2社について追加担保を求めると警告。22日にはこれらのファンド資産の売却で2億5000万ユーロの損失が出ることが分かり、ザクセンLBは身売り先を模索し始めた。
ザクセンLB設立時のザクセン州首相だったゲオルク・ミルブラット氏は「ザクセンLBが支払い不能に陥れば欧州の銀行業界全体に影響が及ぶところだった」と述べた。この説明はその後、世界のあちこちで繰り返される決まり文句になった。緊急会議が開かれ、26日の午後2時半にLBBWへの身売りが決まった。
LBBWはその4カ月後に合意について消極的になり、ザクセン州はオーモンドとザクセン・ファンディングの資産を引き取った新ファンドの損失を補てんするため最大28億ユーロを負担することを約束した。
またリーマン
ザクセン州の税金が使われることになるのか、同州が今年教員を増やすことができるかどうかは、住宅ローンの焦げ付き具合とそれを裏付けとした資産をどの程度の価格で処分できるかにかかっている。ザクセン州とLBBWは今年6月に、資産整理のアドバイザーを起用したが、起用されたのはオーモンド設立を助言したリーマンの資産運用部門だった。リーマンが破たんした今、同州とLBBWは新たなアドバイザーを見つけなければならない。
ヒポ・レアルエステートの救済も、ダブリンに拠点を置くデプファ・バンク部門が短期資金調達に行き詰まったことが理由だった。ヒポ・レアルエステートの救済合意後、ドイツ政府は金融機関への資本注入と債務保証で最大5000億ユーロを拠出する危機対策をまとめた。同国の国内総生産(GDP)の約20%に相当する大規模救済となる。
(明日は第3話「日本の銀行の悪夢」です)
更新日時 : 2008/10/29 13:11 JST
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003001&sid=azOgO49iI0cc&refer=commentary