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【90年代日本と似る米信用危機】 ABNアムロ、ロバート・リンド氏(08/2/22)
ABNアムロ欧州担当主席エコノミスト
ロバート・リンド
米国の景気は2007年末に急減速し、今年はリセッション(景気後退)に陥るかもしれないとの懸念が高まっている。
市場関係者の中には、米国の景気低迷は長期間に及ぶ可能性があると指摘する向きもある。
米国が現在抱えている問題と1990年代に日本が陥った債務デフレには驚くほど似通った点がある。
筆者はそうした類似点を認めると同時に、重要な相違点のあることも述べたい。
最も重要な違いは、米国の政策当局は1920〜30年代に世界大恐慌を引き起こした政策の失敗を学んでいることである。
彼らは当時の状況の再現を避けようと決心している。
筆者は90年代に日本がデフレに突入した3つのきっかけを指摘したい。
第1は、株式および不動産市場で起きた資産バブルの崩壊だった。
01年までに、株価と土地の価格はバブルが膨らむ以前の85年の水準まで反落した。資産価格の暴落は総需要の低迷につながった。
第2は、後知恵になるが、マクロ経済政策が厳しすぎたように思える。公式予測では、90年代半ばには景気が回復し、インフレが進むとみていた。
しかし、こうした予測は楽観的すぎることが判明し、結局、予期せざる引き締め政策につながった。
第3に、景気が低迷しているときに、2つの外部ショックが経済を襲った。1つはいわゆるアジア危機で、日本の輸出品に対する需要は大きく落ち込んだ。
いま1つは米ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の破綻である。LTCMショックがきっかけとなり、劇的な円高が起きた。
ひとたび日本がデフレに突入すると、消費を喚起するための政策は非常に効果が表れにくくなった。
決定的だったのは、長期的な収入の伸びに対する民間セクターの期待が悪化し始めたことだ。
家計および企業は物価の下落が持続すると考えたので、実質金利は消費回復を促進するには高すぎた。
円が大幅下落すれば、1つの解決策になったかもしれない。
円安が輸入物価とインフレ期待を押し上げたかもしれないからだ。
しかし90年代には円高が持続し、問題を複雑にした。
さらに、デフレが厳しさを増すとともに、日本の銀行システムはとどまることのない損失と不良債権の増大にのたうった。
90年代に日本が経験したことと、現在米国が抱えている問題には2つの明確な類似点がある。
第1に、米国では住宅価格が急速に下落している。
2年前、筆者は米国の住宅価格は賃借料よりも15%高いと推定していた。
こうした過大評価を正すには価格の下落が不可欠だが、今後1年間に名目価格は10%しか下がらず、深刻な価格暴落はないとみている。
第2に、米国の銀行システムも、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の焦げ付きによる巨額の損失により、深刻な破綻の危機に直面している。
こうした事実上の信用危機により、家計および企業の財務状況は厳しいものとなっている。
こうした問題を正しくとらえることが重要だ。
筆者は資産価格の暴落が続くとは考えていない。さらに、米国の銀行システムはさらなる損失を認めて評価損を計上するが、資本増強にも手をつけ始めるとみている。
結局、このプロセスは比較的速やかに進み、銀行は通常の貸出業務に復帰することができると考えている。
こうした見通しの基礎には重要な要因がある。
米政策当局はできるかぎり速やかに景気を回復させる決意でいると筆者は信じている。
この数カ月の間に、政府は景気刺激策を発表しているが、これが景気回復に寄与するだろう。
さらに重要なのは、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利の大胆な引き下げを実施したことだ。
FRBが先制的な金融緩和を実施したのには十分な理由がある。
90年代には、ほとんどの中央銀行はテーラールールにのっとって金融政策を実施した。つまり、政策当局は景気が減速したとき、あるいはインフレ率が低下したときに金利を引き下げた。
最近、FRB高官はこのように主張する。
すなわち、政策当局は、もし資産価格の下落が経済に悪影響を与えると思われるときには、果敢に予防的措置を講じなければならない、と。
FRB議長のベン・バーナンキ氏は、資産価格と実経済の間で悪循環が起きる可能性があると警告した。
資産価格が景気減速を予期して下落すれば、総需要が減退し、それが資産価格のさらなる下落を招く。
特に、FRBは08年初頭の株価急落を目の当たりにして、住宅および銀行問題が経済全体に波及する恐れがあると考えたのであろう。
結論ははっきりしている。
FRBは、金融市場にストレスの兆候が表れていないか目を凝らしており、経済指標や統計にはあまり注意を払っていない。
FRBには、政策の効果を測るものとして、2つの具体的な目標があるとみる。
第1には、イールドカーブ(利回り曲線)の傾斜が増すことを望んでいるのだ。
1月下旬に実施した大胆な利下げがイールドカーブの傾斜を高めるのに寄与した。
これが銀行の自己資金増強を可能にし、景気回復期待を高めるのにも寄与するだろう。
第2に、FRBは株価の下落を止めたいと考えている。
もし株価が大きく下落すれば、民間部門のバランスシートはさらに傷つき、景気低迷が長引く恐れが高まるからだ。
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(コメント)
この文の最後のFRBの2つの目標の意味について説明します。金融についての知識が無いと本当の意味が分からないと思いますので・・・・・・
>第1には、イールドカーブ(利回り曲線)の傾斜が増すことを望んでいる・・・
この意味は長期金利と短期金利の差が大きくなる事を意味します。一般に金融機関は短期で調達した資金を長期で貸したり、債券の購入に当てる事で「利ざや」を稼ぎます。
つまり短期と長期の金利差の拡大は米銀の利益がより大きくなるように誘導するという意味です。
>第2に、FRBは株価の下落を止めたいと考えている・・・・・
株価の下落は時価会計を取っている企業のバランスシートを直撃し、損失計上を余儀なくされます。特に金融機関が保有する株式について損失を計上(これも評価損)するような状況を招く事は「貸し渋り」の蔓延を招き、ひいては企業活動や消費の低迷を招きます。
※つまり、FRBは「住宅バブル」のツケは「株式バブル」で払う事にしたと言う事です。
結局、バブルのツケはバブルでしか払えないと言う事・・・・・・・・