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超電導を利用した磁気浮上式リニア中央新幹線建設への動きが年末に活発化した。国土交通省は、技術的に可能という地形・地質調査報告書がJR東海から提出されたのを受けて12月24日、着工の前提として「輸送需要と輸送力」「技術開発」など4項目の調査を同社に指示した。JRは松本正之社長が翌25日に山梨県、26日に長野県を訪れ知事と会談するというすばやい動きを見せている。
26日には葛西敬之会長が、日本記者クラブで記者会見した。2025年の営業運転開始を目指し、東京−名古屋間を結ぶ中央新幹線を全額自己負担で建設する考えをあらためて明確にするとともに、計画の内容を詳しく明らかにしている(2009年1月1日ニュース【JR東海会長中央新幹線の実現に自信】参照)。
磁気浮上型リニア鉄道は、従来型の鉄道では不可能な高速化が可能で、振動や騒音が少ないなど多くの利点を持つ。省エネルギーで、二酸化炭素(CO2)排出削減の効果も期待されている。既に上海で営業運転している磁気浮上式リニア鉄道「上海トランジット」があるが、これは通常の磁石を使った方式だ。JR東海の中央新幹線は、超電導磁石を使った初めての磁気浮上式リニアモーターカーで、「JRマグレブ」と呼ばれる国産技術、という大きな違いがある。
記者会見で葛西会長は、ドイツが開発した「上海トランジット」に対する「JRマグレブ」の技術的優位さを列挙した。磁力が弱い通常の磁石を使う上海トランジットより、車体を軽くできる。上海トランジットが5両編成なのに対し、16両編成が可能。最高営業速度も時速430キロであるのに対し、500キロ以上(試験運転では581キロを達成)出せる。さらに加速性能を比べてもはるかに優れている、などの長所を強調した。
さて、葛西会長が挙げた中央新幹線建設の意義の中に、日本の製造業、建設業の競争力向上と、世界に21世紀型の陸上輸送を波及させることによる地球規模の貢献というのがある。外国への展開について記者からの質問に対し、「まずは日本で実用化してから」と言いつつ、外国展開する場合の相手先の条件を具体的に列挙した。外国にこの方式を持っていくには鉄道という性格上、長期間の関与を考える必要がある。20-30年間政治的に安定が期待できる国で、結んだ契約を順守することが法律できちんと担保されている。さらに知的所有権が尊重される、などの条件を満たす国でなければ、との考えを明らかにした。
「中国は条件に合っているか」という再度の質問については「難しいと思う」と否定的な考えを示したうえで、「希望を持てるのは米大陸」と興味深い答えをしていた。
日本が開発した技術の海外展開については「ガラパゴス化」という比ゆがよく聞かれる。国内市場だけをにらんだ製品をつくることに力を注ぐ結果、国際市場では完全に遅れをとってしまっているという意味だ。携帯端末が典型的な例として挙げられている。これに対しては、iモードやおサイフケータイの生みの親として知られる前エヌ・ティ・ティ・ドコモ執行役員で現・ドワンゴ取締役、夏野剛氏のように異論を唱える人もいる。
日本の技術力は高い。悪いのは、よいものを作りさえすれば売れるはず、という考え方。営業力、ブランド力などをきちんと整えないと国際市場では勝てないのに、その努力と挑戦を日本のメーカーは怠ってきた、という主張だ(2008年12月19日インタビュー・夏野剛氏【>活かされていない日本の技術力】参照)。
携帯端末と超電導磁気浮上式鉄道では、製品やユーザーの規模が全く異なるようにも見えるが、通信、交通というそれぞれの国の基幹システムにかかわる点で大きな共通点がある。日本のメーカーの携帯端末が海外でさっぱり売れないのは、日本製端末の機能がよすぎるからといった技術的な理由ではない、と夏野氏は言っている。技術で優位にあるにもかかわらず、通信が国の認可事業であるのに、それぞれの国の政策決定者や通信事業者に対するロビー活動や営業活動を日本のメーカーがしっかりやってこなかったため、というわけだ。
葛西会長が目指す「21世紀型の陸上輸送システムの世界への波及」が、果たして実現できるだろうか。日本は技術立国を目指すべきだと考える人々なら、大いに気になるところだろう。記者会見の後、あるベテランジャーナリストから次のような見方を聞いたのだが…。
「葛西会長が米国といわず米大陸と言ったのは、ブラジルを想定しているからだろう。ブラジルは、日本のデジタルテレビ放送方式を採用した唯一の国でもあるし」