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(回答先: なぜ現米大統領は中東戦争継続に固執するのか—キリスト教右派の終末思想との関連 落合栄一郎(ベリタ) 投稿者 近藤勇 日時 2007 年 4 月 29 日 13:34:52)
【差し替え記事】「迫る米の対イラン攻撃 対テロ戦争は第2段階に突入した」と分析 板垣東大名誉教授
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200704040052073
米国、イスラエルによるイラン攻撃という最悪のシナリオが現実化しつつある。中東問題の第一人者である板垣雄三・東大名誉教授は新たな米中枢同時テロ(9.11)発生を口実にして米国が対イラン攻撃に踏み切れば、世界全体を巻き込み、人類は破滅への道を辿ると危惧した。米国は来年大統領選を控えており、任期満了で退陣するブッシュ政権には対イラン攻撃への「タイムリミット」が刻一刻と迫っている。イラン沖のペルシャ湾では米、英、イスラエルの海軍艦船が結集し、すでに臨戦態勢が敷かれた。一方、イランと軍事協定を締結しているロシア、中国はイラン攻撃に備えた軍事演習を同盟国と繰り返しており、一触即発の事態を迎えている。さらに背後には石油利権が見え隠れする。対イラン攻撃は、カスピ海の石油をイスラエルへパイプラインで供給することを可能にする。「今求められているのは、さまざまな抗議行動だけではない。事態の根底にあるパレスチナ問題に目を見据えない限り、対テロ戦争の本質は見抜けない」と警告している。都内で3月31日に行われた同教授の講演内容を報告する。
▼ 土台に絶えずパレスチナ問題
対テロ戦争の根源は、少数派だったユダヤ人に有利に土地を配分した1947年のパレスチナ分割、パレスチナではナクバ(大災厄、破局)と呼ばれる48年5月のイスラエル国家誕生に遡る。67年にイスラエルが、ガザ地区やヨルダン川西岸など周辺地域を占領し拡大した。この第3次中東戦争から40年が経ち、それ以降、国際社会は「中東に和平を」と唱えてきた。しかし実際はパレスチナ問題に人々は聞き飽き、関心は薄れている。この問題を引き伸ばそうとしているのが対テロ戦争である。
2000年9月末に、イスラエルがエルサレムの聖地へ強行突入し、パレスチナ人の第2次インティファーダ(イスラエルによるパレスチナ軍事占領に対する2度の民衆蜂起)が起きた。しかし、国際社会は肩をすくめて傍観しているだけだった。中東を覆う絶望が、近いうちに大惨事を起こしうることを私はこの時から警告していた。そして9.11が起こる。
▼ 「対テロ戦争」とは
対テロ戦争は「緊急非常事態を常態化して終局を予定せず、高度先端技術を駆使し、戦場と手段を限定せず、国際法秩序やチェック・アンド・バランス体制の拘束を脱し、グローバルな最終戦争を装い、略奪的植民地主義の本質を隠し通そうとする制服戦争」と定義した。
さらに、対テロ戦争の特質として1.植民地国家イスラエルを守るためのグローバル戦争である 2.パレスチナ問題の不公正に抵抗する人々をテロリストと断定し、その「悪者」達を根絶やしにしようとする制服戦争の性格を持つ 3.その陰では、パレスチナ人への民族浄化を野放しにして、イスラムこそが「テロ」を産む温床と決め付ける 4.世界の至る所で宗教・宗派対立を扇動し、人々の目を本質からそらす 5.泥沼の過程を経て増殖する傾向にあり、人類の「最終戦争」というキャッチコピーを大々的に掲げながら、9.11テロのような衝撃的な節目をきっかけに開始されることが挙げられる。
▼ 20世紀の二番煎じから見えてくるもの
(ナチスのユダヤ人大量虐殺である)ホロコーストをある格好でコピーしたのが9.11と言える。イスラエルは植民地主義終焉の時代に作られた植民地国家で、建国の背景には、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺を反省する国際社会の償いの意図もあった。中南米諸国を除けば、革命と呼べる動きがなくなったかに見える現在、米の新保守主義者(ネオコン)が行っている単独主義の「革命」が対テロ戦争となった。こうしたことを念頭に入れて20世紀史と現代との繋がり、そして世界全体の動きを視野に対テロ戦争を考える必要がある。
イラクの内戦は、スンニ派とシーア派の対立として報道されている。日本のマスコミは平然と「イラクは内戦状態にある」と伝えている。しかし、米国が宗派対立を煽る集団を雇ってやらせているのが実態で、その化けの皮は剥がれつつある。「宗教が違ったら人間は喧嘩する」という考え方は日本社会に広く浸透している。実はこれは「キリスト教徒にあらずんば人にあらず」との西欧起源の考え方に由来する。人間を絶えず対立に導こうとする扇動が、宗教・宗派戦争である。パレスチナ問題もこの延長線上にある。
▼ 日本を変えた9.11
日本は9.11で米国を全面的に支持したため、イスラム社会の日本への信頼は失墜した。バグダッドがモンゴル軍によって陥落した13世紀に日本では日蓮が立正安国論を説いた。それはアジアの東と西で起きていることがそれぞれどう繋がっているのか、きちんと危機として考える必要があるとの主張だった。
独と伊は米国CIAが秘密の収容施設を作り、囚人の移動を他国で勝手にやっていたことに対し、要員を逮捕し告発、CIAによる拉致事件が両国で問題になっている。日本は拉致問題を解決するために、世界の中で一番拉致をやっている米国に頼らなくてはならない。
さらにイラク戦争に協力しないと、北朝鮮による脅威から米国に守ってもらえないという考えが浸透している。こんな情けない考えで政治が動いてしまうのか。
▼ 対テロ戦争は第2段階に
06年1月、イスラム抵抗運動(ハマス)は、イスラエル、欧米の干渉にもかかわらず、パレスチナ自治評議会選挙で圧勝した。これを受けて、国連とイスラエルが、ハマスの勝利は中東和平の弊害になるとして、パレスチナへのさまざまな援助を停止した。これは人々に医療サービスの低下、飢餓、壁によるゲットー状態をもたらした。さらにガザ、ヨルダン川西岸に居住、あるいは収監中の議員らの面会は許されず、議会も停止状態となった。
ハマス圧勝で対テロ戦争は第2段階に入った。欧米では新聞社がムハンマド風刺画を一斉に載せ、反イスラムの風潮作りがセットされた。そしてイスラエルはハマスと手を組むヒズボラ撲滅を目指し、昨年夏にレバノン戦争を起こした。徹底的にレバノンを爆撃し、社会インフラを破壊し、ヒズボラを孤立させるのが狙いだった。同時にヒズボラを支援するイランとシリアを打倒する目論見もあった。だがイスラエルはヒズボラに勝てなかった。
▼ 対イラン攻撃と関連するBTCパイプライン
9.11とそれに続く対テロ戦争の結果、石油メジャーの英BPと米シェブロンはBTCパイプライン建設に成功した。日本企業も参加している。バクー(アゼルバイジャン)、トビリシ(グルジア)、ジェイハン(トルコ)を経由する、カスピ海から地中海にまで至るパイプラインである。現在、BTCパイプラインをジェイハンからアシュケロン(イスラエル)までつなぐ構想が練られている。これが成功すると、カスピ海から紅海まで石油が輸送でき、アジアの石油市場へ送ることができる。石油のほか、電力、天然ガス、水も運搬される。
パイプラインを延長する背景には、イラク、アフガニスタン、サウジアラビアの政情不安がある。延長構想が実現すると、イスラエルはアジアの巨大石油市場で大きな発言権を持つことになる。だが同時に、チグリス・ユーグラテス川という人類発祥の地で想像を絶する環境破壊が起こるだろう。
イラクに続き、イラン、湾岸一体で収拾のつかない政治的混乱が起こると、ペルシャ湾、ホルムズ海峡に代わり、東地中海、紅海、(イエメンとエリトリアに囲まれる)バーベル・マンデブ海峡のルートが重要になってくる。これは対イラン攻撃が起これば確実に起こることだ。するとイエメン、ソマリア、スーダン、エチオピアの情勢も連動してくる。
現在、ユーラシア大陸では上海協力機構(中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンが01年に結成)を中心としたさまざまな軍事演習が行われ、ロシア・中国は米の対イラン攻撃に備えている。一方、ペルシャ湾、東地中海では、米、英が率いる北大西洋条約機構(NATO)、イスラエルの海軍がひしめき合い臨戦態勢にある。何かの拍子で、ある軍事衝突が世界規模の戦争にまで展開しないとは言い切れない。このような状況が昨年後半から現在にかけて進行している。
▼ 想定される最悪のシナリオ
北朝鮮の核保有問題を切り離し譲歩する一方で、イランの核開発計画を誇張する背景には、米国が「いかにイラン攻撃をやりたいか」という本音がある。イラクの中で米国が頼りにしている人物がイランと密接な関係を持っている。イラクを安定させるにはイランの協力が不可欠であるにも関わらず、イラン攻撃を示唆するのは、イラクの安定を望んでいないことが明白だ。
北イラクのキルクークに関し、クルド人問題を抱えるトルコがイラクに軍事介入する可能性があり、それが対イラン攻撃の引き金になりかねない。イラクは消滅し、アフガニスタンは分解、イラン、サウジアラビアも解体、中東からアジア、アフリカにかけて大動乱が起こり、ロシア、中国に波及する可能性がある。エネルギー危機は避けられず、ホルムズ海峡を通じての石油輸送は止まるだろう。日本は明日からでも1970年代の2度のオイルショックとは比べ物にならない混乱状態になりかねない。イランへの対テロ戦争は米国、イスラエルにとって自殺行為となり、同時に人類滅亡へつながりかねない。
米国は早い段階で、イスラエルを使い新たな9.11テロを発生させ、これを口実に対イラン攻撃に踏み切りたがっている。07年初夏前までに実行しなければ、08年には大統領選があるため、ブッシュ政権は動きがつかなくなる。さらに問題なのが、昨年ブッシュ大統領が採用した「国家防衛権限法」で、大統領は議会に通告することなく戒厳令を宣言することができる。いずれにしろ何らかの形で、第2の9.11を画策すると考えられる。
▼ 欧米中心主義の自己破産
私たちは近代化が西洋から始まったとする教育を知らないうちに刷り込まれてきた。マーティン・バナールは、古代ギリシャ文明はアフリカ・アジアに起源があるとし、西洋古典とされていた古代ギリシャ文明が実は故買であると「黒いアテナ」の中で批判した。エドワード・サイードは、西洋と対をなすものとして東洋を捉える二項分立的な考え方をオリエンタリズムとし批判した。それは西洋が発展的、民主主義的、先進的であるのに対し、東洋は停滞的、専制的、後進的とする考え方である。「2つの世界」論ともいえる。これが西洋人のオリエント(東洋)を見る際の色眼鏡の役割となり、新しく東洋について書く学者たちも、過去のテクストを引用することで、オリエンタリズムの権威はさらに西洋社会に定着していった。そして、オリエントに住む人が一個の人間としてでなく、「東洋人」「アラブ」「セム族」「イスラム教徒」というカテゴリーで論じられるようになる。人間であることは二の次にされてしまった。
「イスラム」という言葉で、テロ、暴力、過激、野蛮を連想する日本人が多いのもここに起因している。今日、どこの地域よりも中東に関わっている合衆国の政策立案者が、このオリエンタリズムに染まっているのが現状なのだ。米国はイランが核開発計画を中止しないため攻撃を示唆している。しかし(ウラン濃縮のための)遠心分離の段階では、核開発というには程遠い。一方、米国はイスラエルの核保有については言及しない。こうしたイスラエルに対する二重基準の裏にも、東洋を敵対視するオリエンタリズムが見え隠れする。
欧米中心主義を脱し、多様性・異質性・個性を重視するイスラムの考え方である「タウヒード」について考える必要が我々に今こそ求められている。しかし、日本では最近、対テロ戦争を根本から批判することなしに、サイードやバナールの考え方をもちあげて奉る動きがある。これは自らの債務から自由になろうとする自己破産の動きに見えてならない。そして非合理な戦争をしかけ、自殺行為へと走る米国・イスラエルの動きこそ、長い歴史の中で作られてきた欧米中心主義を自ら壊す自己破産になっていると言えるだろう。
(文責・取材 佐藤あゆみ)
【講演者プロフィール】
板垣 雄三(イタガキ ユウゾウ) 東京大学名誉教授
歴史学、国際関係論、比較地域研究の分野で中東・イスラーム研究に取り組み、現代中東政治、イスラーム思想の構造、パレスチナ問題、日本と中東の関係などを研究してきた。外務省イスラム研究会、日本とイスラム世界の文明対話などに関与。『イスラーム誤認』、『歴史の現在と地域学』、『対テロ戦争とイスラム世界』(以上、岩波書店)、『石の叫びに耳を澄ます』(平凡社)等の著書がある。