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http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2007/03/post_aa0f.html
イラン、イギリス、アメリカ:圧力はどちらを向いているか
2006年3月23日、イランの沿岸警備隊が、ペルシャ湾岸で“通常任務である密輸の監視をしていた”英海軍兵士15人を拘束した。イラン外相の説明によれば、英兵士達はイランの領海を侵犯していたとのことだった。
英海軍のチャールズ・スタイルズ中将はGPSデータを引用し、拘束された英兵達はイラク領海内で活動していたと主張。英ブレア首相はイラン側へ人質をただちに解放するよう求め、事態の解決を国連安全保障理事会に持ち込んだ。国連側は今のところ「イラン政府はただちに英兵士を解放するべき」と言いつつも、事態に対しては「重大な懸念を表明する」に留まっている。
人質解放のための交渉を要求するイラン側は、ブレア政権の対応を批判し、早期に解放する予定だった女性兵士も拘束されたままとなっている。イラン国内でも事件への関心は高まっているが、イラン国民の中には「アフマディネジャード政権は約束どおり早く女性兵士を解放すべきだ」という政権批判も拡大しつつある。
一方でホワイトハウスの反応はどうかといえば、通常ならば「悪の枢軸」等お馴染みのボキャブラリーを駆使しつつ声高にイラン側を批判しそうなものだが、今のところブッシュ大統領本人は、ブレア首相への支持を表明するに留まっている。
中東諸国及びロシアは、この人質事件が英米両国にイラン爆撃・侵攻の口実を与えることになるのではと懸念している。3月26日、駐ロシア英大使アンソニー・ブレントンは、ロシア政府側にイランの人質解放に向けて協力を要請していると語った。
しかしロシア政府筋は、米軍がイラン国境付近及び湾岸地区に戦力を集結させており、イラン本土内軍事施設への攻撃準備が整いつつあるとメディアにリークし始めた。
これは公然たる事実だった。3月27日に、米海軍はペルシャ湾沖で、米軍艦ステニス及びアイゼンハワーを中心とする15の軍艦、100機以上の空軍機を動員し、対岸のイランを威圧すべく、イラク侵攻時以来の大規模軍事演習を実施し、米軍の“危機状態における柔軟性と機能性”をアピールした。米国防総省の報告によると、湾岸地区の米軍兵力として、イラクに13万2,000人、クウェートに2万5,000人、カタールに6,500人、バーレーンに3,000人、ドバイ(アラブ首長国連邦)に1,800人、サウジアラビアに数百人が駐留しているという。
ペルシャ湾で米軍が大規模軍事演習を実施した日、ブッシュ大統領はロシアのプーチン大統領に電話会談を申し入れた。プーチンは電話に応えて、国連安全理事会の決定ではイランに対する軍事行動は除外されていると言い、イラン侵攻をちらつかせるブッシュ政権側を牽制した。
ロシア側のメディア作戦に対し、米諜報関係者は即座に反応した。米国家防諜委員会のジョエル・ブレンナー委員長は「ロシアは米国に対する諜報活動を冷戦時代の規模にまで復活させている」と暴露した。(冷戦!この言葉に米軍需産業は熱狂しているにちがいない。)
2007年3月28日、ブッシュ大統領はブレア首相とテレビ会議システムを通じて会談した。会談の詳細は明らかにされていないが、イランの英兵拘束についても話し合ったといわれる。ブレアがブッシュから「かかって来い(Bring'em On!)」とアドバイスされたかどうかは不明だが、ブッシュ・ブレア会談の次の日、イラク・バスラのイラン領事館の周辺で、イギリス陸軍が威嚇射撃を始めたとの報道があった。(英軍側は通常のパトロール任務中にイラン領事館近辺で待ち伏せ攻撃に遭遇し、反撃をしただけと説明している。)
中東情勢が緊張すれば、石油業界もあわただしくなる。イラン軍が湾岸地区の米艦隊に砲撃したというデマが流れると、原油取引市場では原油価格は急上昇し、米企業株価は急降下した。拘束されている女性兵士早期解放の約束が反故になったとわかると、原油取引価格は1バレル66ドルに上昇した。
米軍の大規模軍事演習報道に慌てたアラブ首長国連邦は、国内に米軍を駐留させているにも関わらず、イランに対する米軍の軍事行動に協力しないと宣言した。しかし、今後中東諸国で親米・反米の亀裂がさらに深まるのは避けられない。
イラン政府の巧妙な反撃網
2003年5月、ブッシュ大統領が「任務完了」の旗をバックに、自らイラク戦争勝利演説に酔っていた頃、イラン政府はスイス大使館を通じて密かにホワイトハウスに和平交渉を持ちかけた。しかしラムズフェルド米国防長官とチェイニー副大統領はイラン側の申し出を拒否し、仲介したスイス特使まで叱責する勢いだったという。
この一件でブッシュ政権の攻撃意志が本物であると悟ったイラン政府は、米国政府との対決姿勢を固めていくしかなかった。
一方ブッシュ政権は、フセイン体制崩壊後の中東情勢を極度に楽観視していた。イラク侵攻を手放しで支持した米議会も、FOXニュースを通して「テロとの戦争」に熱狂してきた“愛国的”米国民も、次の標的であるイラン・シリアの“民主化”に協力してくれるはずだった。
しかし、イラク情勢の泥沼化により、ブッシュ政権の策略通りに物事は進まなくなった。イラク侵攻直前、米国民の7割近くが戦争を支持し、8割以上が「イラク戦争は楽勝」と考えていた。しかし2007年現在では、米国民の6割がイラク侵攻を無意味だったと感じており、「全米でもっともブッシュ寄り」のユタ州ですら、イラク戦争支持票は急落している。
それでもなおイラン侵攻計画を予定通り前進させたいブッシュ政権は、戦争の口実としてイラン政府がイラク国内の反米武装勢力を支援しているのはケシカランと言い出した。(しかし合衆国副大統領とサウジ王家の反米武装勢力支援活動は黙認している)
しかし、米軍も英軍も、イランがイラク国内武装勢力に対し武器・資金面で支援しているという噂を証明する類の“動かぬ証拠”を未だ提示できていない。
ブッシュ政権の背後に居るネオコン達の唱えた“中東民主化”構想に関して、アメリカ、イギリス他連合各国の足並みは明らかに乱れている。この機会をうまく捉えたイラン側は、80年代以来得意としている人質作戦という少々捻った反撃を開始したとみることもできる。先に事件を仕掛けて、米軍の侵攻タイミングを狂わせ、闘争のペースを主導してダメージを最小化するわけだ。
しかし結局のところ、イラン政府の人質作戦は当初の目論み通りには進行していない。イギリス側は人質同士の交換に応ずるようすはなく、人質解放の遅れはアフマディネジャード政権の基盤を危うくしている。
それでもなお、イラン攻撃計画を着々と進めているとされるブッシュ政権側としては、意表を突かれて少々対応に困っているのではないか。イラン政府がイギリス側に謝罪せよと要求している領海侵犯の有無については、イラン側もイギリス側も譲るつもりはないのだろうが、専門家の話では、事件発生現場の国境位置については法的にかなり曖昧との見方もあるようだ。
一方、武力闘争以外のシーンでは、イラン側は着々と体制を整えつつある。ざっと最近のニュースを振り返ってみよう。
2007年3月25日:
ドバイ国際財政センター所長ナセル・アル・シャリー氏は「中東諸国はドル以外の通貨に比重を移している」と語った。「UAE中央銀行の例でいえば、ユーロ利用に移行しているところだ。将来的には、中国元にも対応するだろう。」
2007年3月27日:
ベネズエラと中国が石油取引を倍増することに合意。また中国政府はベネズエラ国内の共同石油資源開発プロジェクトに投資を表明した。ベネズエラはイラン、中国、ロシアとの資源開発協力関係を一層強化し、ベネズエラ国内で事業展開するコノコ・フィリップス、シェブロン、エクソンモービル等の石油メジャーを切り離し米国依存経済からの脱却を図っている。
2007年3月27日:
イラン石油資源の最大顧客である中国国営企業が、昨年末頃から石油取引通貨としてユーロを利用していることが明らかになった。関係者の話では、OPEC加盟国家の石油取引先の半数以上が、原油取引通貨としてドル以外の通貨に転換を図っているという。日本側の買い手である新日本石油も「イラン政府から正式に依頼があればいつでも円での支払いに応じる」と説明している。イランのヨーロッパ取引先としてはロイヤルダッチシェル、フランスのトータル、スペインのレプソル等がある。
2007年3月28日:
イラン中央銀行総裁イブラヒム・シェイバニー氏が、石油取引通貨からドル利用を排除する意向を説明した。同氏によれば、「現在イランでは石油収益の50%以上が米ドル以外の通貨で支払われており、ヨーロッパ、アジアの各取引先はすでにドル以外の通貨で支払いすることに同意しています。また、ドルで収入があってもすぐに別の通貨に換金しています。例えば日本は円で支払うことを了承しています。」とのこと。また、シェイバニー氏によれば、イラン中央銀行では外貨準備高を20以上の主要通貨群でまかなっているが、現在ドルの占める割合は20%以下となっているという。
2007年3月28日:
米国務省は中国政府が「イランに武器を売ったり、イラン国内の石油や天然ガス開発に投資している」と批判した。すると中国政府側は、「米国は台湾に武器を売るのを止めるべきだ」と反撃した。
果たしてアメリカは、世界及び国内世論の反対を押し切って、イラン攻撃を予定どおり実行するだろうか?米政府側の最強硬派であるチェイニー副大統領(執行大統領?)は、今回のイラン侵攻機会を逃したくはないだろう。しかし、実際の戦争を戦う兵士達の心境は?90年代、米軍人の70%は共和党支持者だった。それが2007年には46%に落ち込んでいる。
3月上旬、AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の集会に呼ばれたチェイニー副大統領は、イラクから撤退することは敵を増長させるだけだと演説で発言した。これを聞いたマックス・クリーランド元上院議員(ベトナム戦争退役軍人)は、チェイニーに対し声を荒げて批判した:「ベトナム戦争時代、あんたは何処に行ってたんだ?私達同様にベトナムに従軍していたら、戦争について学べただろうに。兵士を永遠に戦地に置いておくわけにはいかん。任務も目的も必要だ。任務も目的もなしに、何度も何度も兵隊を戦地に派遣させるわけにいかないんだ!本当の敵はアルカイダだったはずだろう、このバカタレ!敵はイラクじゃないぞ。だから地上軍を撤退させるんだ!」
3月25日、上院外交委員会メンバーで、2008年大統領戦出馬が濃厚となっている共和党議員チャック・ヘーゲルは、テレビのインタビュー上でブッシュ政権の横暴を止めるためには大統領弾劾もありうると仄めかした。2006年中間選挙で大勝した民主党が、必死で抑圧している「大統領弾劾」カードを、共和党側が先に配り始めたというのは、なんとも皮肉だ。
米政界の通例として、下院司法委員会がホワイトハウスに証人出廷を求め始めたら、大統領弾劾の合図と言われているが・・・案の定、今年3月1日からすでに証人出廷要求が始まっている。議会で偽証したゴンザレス司法長官の辞任も、もはや時間の問題となった。
FOXニュースからホワイトハウス報道官に大抜擢された極右コメンテイターのトニー・スノウ大統領報道官は、先日内蔵にガンが転移していることが判明し、手術後入院している。
心臓が弱く、左足に血栓を抱えるチェイニー副大統領は、つい先日も病院で再検査を受けている。
国防長官を辞任して以来、滅多にメディアに登場しなくなったラムズフェルドは、今月中旬に病院に運び込まれた。すぐに退院したので詳細は明らかにされていないが、インフルエンザにかかっているわけでもなく、心臓が弱っているらしい。(6年ぶりに民間人に戻って個人資産を数えているうちに、あまりの巨額さにドキドキした?というのは全くの憶測である)
チェイニーは66歳、ラムズフェルドは74歳。大統領弾劾が公的に叫ばれることになれば、米国民のブッシュ政権閣僚に対する視線はさらに厳しいものになるだろう。ブッシュ家最大のビジネスパートナーであるサウジ王家も、最近はあからさまに冷たい態度を見せている。
ゆっくりと、しかし確実に、ブッシュ政権は追い詰められつつあるようだ。しかしヤケクソになったブッシュが何をしでかすか考えると、かなり不安な状態でもある。