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□【社説】フセイン大統領 死刑執行を急ぐべきでなかった [愛媛新聞]
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017200612317872.html
コラム社説2006年12月31日(日)付 愛媛新聞
フセイン元大統領 死刑執行を急ぐべきでなかった
イラクのサダム・フセイン元大統領の死刑が執行された。控訴が棄却され死刑が確定してから、わずか四日だ。
イラクの法律は刑執行を判決確定から三十日以内と定めているものの、あまりに早すぎるのではないか。やっかいな問題に早くケリをつけたい、という米政府やイラク政府の意図が透けて見えるようだ。
元大統領は一九八二年、中部ドジャイルでイスラム教シーア派住民百四十八人を虐殺した責任を問われた。イラク高等法廷は先月、広範で制度的な殺人や拷問などの「人道に対する罪」と認定し、死刑の一審判決を下していた。
ほかにも元大統領は、八〇年代にクルド人が弾圧された「アンファル作戦」事件で公判中だった。また、八八年の北東部ハラブジャでの化学兵器による住民虐殺や、九〇年のクウェート侵攻などの責任も問われる見通しだった。
今後は元大統領抜きで審理が続けられたり、起訴が行われるかもしれないが、真実を追求するのは難しくなった。これら事件の真相が闇に葬られたのは国際社会にとっても痛手だ。
その意味でも、死刑執行は急ぐべきではなかった。イラク政府は元大統領が関与した事件の審理を尽くし、すべての責任を明確にすべきだった。そうすることが、イラク再生の一助にもなったはずだ。
裁判はブッシュ米政権が事実上主導したとされる。裁判を急いだのは、旧フセイン政権に虐げられたシーア派やクルド人の報復感情を満たすとともに、スンニ派ら旧政権支持層の抵抗意欲をなえさせようという意図があったのだろう。
確かに報復感情はある程度、満たされたろう。が、スンニ派勢力らの怒りは逆に強まり、宗派や民族の対立がさらにエスカレートする恐れがある。米政府やイラク政府の思惑は裏目に出るのではなかろうか。
裁判の公正さの点でも問題があったようだ。裁判長は政治介入を嫌気して辞職したり、「被告に寛容すぎる」という理由で更迭されたりした。
常に傍聴を許された国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部ニューヨーク)は、裁判官らが国際法をほとんど知らず「厳格な立証を求められる大量虐殺罪を公正に裁く能力がない」と指摘。重要な証拠が弁護側に事前開示されないなど「公判は根本的な欠陥だらけだった」と報告している。
指摘が事実とすれば、きわめて不十分な裁判だったことになる。裁判の在り方や中身について、国際社会の厳密な検証を求めておきたい。
イラクは宗派対立の激化で内戦状態となり、市民に多くの犠牲者が出ているほか、大量の避難民も発生している。開戦以来の米兵の死者は米中枢同時テロの犠牲者数を超えた。
あまりの治安悪化に、「フセイン時代の方がましだった」との声が住民から聞かれるようになった。米政府、イラク政府はこれをどう聞くのだろうか。