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http://www.tokyo-np.co.jp/feature/yui/news/080404.html
【結いの心】
交流のカフェ(1) 絆築く『皆の居場所』
2008年4月4日
「ママ」と呼ばれ、サロンで接客する看護師の宇鉄昭子さん=東京都新宿区で
「一週間、誰ともしゃべってねえんだ」「ここに来て、あんたが初めての客だ」。二〇〇三年夏、「もやい」で訪問相談のボランティアを始めた看護師の宇鉄(うてつ)昭子(38)は、路上からアパートに移って孤独に悩む人たちの多さに驚いた。「しゃべる人がいねえから野宿の方がましだったな」。そんな言葉に、胸が痛んだ。
稲葉剛(38)=もやい理事長=はある男性のアパートを訪ねた時、畳が血だらけなことに驚いた。足をけがして血がにじみ、判を押して回ったように跡がついていた。だが、男性は糖尿病による視力低下と痛みのまひでけがに気付かなかった。アパートに入ったのに、けがを教えてくれる人もいない。「自立支援が孤立支援になってしまう」。自分たちの取り組みは正しかったのかと考えると、つらかった。
「一軒家が借りられそうだ」。〇四年春、そんな話に真っ先に飛び付いたのは宇鉄だった。「お菓子を出してコーヒーが飲めたら、アパートで孤独な人も来られるじゃない」 喫茶店経営の経験がある元路上生活者らに電話や手紙で「一緒にやろうよ」と呼び掛け、おじさんばかり七、八人が集まった。メニューを考え、スパゲティやトーストの試食をする。「自分が路上生活のころなら、いくらだったら食べに来るかな」。ランチは三百五十円、飲み物は百円に決めた。コーヒーメーカーを持ち寄ったり、看板を作って持参する人もいた。
大工経験のある元路上生活者たちが、コンクリート敷きだった一階の床をフローリングに改装。学生ボランティアが設計し、壁も木に張り替えた。「皆の居場所をつくるんだ」。そんな意欲が満ちていた。 〇四年六月、こもれび荘の一階に、週一度の「サロン・ド・カフェ こもれび」がオープン。仕事や家族の絆(きずな)を失った人たちが話に花を咲かせ、人間関係を築いていく場所になった。 カフェで「ママ」と呼ばれる宇鉄は言う。 「ここに来ると、関係をつくりたがっている自分を発見するんです」。素(す)の自分になれる心地よい居場所。それが必要なのが、路上生活の人たちだけではなかったことに、宇鉄も気付いている。 =文中敬称略
人間は一人では生きられない。そんな当たり前のことが、忘れられつつある。都会の片隅に生まれた「カフェ」から、結いの価値を見つめ直したい。