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2007年9月3日
子どもたち、このところ水谷は、ずっと同じネクタイをしています。奇麗な水色にピンクのストライプのネクタイです。ちょっと私の年には派手で、恥ずかしいのですが、いつもつけています。そして、時々それを触ってはにやにやしています。
今から三年前です。私は、東京の風俗街で十八歳の一人の少女と出会いました。朝四時ごろ、疲れた顔で風俗店から出てきました。彼女の顔にはくっきりと覚せい剤乱用の跡がありました。私は、彼女を呼び止めそして近くのファミリーレストランで話しました。彼女は私のことを、「夜回り先生」だと知っていました。私にメールで相談に乗っていた少女でした。彼女は、小学校時代から親からの虐待、学校でのいじめ、中学から夜の街に入った子でした。中学二年で暴力団関係者と同棲(どうせい)、売春をさせられ、そして覚せい剤も覚えました。十六歳からは、風俗街に売られ、稼いだお金をすべて覚せい剤代として彼に奪われ、生きてきました。
彼女は、自暴自棄になっていました。「先生、もう私のからだは汚れてる。明日なんかこない。どうなってもいいんだ」そういいました。私は言いました。「でも君は、メールで私に助けを求めたね。明日、来るよ。作ろう。ついてるよ。君の目、とってもきれいだよ。きっとこころも。ついておいで」。私は、そのまま、彼女を、私の関係する施設に預けました。彼女の親に対しては、私は何もできませんでしたが、彼女を利用した男と、そして風俗店は、警察の力を借りて摘発しました。
彼女は、長年の覚せい剤乱用から来る、さまざまな離脱症状や再使用への渇望、フラッシュバックに苦しみながらも、施設で必死に生きました。「先生、今日は麻婆豆腐作ったよ。みんなおいしいって食べてくれた。明日は、カレー作るんだ。先生、いつ食べに来てくれる」。うれしい電話やメールがいっぱい届きました。そして、ついに今年の四月から、彼女は、老人施設の調理補助員として就職しました。いつかは、本当の調理師になるんだと、通信制の高校にも入学しました。私が、このところ使っているネクタイは、彼女が初めてもらった二万円のボーナスで、プレゼントしてくれたものです。彼女の瞳のように明るいネクタイです。
子どもたち、過去や今を変えることはできません。いくら苦しんでも無駄です。過ぎ去ったものは取り戻せません。でも、これから来る明日は、いくらでも作れます。今を、明日のために、生きてみませんか。必ず明日は来ます。
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