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2007.12.17 Monday
私にとっては、今年最後のコラムとなった。今年は日本政治にとって波乱の一年であり、より大きな変動を予感させる一年でもあった。これからの政局を予想してもどうせ外れるだろうから、来るべき総選挙で有意義な政党対決が実現するための条件について考えてみたい。
政権交代の可能性が現実味を帯びるにつれて、政権担当能力という言葉がよく聞かれるようになった。危機に陥った政権党が野党に対して政権担当能力がないという批判を加えるのは常套手段である。民主党はそれを額面通り受け入れる必要はない。逆に、今までの自民党に政権担当能力があったのかと言い返せばよい。実際、安倍政権があのような無様な倒れ方をしていなければ、臨時国会を1回延長しただけでテロ対策新法の決着はつけることができたであろう。臨時国会の越年や予算編成作業の遅れなど、政治日程が立て込んでいるのも、ひとえに自民党の政権担当能力の欠如ゆえである。臨時国会で政府提出法案の成立を邪魔するから政権担当能力がないという与党の批判は、言いがかりに過ぎない。
しかし、民主党が政権交代を起こしたいなら、本当の政権担当能力を示さなければならない。政権担当能力とは単に現状を維持することではない。その程度の政権担当なら、官僚に依存すれば誰にでもできる。むしろ、必要な変化を混乱なく起こせることを国民に理解してもらう必要がある。今まで自民党政権と官僚が作り上げてきた世の中の仕組みが唯一絶対のものではなく、法律を変えることによって住みよい社会、よりよい生活を作ることができるという期待感を国民に持ってもらえるかどうかに、政権交代の可能性がかかっている。
その点で、予算編成から通常国会にかけて展開される税制論議こそ、政党の政権担当能力を測る試金石となるであろう。また、税制は予算と違って法律事項なので、衆議院の単独による自然成立はありえず、与党は法案成立のために衆議院による再議決によらざるを得ない。年度内に税法が成立しなければ新年度の行政は大混乱に陥るため、法案審議のスケジュールも大きな意味を持つ。国会運営上も税制はきわめて重要な課題となる。
国民が最も関心を持つのは揮発油税の暫定税率を継続するか、廃止するかという争点であろう。政府与党は継続を打ち出し、民主党は廃止を主張し、明確に対立している。仮に暫定税率が廃止されれば、ガソリンの値段が1リットル当たり20円以上も下がるわけだから、国民の利害には大きく影響する。しかし、単に税金を安くすればそれが国民の利益に直結するとは限らない。与野党ともに、なぜ重い税負担を続けなければならないか、あるいは揮発油税という仕組みをどう変えるかについて分りやすい説明を示さなければならない。
私個人の意見としては、民主党が言うように、揮発油税を炭素税に切り替え、環境保全や省エネルギーのために使うことに賛成である。しかし、単なる願望を述べるだけでは政策にならない。細かい計数は官僚に任せるとしても、環境保全のためにどのような具体的事業を行い、そこにどの程度の資金を投入するかという枠組みを示すことは政党の役割である。一口に環境保全といっても、森林の保全、公共交通機関の振興、家屋の断熱などやるべきことは山ほどある。また、将来それらの事業の必要性は高まる一方であろう。ここでいったん暫定税率を廃止した後、将来必要に応じて再び燃料への課税強化が可能になるのであろうか。そうした懸念を払拭してこそ、本当の政策である。
消費税率の引き上げについても、本格的な議論を始めるべきである。防衛省における不祥事など、税金の無駄遣いが相次いでいる状況では、消費税率の引き上げをすぐに実現することは国民感情が許さないであろう。しかし、これからの社会保障、環境保全、少子化対策など様々な政策需要を考えたとき、小さな政府が解決策になるはずはない。したがって、中期的な観点から財源についても真剣に考えなければならないはずである。確かに特別会計の積立金などを吐き出せば、数十兆円規模の財源を捻出できるのかもしれない。しかし、これと社会保障の恒久的財源は別問題である。
その点で、自民党財政改革研究会のまじめさは評価すべきであろう。12月9日の『朝日新聞』朝刊に掲載された与謝野馨氏のインタビューを読むと、自民党にも常識と責任感を持った政治家がいたことを感じさせられる。ただし、財務官僚の財政再建至上主義と一線を画すことが、税制改革を国民に理解してもらうためには不可欠である。財務省の近視眼的な帳尻合わせのために、医療、介護、地方財政をずたずたにし、国民生活を危機に陥れたことを直視することから、すべては始まる。税制改革論議のイニシアティブを財務官僚から奪うためにも、小泉、安倍政権時代に続いた社会保障や地方支援政策の破壊を反省し、ナショナルミニマムを保障することを政策の大目標とするという宣言が、税制改革論議の出発点となるべきである。
テロ対策新法や防衛省疑惑の陰に隠れて、参議院選挙で盛り上がった生活第一というスローガンは色あせた観がある。しかし、国民にとって最も重要な政策課題は、医療、介護、教育などの生活のインフラの再建である。政権交代を起こすなら、社会経済システムの選択と結びつかなければ意味はない。民主党は生活第一の全体像を示すべきである。また、経済財政諮問会議のメンバーやこれを支持する自民党の上げ潮路線論者は、中身のない「改革」という言葉をこれ以上使うべきでない。アメリカのように命を金で買う世の中を造りたいのなら、正直にそう言えばよい。有意義な政権選択の選挙を行うための準備は今から始めなければならない。
(週刊東洋経済12月22日号)
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