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(回答先: 見逃される政治家の犯罪(天木直人のブログ 8/26) 投稿者 天木ファン 日時 2007 年 8 月 26 日 20:38:37)
2007年08月26日
荒畑寒村の言葉
よく言えば感性とか直感という事だが、悪く言えば単なる勝手な思い込みである。大学で国際政治の授業を取った時、私はなぜかもっともらしい事ばかり喋る現実主義者の高坂正尭よりも、ロシア政治思想史を教えながら保守的なことばかり喋っていた勝田吉太郎の授業を好んだ。もっとも不勉強な私は勝田の著作さえまともに読了することなく、ドストエフスキーとトクビルの事ばかり一人ごちていた勝田の記憶しかない。
その勝田の言葉で今でも時々思い出すのが、荒畑寒村が好んで使ったという「師を持たず、弟子を持たず」という言葉である。この言葉に荒畑のひととなりを見る思いがするのだ。日本の社会主義、共産主義の草分けであるにもかかわらず、常に脇役の人生を送り、政治活動家というよりも作家的な荒畑寒村は、永井荷風と並んで、私が惹かれる想像上(つまり会った事のない)の老人である。
その荒畑寒村のあらたな言葉を見つけてどうしてもブログに書きたくなった。25日の日経新聞に瀬戸内寂聴の「奇縁まんだら」という連載記事の34回に荒畑寒村のことが書かれていた。瀬戸内が荒畑寒村に初めて会った時は1968年、瀬戸内45歳、荒畑80歳の時であるという。その時の印象を瀬戸内は次のように書いている。
「・・・80歳とは見えない美男子で、細身に上質の紬の対の和服がよく似合い、何となく粋で、革命家というより、詩人という風情があった・・・正確な記憶力で、矢継ぎ早に話してくれる。声が明晰なのと、話術が噺家並みなので、ひたすら聞き惚れているばかりであった・・・ちょっと声がとぎれた時、やっと私が質問した。
『今、先生が一番望んでいらっしゃることは何でございますか』
今までと違う一段低い沈痛な声がかえってきた。
『もう一日も早く死にたいですよ。ソ連はチェコに侵攻する。中国はあんなふうだし、日本の社会党ときたらあのざまだし、一体自分が生涯をかけてやってきたことは何になったのかと、絶望的です。人間というやつはどうも、しようのないもんですね。この世はもうたくさんだ・・・』
いかにも荒畑寒村らしい言葉だ。今の護憲政党の衰退ぶりを見たら荒畑はなんと思っているとだろうかと重ね合わせてこの言葉を読んだ。もっとも荒畑が亡くなったのは1981年であるからそれから十年以上も生きたことになる。これもまた荒畑らしい。
ところでこのブログを書くにあたって荒畑寒村の略歴を確かめようとウキペディアで調べているうちに、松岡正剛という著述家、編集者の存在を知った。これが凄い知識人なのだ。2000年2月の中谷宇吉郎の「雪」から始まり、2004年7月の良寛の「良寛全集」で終わる千冊の書評集「千夜千冊」はジャンルを超えた膨大な知識に裏打ちされた著作であり、熱心な読者の間で静かな反響を呼んだという。「荒畑寒村自伝」の書評もその中の一つとして収められている。
それにしても世の中には多くの敬意を表したくなるような知識人がいるものだ。毎日、毎日、つまらない政治的なものに関わって限られた時間とエネルギーを費消することは、ひょっとして大変な時間の損失なのかもしれない。最近そういう気がしてならない。
http://www.amakiblog.com/archives/2007/08/26/#000498
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