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「しんぶん赤旗」2007年8月1日(水)付9面
宇宙基本法案が狙うもの 平和限定から軍事衛星へ
藤岡 惇
ふじおか・あつし 立命館大学教授。一九四七年生まれ。専攻はアメリカ経済論、平和の経済学。国際NGO「宇宙への兵器と核の配備を考える地球ネット」アドバイザー、立命館大学国際平和ミュージアム・メディア資料セクター長。著書に『グローバリゼーションと戦争――宇宙と核の覇権をめざすアメリカ』ほか。
米新型戦争システムの下に
さる六月二十日に自民・公明両党は、議員提案というかたちで宇宙基本法案を国会に上程しました。法案の第一四条は、「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずる」と定めています。その施策を推進する組織として、首相を本部長とする「宇宙開発戦略本部」を設置し、宇宙基本計画を立案していくこと、これにあわせて民間の宇宙産業を振興していくことも謳(うた)っています。
4つの推進論
結構なことか
改憲をかかげる安倍内閣は、日本国憲法にもとづく戦後の「社会体制」自体を変えるべきだとし、先に教育基本法を改定しましたが、こんどは、平和目的に限定していた戦後の宇宙開発の基本方針を変えようとしているのです。法案の推進者たちは、つぎのような論理で賛成論を展開します。軍事偵察衛星を使って北朝鮮の動向を監視する程度であれば、宇宙の軍事利用を認めてもいい。なぜならば偵察衛星というのは、@敵地を直接にたたくといった攻撃的な性格のものではない。Aむしろ敵の攻撃から日本国民のいのちと暮らしを守る防衛的な性格のものだ。したがってB周辺国に脅威を与えたり、軍拡競争をあおるようなものにはならないし、Cこれを機会に日本でも自前の宇宙産業が育つならば結構なことではないか、というわけです。
このような主張は正しいのでしょうか。推進派の提起する四つの論拠に即して考えてみましょう。
まず第一点。軍事偵察衛星は攻撃的な性格を持たないと主張する論者は、ソ連解体後に「戦争のスタイル」が大きく変わったことを無視しています。宇宙に配置された「資産」(百基を超える軍事衛星群や地上の通信基地など)と電子情報網を介して、米国の攻撃戦力と防衛戦力とは一体的に運用されるようになり、世界各地に駐屯する米軍も、地球規模で統合されるようになりました。攻撃の矛と防衛の盾とを同時に兼ね備えた最強の軍艦のことを「イージス艦」と呼びますが、米軍が目指しているのは、戦争全体の「イージス化」なのです。この新型の戦争スタイルを米軍は、宇宙をベースとした「ネットワーク中心型戦争」だと呼んでいます。
イラク上空で
ミサイル誘導
じっさい四年前に米軍は、イラクに対して先制攻撃をしかけましたが、開戦前から米国は、偵察・探知衛星を動員して、イラク軍の戦力を調べ上げました。米軍が使ったミサイルや爆弾の三分の二は、イラク上空の軍事衛星群によって精密誘導され、戦果が評価されたといわれます。新型戦争にあっては、局地的な規模の戦争であっても、世界全域の軍事施設が動員され、目や耳や神経の部分は、地表から宇宙衛星のほうに移るのです。
昔は制空権や制海権の有無が戦争の優劣を決めたとすると、今日では「制宇宙権」の有無が戦争のゆくえを決める時代となりました。「制宇宙権」を独占し、どの国には宇宙への進出を拒否するか、どの国にどの程度の宇宙利用を許すかを決めるのは我々だというのが、ソ連崩壊後の米国の一貫した方針です。この「制宇宙権」を背景にして、「敵」がどこにいようが、いつでも・どこでも、核と非核の両方の戦力を使って先制攻撃をしかけるという戦略をブッシュ政権がとっているのです。
このような米国の戦略を念頭におくとき、日本の軍事偵察衛星は、米軍の先制攻撃システムを支える目や耳の役割を担わされるのは必至です。「集団的自衛権」が認められると、日本の軍事衛星群は米国の新型戦争システムのもとにいっそう深く組み込まれるでしょう。
(つづく)
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