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(回答先: 週のはじめに考える お上の時代と裁判員制度【東京新聞】 投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 6 月 17 日 18:13:27)
『最後の一句』の該当箇所(青空文庫図書カード:No.45244 最後の一句 )
「そんなら今一つお前に聞くが、身代わりをお聞き届けになると、お前たちはすぐに殺されるぞよ。父の顔を見ることはできぬが、それでもいいか。」
「よろしゅうございます」と、同じような、冷ややかな調子で答えたが、少し間(ま)を置いて、何か心に浮かんだらしく、「お上(かみ)の事には間違いはございますまいから」と言い足した。
佐佐の顔には、不意打ちに会ったような、驚愕(きょうがく)の色が見えたが、それはすぐに消えて、険しくなった目が、いちの面(おもて)に注がれた。憎悪(ぞうお)を帯びた驚異の目とでも言おうか。しかし佐佐は何も言わなかった。
次いで佐佐は何やら取調役(とりしらべやく)にささやいたが、まもなく取調役が町年寄(まちどしより)に、「御用が済んだから、引き取れ」と言い渡した。
白州(しらす)を下がる子供らを見送って佐佐は太田と稲垣とに向いて、「生先(おいさき)の恐ろしいものでござりますな」と言った。心の中には、哀れな孝行娘の影も残らず、人に教唆(きょうさ)せられた、おろかな子供の影も残らず、ただ氷のように冷ややかに、刃(やいば)のように鋭い、いちの最後のことばの最後の一句が反響しているのである。元文ごろの徳川家の役人は、もとより「マルチリウム」という洋語も知らず、また当時の辞書には献身という訳語もなかったので、人間の精神に、老若男女(ろうにゃくなんにょ)の別なく、罪人太郎兵衛の娘に現われたような作用があることを、知らなかったのは無理もない。しかし献身のうちに潜む反抗の鋒(ほこさき)は、いちとことばを交えた佐佐のみではなく、書院にいた役人一同の胸をも刺した。
城代(じょうだい)も両奉行もいちを「変な小娘だ」と感じて、その感じには物でも憑(つ)いているのではないかという迷信さえ加わったので、孝女に対する同情は薄かったが、当時の行政司法の、元始的な機関が自然に活動して、いちの願意は期せずして貫徹した 。
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