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個人投資家が知らないアフガニスタン・リスクとは?
アフガニスタンに増派するドイツ
日本の大手メディアは連日、さまざまな報道を繰り返している。とりわけそこで流される国際情勢に関する公開情報は、世界最大の覇権国・米国とその意向を受けて世界中で動き回る越境する投資主体たち(ファンド、投資銀行など)を予測する上で大変重要であることは、このコラムで繰り返しご説明してきたとおりだ。特に、米国がマーケットを動かす時、必ずといっていいほど使う口実としての「地政学リスク」が一体、どのタイミングで、どの地域で演出されるのかを知るには、実は公開情報を毎日丹念に読み解くだけでも十分である。情報工作機関の世界では、しばしば「ある物事の真実性の9割までは、公開情報だけで検証できる」といわれるくらいだ
しかし、日本の大手メディアがどういうわけか全く報じない出来事も数多くある。世界中の大メディアがいずれも大々的に取り上げているのに、全く無言である場合もあるので注意が必要だ。そのことを私は、越境する投資主体たちが織り成す「世界の潮目」を世界中のメディア報道からピックアップして分析する『元外交官・原田武夫の「世界の潮目」を知る』を通じ、これまで繰り返し紹介してきた。
このような「どういうわけか日本の大手メディアが黙殺する世界の出来事」が最近、また1つ発生した。それが、ドイツによるアフガニスタンへの増派である。ドイツを代表する経済紙「ハンデルスブラット」は3月12日に、ドイツの連邦憲法裁判所が、ドイツ政府によるアフガニスタンへのトルネード型戦闘機の派遣について、事実上のゴーサインとなる判決を下したことを報じている。これによって、ドイツは今年4月より、比較的安定したアフガニスタン南部でのNATO(北大西洋条約機構)軍としての活動に加え、空からの武装勢力制圧に向けた活動に取り組むことになる。
ドイツがくしゃみをすれば、世界が風邪を引く
アフガニスタンは日本から遠い国だ。日本の個人投資家の中で、地政学リスクとしての北朝鮮を語る人はいても、アフガニスタン情勢についてフォローしている人は稀だろう。もちろん、その背景には日本の大手メディアがアフガニスタンについてほとんど報じていないことがある。情報が流されなければ、分析も評価も存在しないというまさに「沈黙のスパイラル」がそこに見て取れる。
しかし、このコラムでも以前お伝えしたとおり、今年6月に開催されるG8サミット(ドイツ・ハイリゲンダム)のホスト国であるドイツは、少なくとも今年前半、日本を含む世界中の金融マーケットを牛耳ることができる立場にある。実際、日本株マーケットのみならず、北朝鮮の「鉱物資源ファンド・マーケット」をめぐってもドイツは米国と鞘当てを演じているくらいの勢いなのだ。そのドイツが、いまだにイスラム系過激派による攻撃が絶えないというアフガニスタンに対して増派するのである。当然、ドイツ、さらには欧州マーケットにとって地政学リスクの増大ということになる。
現在、ドイツはメルケル政権が誕生した後に成立したREIT法などの影響で、不動産バブルの時期を迎えており、世界中から大量のマネーが流入している状況にある。ところがそうしたドイツ・マーケットに対し、アフガニスタンという厄介な地政学リスクが徐々に増結されつつあるのだ。アフガニスタン情勢の悪化、あるいはテロ組織によるドイツ国内での活発な活動といった「地政学リスク」が喧伝されれば、ドイツの金融マーケットは暴落する危険性がある。そして、ドイツ、ひいては欧州市場がそのように「くしゃみ」をすれば、世界市場全体が「風邪」を引く可能性は十分にある。
高まるアフガニスタン・リスクに注目せよ
実際、3月13日付のフィナンシャル・タイムズ(ドイツ版)は、ドイツ有数の大学であるミュンヘン大学で、学内のイスラム教過激派を摘発すべしとの大学当局から通達が行われたとの報道を行っている。ドイツ国内では今、「テロ警戒」が声高に叫ばれ始めている。アフガニスタン情勢への深入りは、NATO内部で英米が強く求めてきたものであり、ドイツはこうした圧力に屈した形で今回の増派に至ったわけであるが、まさに英米勢が仕掛けた「地政学リスク」の術中に入り込みそうな気配である。
先日創刊した弊研究所の公式メルマガでも今後、実際の情勢分析と共に繰り返しご説明していく予定であるが、マーケットは「上がる」のではなく「上げる」ものであり、「下がる」のではなく「下げる」ものなのである。ドイツとアフガニスタンとの関係を見るにつけ、一方において金融マーケットで異常なバブルが演出される中で、しっかりと「地政学リスク」が仕込まれていき、やがて暗転する仕組みがつくられていることがわかるのだ。欧州マーケット、とりわけドイツのREITに連動した金融商品へ投資している日本の個人投資家としても、無視できる事態では全くない。日本の大手メディアは「ユーロ高」を連呼するが、個人投資家としてはむしろ、「その次のシナリオ」を考えるべき時期が到来しているのである。
事態は北朝鮮情勢についても同じである。一見したところ陽転しているかのように見える北朝鮮をめぐる交渉が、一気に暗転する可能性は常に踏まえておかなければ、日本株マーケットを主に活動する日本の個人投資家として、越境する投資主体とその背後にいる米国に打ち勝つことは到底できない。『日本封じ込めの時代』だからこそ、個人投資家には複雑怪奇な国際情勢を読み解く、高い知的能力が必要になっているのである。
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