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「毎日新聞」2/15夕刊に載った記事です。
今回のゲスト、伊勢崎賢治さんは国連などで紛争地域の武装解除や戦後処理に深くかかわってきた。対談では、東ティモールなどでの経験から、軍事が絡む問題での日本の役割を聞くはずだった。しかし、伊勢崎さんの目には、日本があまりにふがいなく映った。今では自衛隊の海外派遣に消極的になったという話も飛び出した。(構成・鈴木英生)
中島:ご著書で、東ティモールでの話を興味深く感じました。
伊勢崎:あのときは、外務省の要請で国連に入って、いきなり多国籍軍を文民統括する立場に置かれたんです。それまでは普通の日本人と同じく、私にとっても軍隊は大変に遠い存在でしたから戸惑いました。しかし、私の下にいたオーストラリア軍の司令官が私を前に立てることで、現地の人にも私にも、文民統括とは何かを教えてくれた。この経験が、その後も非常に役立ちましたね。それと私は、このときに他国の軍を身近に感じて、彼らの目線から自衛隊を見られるようになりました。
中島:「自衛隊がどの程度、派遣先で役立っているかを吟味すべきだ」とも主張されていますが。
伊勢崎:PKF(国連平和維持軍)や多国籍軍の場合、ほかの先進国は、なるべく身銭を切らず人も出さずに、できるだけ大きな政治的影響力を及ぼせるかを考えます。それが先進国の外交なんです。派兵と引き換えに見返りの外貨がほしい発展途上国はともかく、最初から数ありきというように部隊をどんと積み上げる先進国なんて、日本以外にありません。日本はこの面で、最初から外交を放棄しているのです。そうすると派兵の理由は何か。国内政治しかないでしょう。これは非常に不純。軍隊を出すというのは、一般市民を殺すかもしれない究極の外交選択なのに。
中島:では、これからの自衛隊の海外派遣についてご提言は?
伊勢崎:今の状態では、絶対に出すべきではない。なぜなら、国民も官もメディアも軍事に対する意識が低すぎる。これが育たないうちは出せないと思います。軍事行動の意味を理解し、それを決定するための明確な外交意志を持たずにずるずると出すのは、先進国の振る舞いと言えません。
たとえば昨年末、あるシンポジウムで私と著名な元外務官僚、財界人が登壇しました。私以外の2人の主張は「イラク戦争の大義は間違っていたが、自衛隊を送って米国を助けたのは国益にかなっている」。おかげで対北朝鮮の国連決議もうまくいったと。
しかし、イラク人の死者は数えられた遺体だけで6万人。実際にはそれをはるかに上回るでしょう。これは大虐殺です。それをよく考えてほしい。死んだイラク人は日本の北朝鮮問題と全く関係ない。遠い異国の民の死と目先の国益を結び付けるのは、非道です。さらに驚いたのは、私がこう発言するまで、2人の国益論に会場の大半がうなずいていた。軍が市民を大量に殺す現実を実感できなくなっている。軍事に対する日本人の意識は著しく低いのです。
中島:「国益」が「日米関係が憲法の上位概念である」との意味になっていたとしたらまずい。
伊勢崎:それと、この派兵が決まったとき、多くの国民が国連PKFとの違いを理解しているようには見えませんでした。そこで、日本の民度に対する決定的な不信感を持ちましたね。
この二つは天と地ほども違います。PKFの部隊は国連の指揮下に入り、外交特権がある。現地で殺傷など何かの事件を引き起こしても現地の法からは免責という保護が与えられる。これが有志連合だと現地社会との契約はあやふや。しかもイラクで自衛隊は、有志連合の指揮下に入らないとされた。それなのに、隊員が犯罪に巻き込まれたらどう法的に保護するのかという議論はほとんどなかった。軍法会議もない日本が、隊員が海外で罪を犯したときにどう対処するか。現地の法廷に突き出すのか。これでは、彼らはたまったものじゃない。宿営地に引きこもるしか身を守るすべはないでしょう。この一件からも、日本には軍事組織を海外に送れるだけの体制、いや意識さえないと言えるでしょう。
中島:国民はこうした具体的な問題を無視してきた。保守はアメリカに寄りかかればいいという現場感覚なしの「現実論」だけ、左派も「9条さえ守れば」の非現実だけ。その両方に無理がある。
だからこそ、あえて今、しっかりとした護憲論を考えたいんです。今はアメリカにひきずられるかのようにして、なし崩しで改憲へと向かうより、9条をうまく使い、日本のスタンスをしっかりさせるべきだと思います。
伊勢崎:9条には国際貢献の面で積極的な意味があります。たとえば、アフガンの武装解除が成功したのは日本がやったからです。日本政府特別代表だった私はよく、軍閥に「日本の指示だから従う」と言われました。彼らは日本が経済大国であると共に、戦争をしない人畜無害な国だと感じ取っている。この日本人の人畜無害さは9条が培ったものです。なぜそのイメージをもっと利用しないのか。国際紛争の調停に、日本ほど向いている国はないのに。
中島:9条に国際貢献を書き込むべきとの考えについては?
伊勢崎:護憲派の最大の失敗は、国連への派兵にまで反対してきたことです。これは9条の禁ずる「国権の発動たる戦争」ではない。国権というより「国連権」でやるんですから、むしろ98条(国際法規の順守)から考えるべきだった。そうすれば、国連への派兵と有志連合への派兵の間で、線引きができたはずです。国連権でやるなら9条をいじる必要はない。
しかし、多くの官僚や政治家の発想はまず改憲ありきです。さっきのシンポジウムでは、私がアフガンについて「戦略的に重要なのに大使館の再開が遅すぎた」と批判したら、元外務官僚は血相を変えて「それは自衛隊が大使館を守れないkらだ」とかみついた。つまり「9条が悪い」と。
だけど、大使館を自国の軍に守らせる国はまずない。たとえば、日本のアメリカ大使館を海兵隊が守ったとして、反米デモに来た日本人に発砲したらどうなるか。そんなリスクを普通の国は絶対に負わない。大抵の国で、大使館を守るのは武装したプロの民間警備会社です。私は日本の警備会社が海外進出し、紛争地域で武装しても構わないと思います。
元外務官僚なら、当然知っているはずのそういう選択肢を無視してすぐ自衛隊の話を持ち出し、憲法改正に結びつける。議論の仕方がフェアじゃないですよ。
(*つづく)
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