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(回答先: 何を変え 何を守るか*3*地域の「教育力」を鍛える(1月4日)―北海道新聞 社説 投稿者 天木ファン 日時 2007 年 1 月 04 日 12:01:19)
私たちの「美しい国へ」 <3>
”子育て力が弱っている”
■ベテラン保育士高瀬敬子さん
名古屋市内の大通りから一歩奥に入った狭い路地にある「荒畑・もちの木共同保育所」。これまで千組以上の親子を見てきたベテラン保育士の高瀬敬子(54)が「おかしい。何かがおかしい。お母さんたちの子育ての力が弱ってきている」と思い始めたのは、もう十五年以上前になる。
無認可保育園「荒畑・もちの木共同保育所」の二十数年の歩みは、「お母さんたちの変化」と共にあった。もともとは認可保育園に入れない子供の「預かり保育」だけだったが、二十年前、「一時間でも息抜きしたい」という専業主婦も対象に「一時預かり」を、十五年前に第一子の子育てに悩む母子交流の場「赤ちゃん広場」を開始。予約せずに子連れで園に来られる「あらもちクラブ」、高齢者や中、高校生を招いた世代間交流会−。子育ての現場を知れば知るほど、新しいニーズが見えてきた。
高瀬さんは「現在の子育てのキーワードは“密室”」だという。いじめや虐待、学力不足が深刻になるに従って、「教育の基本は家庭」と声高に叫ばれるようになった。だが、その家庭は地域社会から孤立し、夫は仕事に忙殺されている。子供の全責任を負うのは母親だとわかっているからこそ、密室の子育てに息苦しさが募る。
■勉強も体育も高いハードル
「昔は『元気に育ってくれればいい』だったけど、今は、いじめちゃダメ、いじめられてもダメ、勉強もできなきゃダメ、体育もできなきゃダメ。そうやって、そうやって、どんどんハードルを高くしちゃうから、すごいプレッシャーですよ」
母親自身が、塾世代、いじめ経験世代であり、ある程度の学歴がないと幸せになれないことも知っているし、自分たちも、そうやって評価されてきた。子供が「思い通りの子」でない行動を取ると無表情になり、「見ないふり」をする人もいる。わずか一歳で「子育てに失敗した」と嘆くのは早すぎるのに…。
「今のお父さん、お母さんの弱さは、生活を経験していない弱さ。『女の子だから料理手伝って』ではなく『あなたは勉強していればいいから』と言われてきた。親子も友達も夫婦も本音で話した経験が希薄。青春時代に、自分の意見を持つ、人間関係をつくるということをしなかったツケは、子育てで回ってくる」
高瀬さんを戸惑わせたのは、泥沼になる前に離婚したという夫婦が少なくないことだ。「最後は別れるにしても、どうして子供のために血みどろのケンカをしてくれないの」との思いが残った。
人と向き合う経験が少ないまま、いきなり子供と一対一で向き合うと、その困難さは想像に難くない。秋田の殺人事件の畠山鈴香被告のように子供を見捨てる母親も、英才教育に入れ込む母親も「子供と向き合うのは本当に大変」という“出発点”は一緒だと高瀬さんは指摘する。
「『大変だからもっと頑張ろう。子供は私の作品なんだから』と頑張りすぎると止まらない。逆に『大変だから、ご飯はファストフードでいいや。だって私が壊れちゃうもん』なら育児放棄。どちらのお母さんも『子育て頑張ってる私って、えらい』という思いは同じなのに」
唯一子育てを共感し合える夫は、さらに幼く「もっと自分にもかまえ」と子供に嫉妬(しっと)することすらある。
■言葉を話せば『一人前』扱い
地域で子育て世帯をサポートする主任児童委員は、より深刻なケースを目にしている。愛知県内のある女性の主任児童委員は、早く職場復帰したいから、母よりも女でいたいから、生活が苦しいからと理由は異なるが、子供を勝手に「一人前」と見なす自分本位の考え方が気になっている。
三歳になって言葉を話すようになれば「もうこの子は、私の言うことを理解している」という思い込み。台所のテーブルの上に電子レンジが一台鎮座し、インスタント食品が二、三十種類並んでいる家庭。自分たちがインスタント食品で十分だから、子供も大丈夫という理屈らしい。
プライドの高さもある。
「ものすごく楽天的に高い目標をつくって、達成できないとガンガン叱(しか)る。ずっと『中の上』でいなきゃ、という感覚で生きてきたから人に相談できない。最近はもう親にも頼らない。『お母さんに相談したら』って言うと、『えっ、親ですか?』と、すごく意外そうな顔をされた。たとえ親でも、下に見られたくないと気負っているんでしょう。何だか不器用ですね」と、この女性は嘆く。
親が大事にしていることと、子供の幸せがかみあわない。それを、先の高瀬さんは「隙間(すきま)だらけの親子関係」と呼んでいる。
「本当に子供がかわいくて、頑張っている。でも、かわいいなら、なんで替えの紙オムツを忘れてくるの? なんで朝ご飯食べさせてこないの? すごく不思議だったけど、お母さんが一生懸命なのは、かわいい服を着せたり、木のおもちゃをそろえることで食事や夜早く寝かせることは大事にするリストに載っていないんだ、とわかってきた」
小さなボタンの掛け違いを、子供が成長してから修正するのは難しい。
「思った通りに育たなかったわが子を丸ごと受け入れるのは大変だから、『あんたはあんたで、勝手にやって』と無関心になっちゃう。遊びに行っても家の人に『こんにちは』も『さようなら』も言わなくていい『あいさつしなくていい家』になるんです」
今の母親の子育て力低下の理由を、今の母親だけに求めても答えは出ない。母親の母親の時代から、密室の子育ては始まっていた。
「子育てって模倣なんですよ。近所の人とか親戚(しんせき)のおばさんとか、多くの人がかかわっていれば、『私は自分の母親のような子育てはしたくない』と思った時に修正ができる。でも今はもう、修正したくてもモデルがないから悩んじゃう」
「荒畑・もちの木」の取り組みは、時計の針を元に戻すのではなく、大家族が担っていた役割を共同体の中で再生し、多くの人が子育てにかかわる環境を取り戻すことだ。その一つが、ゼロ歳、一歳の子供と母親が集まる「赤ちゃん広場」。子供を遊ばせるだけではなく、「ストレス解消法」「今の自分を見つめて」など母親同士の交流テーマが毎回設けられ、それぞれが思いを吐露する。
訪ねた日に集まったママさんは四人。育児ノイローゼとは無縁そうな前向きなママさんたちだが、やはり子供と二人っきりで家の中にいると、イライラが募ることがあるという。
「気が付くと宅配便の人としか話していなかった」。結婚前はフルタイムで働いていたという母親は「子供が昼寝して、急に時間が空くと、何もしていない自分に焦りや罪悪感を感じる」。「小さい子供がいる家は、父親の残業を禁止する法律を作ってほしい」という意見には一同が賛同した。
でも、みんなが一番大きく頷(うなず)いたのは、二十代の若いお母さんが少し照れながら、こう言った時だ。
「子供を産んで、初めていとおしいという言葉の意味が実感できた。やっと自分が大人になれたかな」
子育ての息苦しさを知るからこそ、高瀬さんはあえてこう訴える。
■育児は楽しい『今伝えねば』
「『子育てって本当に楽しいよね』って、今伝えなきゃとも思う。二十年前に一時預かりを始めた時は『甘やかしている』と言われたけど、千人中千人のニーズをすくい取るのが行政で、千人中一人、二人のニーズをすくい取るのが私たち。『お母さんだから頑張りなさい』じゃなくて、みんなで助けられる社会にしないとね」(宮崎美紀子、敬称略)
<デスクメモ> 二十五歳以下の若年層が人口比の一定割合を超えると、まもなくその国は戦争を始める。そんな説があるそうだ。近ごろの日本人の子育て力、子産み力の低下は、不安を肌で感じて、無意識に老人国家を歓迎しているのではないか。緩やかな滅びの道であれば恐ろしい。子供たちの笑顔が輝く国をつくりたい。 (充)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070104/mng_____tokuho__000.shtml
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