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いじめを苦に、自ら命を絶つほど追いつめられた子どもがいる。
指導に疲れ、心まで病んでしまう教師もいる。
教育の未来はどうなるのか。不安感が教育現場を覆っている。
学校の再生は喫緊の課題だ。
教育基本法改正を実現した安倍晋三首相は「ダメ教員にはやめていただく」と現場の尻をたたく。
だが、それだけで教育再生が実現できるものではないだろう。
社会全体で子どもを「育てる力」を取り戻すことが先決だ。教員の努力も大切だが、今こそ父母や住民たちの出番なのではないか。
子どもたちが生きる地域を、もう一度見つめたい。父母や住民、地元の企業が、自ら何ができるのかを真剣に考え、行動に移すときだ。
*大切な父母や企業の協力
恵庭市島松小には、児童たちが「田中さんちの畑」と呼ぶ菜園がある。昨秋は菜種を植えた。
外食産業のアレフ(札幌)が、種を無償で提供した。春になれば、菜種を有料で買い取って食用油をつくり、児童に無料で配る計画だ。
菜園の面積は約二アール。PTA元会長の田中和紀さん(52)が、無償で土地を提供している。
菜種の栽培は、田中さんとアレフが企画した。同校は菜種油のリサイクルや廃油の利用法などを理科の授業に取り入れた。児童は環境の大切さに興味を持ち、春の菜種摘みを楽しみにしている。
田中さんら父母は、学校の近くを流れる川にちなんだ「柏木川プロジェクト」という名前のグループも結成している。
一九九九年に活動開始し、現在は七十人が参加。川遊びやサケの稚魚放流の授業を手伝っている。
昨年は河川敷に二十本の桜の苗木を植えた。土地を管理する札幌土木現業所千歳出張所の職員も、子どもの植樹作業に協力した。
*再生のカギ握る住民の力
企業や土現を巻き込み、地域ぐるみの教育活動に盛り上げている点がユニークだ。
父母や企業がうまく協力し合えば、独自の学校づくりができることを島松小の事例は示している。
いかにして地域の「教育力」を結集するか。ここに教育再生の一つのカギがありそうだ。
江別市いずみ野小では、注目すべき父母の活動が続いている。
同校は、従来のPTAを廃止し、新たにC(シチズン=市民)を加えたPTCAという住民と父母の組織をつくった。十年前のことだ。
三百四十三世帯が参加し、「ぞうきんをつくる会」「本を補修する会」など十五サークルが活動中だ。
学校行事の運営もPTCAが中心だ。運動会では保護者席が混乱なくとれるように話し合いで決める。
地域防犯パトロールも自主的に行い「学校運営に欠かせないパワー」(伝住修一教頭)になっている。
住民の大半は、札幌などからの「引っ越し組」で、「わがまち意識」の希薄な土地柄だ。
「だからこそ、逆に住民が自発的に結集しなければ」と、PTCA会長の桜田智之さん(44)は語る。
江別市教委は二○○五年度から、父母が小中学校を自由に選べる学校選択制を、岩見沢市とともに道内自治体に先駆けて導入した。
住民の動向が注目されたが、いずみ野小では、校区外の学校を選んだ住民はほとんどいなかった。
「学校づくりを通じ、住民の一体感が生まれた結果だ」という桜田会長の言葉は傾聴に値する。
地域づくりの基本は学校にある。この考え方が活動を支えている。
学校選択制は、文部科学省が学校間の競争を促進しようと全国的に推進している。競争が地域の教育力向上につながるわけではないことを、文科省は再認識すべきだろう。
*上からの押し付けでなく
学校と住民の協力体制をつくることは、口で言うほど簡単ではない。失敗例もある。
文科省は○二年度、全国で九校の「地域運営学校」を試験的に導入した。保護者や住民が学校運営に参加する新しいタイプの学校だ。
しかし、現実には父母と学校側の意思疎通がうまくいかなかった。
原因は、文科省が「上」から学校と地域の協力体制を押し付けたからだと、教育学者は指摘している。
教育の再生には、もちろん学校側の努力も欠かせない。
例えば、石狩管内新篠津村の新篠津小は、五年生の授業に「田植え」や「稲刈り」を取り入れている。
児童の六割が農家の子どもたちだ。後継者不足も深刻化している。
保護者アンケートでは「授業で農家の仕事を教えてほしい」という要望も多い。同校は、そば打ちやみそ造りも教えている。
子どもに知識を教えることはもちろん重要なことだ。
同時に、大人が働く姿を見せ、地域の住民が多様な生き方や価値観を伝えていくことも、子どもの社会性を培ううえで欠かせないだろう。
地域の住民が体験を通して教えてくれたことは、教科書では学べない知識だ。
それは、間違いなく子どもが成長し、複雑な社会で困難を乗り越える「糧」となる。
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?j=0032
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