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【緊急報告】
深刻化するオーストラリアの大渇水
―大干ばつは大陸を干上がらせる!?―
※オーストラリアの大渇水について、PHOTO REPORT C(12 ページ)と関連した緊急報告を行う。
高崎哲郎
ダム湖の貯水量、減り続ける
ニューサウスウエルズ州・州都シドニーのホテルに到着した日の昼過ぎのことである。おそい昼食をとるためにホテルを出ようとしたところ、空が急に暗くなり雷鳴がとどろいた。その途端、大粒の雨がこの人口400 万人を超える大都会をたたき出した。道路が人声
で騒がしいので入口まで戻ってみると、多くの市民が豪雨に頭から打たれて小躍りしているのだ。「雨が降った!祈りが神様に通じた!」と叫んでいる。聞けば、降雨があったのは数週間ぶり、とのことであった。市民が狂喜するのもわかろうというものだが、この天からの恵みも無残なことに通り雨でしかなく、約 30 分後には夏の日差しが再び照り付け出した。私は到着した日に偶然目撃したこの光景から、この国の干ばつの被害が国民の精神にまで深く及んでいることを知った。
翌日、車をチャーターしてシドニー市のダムとダム湖(Dam and Reservoir)に出向いた。シドニーの西方に広がる乾燥した丘陵地を越えて、同市最大の水がめワラガンバ・ダム(重力式、写真-1)
とバララゴラング湖(ダム湖)を視察した。同ダムは水道水用ダムである。(少雨地帯の多いオーストラリアには洪水調節用ダムはないという)。水位が低下しているのは湖岸から一目見て明らかだった。インフォメーション・センターで州政府機関 Sydney Water(上下水道局)の女性広報担当者の説明を受けた。
「2002 年から続く干ばつで貯水量は目標値を超えたことはなく、目下半分以下の状況が続いている。夏が始まったばかりだが、今年は例年にない水飢饉が心配される」(図-1)
と彼女は表情を曇らせて語った後、市民に配布しているパンフレット「家庭でできる節水 10 項目」と同「庭園でできる節水 10 項目」を提供してくれた(写真-2)。
水道水の垂れ流しを中止し、一度使った家庭水も再利用するよう求めている。雨水の積極利用もうたわれている。ダム湖の水はここから太い水道管で約 25km 先の貯水ダム、プロスペクト・ダム(アースダム)に送り込まれる。そしてポンプアップされたうえで、網の目状の配水管でシドニー市内に送水される。プロスペクト・ダムのダム湖も水位は低下する一方である。水質保持と治安上の理由から立ち入り禁止であった。シドニー周辺には羊や牛の広大な牧場が広がっているが、どこを見ても牧草は枯れていて緑を見つけるのに一苦労する。
干上がった湖と山火事
写真-3 干上がったジョージ湖
首都特別区(ACT)のキャンベラを訪ねた。人口 32 万人の首都が、シドニーとメルボルンの首都争いの「妥協の産物」として計画された「人工の首府」であることはよく知られたことだ。人工湖バーリー・グリフィン湖のジェット噴水は、勢いよくとがった水を 140m
の天空に噴き上げていた。通りがかった政府役人に「大渇水なのに、噴水はもったいないですね。止める考えはないのですか」と声をかけてみた。役人氏は「この噴水が見られなくなったら、わが国は終わりだ」とそっけなく答えた。
「オーストラリアが、高い生活水準を維持するとの前提で国家建設を進めた場合、将来における総人口の上限は 2,500 万人前後とも言われている。技術革新が進み、低いコストで豊富な水を供給できない限り、この上限を突破することは不可能に近い」(竹田いさみ
『物語オーストラリア』(中公新書))。驚いたのは、干上がった湖が出現したことであった(写真-3)。キャンベラ郊外の東北方面の台地に広がっていたジョ−ジ湖が完全に干上がって、湖底には雑草まで生えだしている。あたかも一大干拓事業後の耕地のようである。南北に約 20km、東北に約 8km の自然湖(東京 23 区の 4 分の1 ほどの面積)が打ち続く干ばつで水を失って死んだのである。「私の若い頃は泳ぎもできたし、釣りも楽しん
だ市民の憩いの場でした」。車のドライバーは信じられないといった表情で語った。
渇水対策として、雨水貯水タンクが活用されており、貯水タンクを装置した家庭には行政から助成金が出ていると聞いて、工業地帯にある貯水タンク卸売り販売店を訪れてみた。冬場の降雨を貯蓄できる家庭用の手ごろなタンクで 1,000 ∼ 1,300 オーストラリアドル(日本円にして 10 万円∼ 13 万円)である。大きなドラム缶状のタイプから地下埋設タイプや複数を組み立てるタイプなどさまざまだが、売れ行きは好調だと言う。
同市の水がめ・グーゴン・ダム(貯水池)(写真-4)、スクリベナー・ダム、コッター・ダムを視察した。いずれも小ぶりな重力式ダムだが、ダム湖の湖岸では水位が低下して茶褐色の大地がむき出しになっていた。異常乾燥によって発生した山火事(Bushfire)の被災地にも足を運んだ。山火事に襲われた町もようやく復興が始まった。干ばつは不幸にして山火事との戦いを生むのである。
スノーウィ・マウンテンズ、水力発電ダムにも影響が
オーストラリア東部を走る大分水嶺山脈の南部、同国最高峰マウント・コジウスコ(2,228m)を中心として広がるのがスノーウィ・マウンテンズである。国立公園に指定されているこの山岳地は、同国随一の高級スキーリゾート地として知られるが、それ以上にスノーウィ・ハイドロ(電源開発公社)が開発した水力発電のダム群とダム湖が数多く存在することで知られている。(この国は豊富な石炭を使った火力発電と水力発電しかなく、原子力発電は行われていない)。インフォメーション・センターはダム群の巨大な工事を伝える写真や資料を提供している。分水嶺を越えたダム湖から長距離の巨大水道管で貯水を反対側のダムに流し込むダイナミックなシステムも紹介されている。「クリーン・エネルギー」がキャッチフレーズだ。ジンバダイン・ダム、カンコーバン・ダム、タンタンガロ・ダム(いずれも重力式)など代表的なダムを、山岳道路に車を走らせて訪ねてみた。案の定、どのダムも水位を大幅に下げたままであった。もうひとつ私が驚いたのは、相次ぐ山火事の何とも無残な惨状である。曲がりくねった山岳道路を車で走ると、燃えて役に立たない原生林の不気味な「死滅した森」が国立公園内にえんえん続く。山岳道路沿いにはその日の山火事の発生危険度を示す標識が立っている。
帰路、枯れ草に覆われた牧場に大きな看板が道路に向いて立っていた。「Don't treat us farmers like a dirt !」(われわれ農民を汚泥のように扱うな!)と大書されている。干ばつに対する政府の対応に抗議したのだろうか? 前途を悲観して農業をやめたり、謝金を(原文ママ)苦に自殺した農民も出ていると聞いた。
巨大ダムも大渇水
私は、マレー・ダーリング川流域をすべて踏破することは無理であることを知って、上流域にあたるマレー川を視察するためキャンベラからオルバリーに国内便で向かった。国内便はプロペラ機だった。機内の窓から見下ろす地上は赤茶けた大地が広がり、牧場は枯
れ草に覆われている。農業用溜池も干上がっているものが多いようだ。
マレー川はオーストラリア・アルプスの山腹に源を発し、海抜 1,800m の大陸のすべての水を集めて蛇行を繰返しながら流れ下る。途中、シドニー湾の 6 倍はあるとされる巨大な人工ダム湖・ヒューム湖を経て、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の州境を流れる。同川は 19 世紀半ばから 20 世紀初頭まで舟運で栄えた。羊毛を満載したパドル・スティーマー(外輪蒸気船)が行き来した。「羊の背中に乗った大国」オーストラリアの往時である。ヒューム湖に車ででかけてみたが、案の定湖水は平年の半分以下だ。湖岸が後退して、褐色の岸辺がえんえん続き、埋没林がところどころで姿を見せていた。巨大なダム湖はやや大きな沼に縮小していた。街中の家庭用品店では、プラスチック製の現代版水がめ(英語で Water saver)が売られていた(写真-5)。店員によると、これからに備えて購入する人が増えているという。
ダム建設か、水再利用か、海水淡水化か
オルバリーから空路でメルボルンに入った。同市は人口 337 万人を超す同国第 2 の大都会だが、この都会でも渇水は深刻な状態で、公園の池は干上がり、噴水は水を噴き上げない。ビルの屋上を貯水プールに活用しているところもあった(写真-6)。
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