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『朝日新聞』私の視点 2007年5月11日
上智大教授(憲法)
高見勝利(たかみ かつとし)
◆国民投票法 最低投票率 違憲ではない
憲法改正の手続きを定める国民投票法案をめぐる参院での審議が大詰めを迎えている。だが、重大な論点について議論が尽くされていないばかりか、憲法解釈上も見過ごせない奇妙な議論がまかり通っている。
その一つが、最低投票率を設けることを憲法違反だとする法案提出者の見解だ。その主張を整理すると次のようになる。
憲法96条は、国会の憲法改正の発議要件について各議院の「総議員の3分の2以上の賛成」と厳格に定める一方で、国民投票の承認については「その過半数の賛成」としている。
「その過半数」とは、実際に投票所に行き、賛成・反対の明確な意思を表示した投票権者、つまり、有効投票の過半数であることは一義的に明白だ。憲法に書かれていない最低投票率を法律で設定するのは憲法96条に過度の要件を加えるもので、憲法違反だー。
しかし、この見解は、憲法96条に関する独自の理解に基づくもので、一般的にはとうてい通用しない。
「その過半数」の意味については、複数の「解釈」の余地がある。他ならぬ提案者自身が、衆院の憲法調査特別委員会などで、過半数の算定基準として、(1)投票権者総数(2)投票総数(3)有効投票総数、という三様の理解がありうると、公言していたことからも明らかだろう。学説上も3通りの解釈がなされている。
そもそも、(1)の解釈に立てば、最低投票率の問題は生じない。集計の結果、投票権者名簿に記載された投票権者総数の「過半数」の賛成が得られなければ、国民の「承認」があったとはいえないからだ。
一方、(2)や(3)の解釈では、投票権者の何%が投票所に足を運び、票を投じたかが問題となりうる余地がある。「大量の棄権や白票・無効票が出た場合でも、投票総数等の過半数が得られさえすれば、国民による憲法改正の承認があったとしてよいのか」という疑問が生じるためだ。
最低投票率に関する規定を置くべきだとする主張がいま、弁護士会や法学者、市民団体などの間で強まっているのは、この点を突いている。あまりに低い投票率で憲法改正がなされる可能性のある法律を作ることが、国民の憲法改正権の本質に照らして問題はないのか、という問いである。
にもかかわらず、最低投票率を法律で定めるよう憲法に書いていないからという理由で、最低投票率を設定することを違憲だという主張は本末転倒もはなはだしい。その論理に従えば、国民投票法を作ること自体も憲法に明記されておらず違憲だという、奇妙なことになるのではなかろうか。
しかも、最低投票率が重大な争点になったのは、憲法96条の「その過半数」をめぐる複数の解釈の中から、提案者があえて「有効投票」を採用したためだ。
それに伴う問題解決のために立法上の手当をすることは、憲法改正権者を国民と定めた憲法の趣旨に沿いこそすれ、違憲の解釈はあり得ない。逆立ちした議論の横行を見過ごすわけにはいかないし、「良識の府」としての参院での真摯な議論を期待したい。
2007/05/11 12:03