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高木です。
先月24日、名古屋での国民投票法案に関する公聴会に、大阪弁護士会から
笠松健一弁護士が公述人として出席しました。了解が得られたので、公述意見
全文を転送します。
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参議院日本国憲法に関する調査特別委員会
名古屋地方公聴会公述人発言内容
2007年4月24日
大阪弁護士会 日弁連憲法委員会事務局次長 笠 松 健 一
第1、はじめに
1、私は、弁護士になって20年になります。その間、多くの訴訟や弁護士会の委員会活
動等に関わってきましたが、我が国における権利救済の諸活動において、日本国憲法を
改正する必要性を感じたことは全くありません。一部では押し付け憲法論が叫ばれます
が、日本国憲法は、当時の世界中の憲法の最高水準の到達点をまとめ上げたものです。
そのような、せっかくのすばらしい憲法があるのに、その理念が立法や行政や司法の現
場に十分に生かされていないと感ずることが多いのです。憲法改正を議論するよりは、
憲法をこの国で十分に生かすことこそが重要だと思っています。したがって、今憲法を
改正する必要はないと思いますし、憲法改正のための国民投票法をすぐに作らなければ
ならない状況にはないと思っています。
2、そもそも、憲法とは、国民の基本的人権を守るために、権力・権力者に縛りをかける
ものです。憲法とは、国会議員の皆さんを始め、権力を握る者に向けられた命令なので
す。ところが、現在の憲法改正論議を見ていますと、憲法によって縛られている、権力
を持った皆さんが、憲法の縛りがきつすぎる、憲法の縛りをもっとゆるくして欲しいと
言って憲法の改正を求めているように見えます。国民の側からは、憲法改正の要求は上
げられていないのが実情です。そのような状況で、拙速に国民投票法を作る必要はあり
ません。
3、仮に国民投票法を作るとしても、憲法改正のための国民投票は、国民主権が直接に発
動される最も重要な局面です。そこでは、国民が憲法改正案に対して賛成するのか反対
するのか、十分な情報収集と情報交換・意見交換が保障される必要がありますし、そう
して形成した自分の意見をできる限り的確に表明できる投票方法が保障されなければな
りません。憲法が保障する表現の自由の、最も重要な発現の場なのです。そして、もし
実施された国民投票に瑕疵があれば、無効訴訟によって争う権利が十分に保障される必
要があります。憲法改正の重要性から見て、これらの保障は必要不可欠です。なお、こ
の問題では、東京の菅沼弁護士と共著で、大月書店から「Q&A国民投票法案」という
本も出していますので、ご参照いただければ幸いです。
4、しかしながら、与党修正案には、以下に述べるとおり、重大な問題点が多数含まれて
います。それら問題点を解消するためには、どのような国民投票法を作るべきなのか、
一部の政党の限られた国会議員の間での議論ではなく、全国民的な十分な議論が必要な
はずです。3月22日に東京で公聴会が開催され、3月28日には新潟と大阪で公聴会
が開催され、そして、4月5日に東京で公募の公聴会が開かれたのも、国民の声を聞く
一環であると思います。ところが、3月27日、与党は、3月28日の地方公聴会も待
たずに修正案を決定し、衆議院憲法調査特別委員会に提出しました。3月28日と4月
5日の公聴会を聞かずに与党修正案は決定されたのです。そして、与党修正案を対象と
する公聴会は開かれないまま、委員会での強行採決、衆議院本会議での強行採決となり
ました。与党修正案は、国民の声を無視して衆議院を通過したと言わざるを得ません。
5、参議院では、4月16日の本会議のあと、17日から19日までの連日の特別委員会
審議があり、23日の参考人招致と、本日の仙台・名古屋での公聴会となりました。し
かし、若手の弁護士や学生が実施した街頭アンケートの結果でも、国民投票法案の内容
は、ほとんど国民に知られていません。本日の公聴会も、公募はされていません。参議
院では、慎重な審議を行うと約束されています。問題のある憲法改正手続法案を拙速に
採決してしまえば、後世に大きな禍根を残すこととなります。憲法は、この国のあり方
を決める重要なものです。是非、全国で公募の公聴会を開催していただき、多くの国民
の声を聞いた上で必要な修正を加え、その修正案に対しても国民の声を聞くという、丁
寧な審議をお願いしたいと思います。
第2、法案の内容についての意見
1、過半数の数え方と最低投票率
国民投票の過半数の母数を何に取るかは大きな問題です。この問題は、無効票の扱いに
関わるものですが、法案は、文言上は投票総数としながら、投票総数の中に無効票を含ま
ないことを明記しているので、結局従前どおり有効投票数の過半数という、最も憲法改正
に低いハードルを採用しました。しかし、無効票は、投票をし、なおかつ賛成意見ではな
いことが明らかな意思表示です。街頭でのアンケートでは、有権者全体の過半数と考えて
いる人が非常に多いという結果が出ています。その趣旨の新聞の投書もありました。少な
くとも無効票も含めて、投票総数の過半数とすべきです。
この問題は、最低投票率を定めるのか否かとも関連する問題で、結局、憲法改正が正当
化されるのに、有権者のどれだけの賛成が必要かという問題です。法案は、最低投票率を
定めていませんが、できるだけ多くの主権者の意見を反映させるためには、最低投票率を
設けることは必要不可欠な手段です。憲法改正という国の基本的あり方を決める場面で、
最低投票率さえも設けず、10パーセント程度の非常に少ない賛成票でも憲法改正を実現
させるというのでは、主権者国民の意思を問う法律としての体をなさないと言うべきです。
日弁連の意見書では、投票総数の過半数とし、最低投票率を3分の2以上としていますが、
憲法改正の重要性から考えて、私もこの意見に賛成します。
2、情報交換・意見交換の自由の制限について
@、最も重要な問題は、国民投票運動の規制の点です。憲法改正国民投票は、国民が国民
主権を直接的に行使する重要な機会ですから、憲法改正に関する情報交換や意見交換は、
表現の自由が最大限に保障されるべき最も重要な場面です。そこでは、国家からの制限
ではなく、逆に国民に表現の具体的な場を保障することこそが必要と考えます。具体的
には、憲法改正の賛成派と反対派に対して、政党の枠を超えて、国家の費用で平等に、
公聴会や、新聞・放送の枠の提供等の意見交換の場を積極的に与えるべきです。
ところが、法案では、意見交換の保障は政党及び政党が指定する団体にしか認められ
ず、国民に対しては国民投票運動の規制のみが規定されています。この間の法案に対す
る問題指摘を受けて、マスメディアや外国人の規制ははずれ、裁判官等の特別職の公務
員の運動禁止もはずされましたが、全国で500万人以上いる一般職公務員と教職員は、
その地位を利用して運動することが禁止されます。当初は与党案が罰則付きで設け、民
主党は制限していなかったのですが、両党とも罰則をはずした規制を設けることで一致
しました。
しかし、国民投票運動の定義規定によると、単に憲法改正賛成・反対と意見を述べる
だけでも国民投票運動とされて規制を受けることとなる可能性があります。一般職の公
務員と教職員は、その地位を利用して運動することが禁止されますが、「その地位にあ
るために特に国民投票運動を効果的に行いうるような影響力」とは、内容が極めて不明
確な文言です。この表現で、規制の濫用を防ぐことができるのかどうか、不明確な文言
による表現活動の不当な規制と言わざるを得ません。罰則をはずしたといっても懲戒処
分は可能ですから、規制権限の濫用の危険は除かれていません。
A、新聞やテレビへの有料意見広告には莫大な費用がかかります。そのため、資金力の差
が広報力の差となって現れることとなります。これをそのまま放置すれば、「金で憲法
改正を買う」ことにもなりかねません。この問題は、表現の自由に対する規制の根本に
関わる極めて重要な問題です。
民主党案は、発議後はテレビへの有料意見広告の全面禁止という方法で解決しようと
していますが、イタリアの例と同じく、次の税金を使用した広報宣伝活動のサポートを
十分に機能させることと組み合わせることが、表現の自由に対する制限の問題を避けら
れる唯一の解決策だと思います。法案は、投票日の前14日間の制限を規定しますが、
単に期間を制限するだけでは、表現の自由に対する制限として憲法上問題が残るだけで
なく、14日前まではテレビ広告が放置され、「金で憲法改正を買う」ことになるとい
う問題を解決できません。根本的には、テレビへの有料意見広告の全面禁止を、税金を
使用して行う宣伝広報活動を、政党の枠を超えて、一般国民にも広く厚く保障すること
と組み合わせることによってのみ、解決の道筋が見つかるのです。
B、国会に置かれた広報協議会による広報活動と、政党による税金を使用した放送・新聞
広告が規定されていますが、そもそも、憲法96条の規定では、国会が関与するのは発
議までで、国民に提案された後は、国会の関与は予定されていないのではないでしょう
か。そうであれば、広報協議会は憲法違反の可能性があります。繰り返しますが、税金
を使用した広報を政党や政党の指定する団体に限るべきではありません。広く国民一般
の広報宣伝活動を税金でサポートすべきです。
憲法改正に対する賛成意見と反対意見を、具体的にどのようにして平等に扱うことが
できるのか、これも難しい問題です。しかも、賛成意見は1つでしょうが、反対意見は
様々な立場からの様々な反対意見がありえます。それらを、どのようにして公平に扱う
のでしょうか。この点の解決もできているとはいえません。さらに、全国民的な十分な
議論が必要です。
C、戸別訪問は、自分の意見を周りに広げようとする時に、資金力のない者にとっては、
極めて重要な表現活動の一つです。法案には、戸別訪問禁止の規定はありません。しか
し、戸別訪問は、必然的に他人の建物内に立ち入ることとなりますから、住居侵入罪と
して規制されるおそれがあります。そのため、憲法改正に関する表現活動が、著しく萎
縮するおそれがあります。むしろ国民投票法には、戸別訪問が規制されないことをこそ
明記すべきと考えます。
3、一般的国民投票について
民主党は、憲法改正に限らず、一般的な国民投票を提案していますが、間接民主制、特
に小選挙区制の下における、国民全体の意見と国会での議論の乖離を解消するために、直
接民主制を導入することには賛成です。
4、一括投票の問題点
憲法改正案が複数の論点に及ぶ場合に、その全体を一括して投票させるのか、個別の論
点ごとに投票させるのかは、極めて重要な問題です。法案は、「内容において関連する事
項ごとに」発議し投票をするとしています。しかし、どの程度の関連性があれば一括して
発議・投票できるのかあいまい不明確です。また、関連性の判断が提案する議員に任され
ています。これでは、国民の正確な意思が反映できる投票になるという保障はないと言わ
ざるを得ません。
5、周知期間
法案は、周知期間を発議後「60日以降180日以内」としています。しかし、周知期
間が60日しかなければ、憲法改正問題について、市民集会を開くことも学習会を開くこ
ともできません。月刊雑誌が憲法改正問題の特集を組むこともできませんし、関連する本
を出版することもできません。これでは、国民が憲法改正案について十分に情報を収集し、
意見交換をして自分の考えをまとめていくことができないままに投票を余儀なくされてし
まいます。論点が複数にわたれば、さらに議論する時間が必要となります。180日でも
十分とはいえません。最低でも1年は必要と考えます。
6、国民投票無効訴訟
国民投票無効訴訟の規定は、その要件や手続、効果のいずれの点においても、検討が極
めて不十分といわなければなりません。これまで、学会でも法曹会でも、全く議論してこ
なかった訴訟手続です。少なくとも法曹三者と憲法学者、行政訴訟法学者等が十分に意見
交換をして内容を詰める必要があります。
例えば、訴訟管轄でも問題点はいくつもあります。法案は、第一審裁判所を東京高等裁
判所としていますが、しかし、三審制を保障して、地方裁判所を第一審裁判所とすべきで
す。また、情報公開法で実現された地方管轄と同じように、各地の裁判所でも訴訟を提起
できるようにすべきです。東京でしか裁判が起こせないというのでは、地方の国民は黙れ
と言わんばかりです。
提訴期間も、30日では余りに短すぎます。憲法改正の効果の発生時期は、国民投票無
効訴訟が決着してからにすべきです。憲法改正の結果に従って多数の法律ができた後、憲
法改正が無効とされると、大混乱を生じます。現在の違憲審査に消極的な裁判所の問題点
は、憲法調査会の議論の中でも指摘されていましたが、裁判所は、国民投票を無効とした
場合の混乱を心配して、違憲審査にさらに消極的になる惧れがあります。その他、重要な
問題点が多数あるのですから、少なくとも学者や法曹関係者が参加して、もっと緻密な議
論を行うことが必要であると考えます。
7、国会法の改正
国会法の改正では、常設の機関(会期とは無関係に常時活動できる)として憲法審査会
を置くとし、憲法審査会は憲法改正案の提案もできるとしています。しかし、常設の機関
を置くことは、国会の会期制の原則に違反する惧れがあります。また、衆参両院の意見
が分かれた場合、つまり1院が憲法改正案を否決した場合の意見調整を図ることに主眼が
置かれ、合同審査会や両院協議会が置かれていますが、憲法96条は、衆議院と参議院を
平等かつ独立に扱っていますから、そもそも両院の意見調整は予定されていないと思われ
ます。これらの点についても、さらに十分な議論が必要と考えます。
8、結論
以上の通り、私は、法案には重大な問題点が残されており、まだまだ議論は尽くされて
いないと考えますし、法案をこの国会で成立させることは拙速に過ぎると考えますし、法
案をこの国会で成立させることは拙速に過ぎると考えます。さらに慎重な審議を尽くされ
るよう求める次第です。