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(回答先: ITから見た年金問題考察【ITpro】 投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 8 月 12 日 01:08:26)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070705/276798/
CRM(顧客関係管理)分野で数々の経験を積んできたコンサルタントの多田正行氏がwatchdog(番犬/監視人)として,CRMの現状や将来を語ります。多田氏は1947年生まれ。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社),「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社),「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)などがある。
6月29日金曜日の深夜,テレビ朝日で「朝まで生テレビ」が放送された。与野党の国会議員が出席し,国民年金に関して意見を戦わせていた。
その番組を見ていた筆者は,片山さつき衆議院議員の発言に,思わず起き上がって映し出されている画面を注視した。片山氏は「(新しい年金システムは)数カ月でできる」と発言したのだ。筆者は「どうやったら数カ月でできるのか説明してください」と画面に向かって叫びそうになった。
同時に,筆者は片山氏の「数カ月でできる発言」には何かの根拠があるのではないか,と考え始めた。国会議員,それも自由民主党広報本部副本部長兼広報局長としての発言だから,さすがにまるっきり根拠や確信のないことは言わないだろう,と考えたからだ。
テレビに映し出された片山氏の発言はそこで終わったのだが,隣席の出席者から小声で訪ねられたのだろう,小さな声で「マイクロソフトの…」という片山氏の私語が短い時間流れた。
筆者はその私語から憶測を始めた。マイクロソフトの誰かが片山氏に対して「社保庁の年金記録に関する情報処理システムの刷新は数カ月でできる」などと説明したのだろうか。あるいは,マイクロソフトから社保庁の新システムに関する提案のようなものがあったのだろうか。
年金システムに関してマイクロソフトのWebに何か掲載されているかもしれない。マイクロソフトは公共機関向けにGovernment WebというWebサイトを開設している。
マイクロソフトはこのWebサイトで「Connected Government Framework (CGF) 」と題する基盤整備コンセプトを説明している。ただ,ここには「数カ月でできる」という片山氏の発言につながりそうな情報は見出せなかった。マイクロソフトと「数カ月でできる発言」の関係はないのかもしれない。
筆者の過去の経験や知識からすると,社保庁の年金システムの開発が数カ月でできるというのは,まず信じられない。ITproの読者の皆さんも同意してくださるのではないか。
例えば,米国の巨大な私的年金基金(特に401K)が運用している情報システムをそっくり複写させてもらい,必要に応じて改変し導入する,といったアプローチであれば,可能性はゼロとはいえない。しかし,それでも数カ月で完了させるのはまず無理だと言っていい。たとえシステム企画や要求定義が済んでいたとしても,だ。
社保庁は内閣府の有識者会議に「業務・システム最適化計画」を提出している。ただこのドキュメントは方針を示しただけで,同庁がどのような情報システムを新たに開発しようとしているのかは明示していない。もちろん,要求定義に類するものも示されていない。
脇が甘い「SEがいない」発言
この「朝まで生テレビ」で片山氏は「(社保庁には)SEがいない」とも発言した。片山氏がどんな役割を担うIT専門家をSEと呼んでいるのかは分からないが,SEがユーザー側の組織にいるかいないかは,さほど大きな問題ではない。根本のシステム企画の部分はさておき,その時々に応じて専門家に依頼すればよい,というのが筆者の考えである。
今の社保庁に必要なのは,いわゆるCIO(情報最高責任者),つまり組織運営を左右する情報システムの利活用について,専門的な知識,経験,見識を備えた上級マネジメント(経営陣)だ。
例えば,日本郵政公社にはCIOがいる。吉本和彦理事が民営化に向けて情報システムの指揮を執っている。吉本氏は民間の金融機関でCIOを務めており,その後郵政公社へと移った(「経営とIT新潮流」に掲載された関連記事)
「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」の第10回議事録要旨には,大山永昭委員による発言が次のように書き残されている。CIOの必要性について上手く説明している。少し長くなるが引用する(議事録要旨はこちら)。
『いよいよ組織の形が決まり,社会保障制度がどういうふうになるかも出てきて,それからコンピュータのシステムの開発に入るわけだが,いわゆるPDCA(Plan−Do−Check −Act)の中のまだPを作りつつあるという状況。特に3ページ目(筆者注:会議中の資料)にもあるように,社会保険と労働保険の徴収事務の一元化という行政改革の課題から出てきた話があるが,私が今回見せていただいた印象は,ひょっとするともっと良い方法があるかもしれないということである。
何を申し上げたいかと言うと,例えば,厚生労働省にもCIOとCIO補佐官の方がいらっしゃる。ところが,CIOの方は,社会保険庁が厚生労働省の外局だからということもあり,現在,全く違う体制で,この緊急な課題に対応するためのプロジェクトチームが長官の下にできている。この状況は理解できるが,一方では,厚生労働省の中を見るだけでも,業務や運営の仕方,それからさらには制度,そしてITの技術の全てを知っている人がいれば,もっとうまい方法が見つかるのではないかという印象を持った。
CIOは,本来,このように全体を統括することが役目である。ITガバナンスの必要性も書いてあるが,全体を知っている人がいなければITガバナンスを確立することはできない。ここから作業が始まるので,このような人が1人もいないとしたら,厚生労働省がこれからITを使ってここに書いてあるとおりのステップで踏み出そうとしても機能しないのではないかと危惧する。』
SEとCIOは違う。CIOは先ほども述べたように上級マネジメントで,組織全体のITの利活用に関して責任を負う人である。SEがいるかいないかというのは枝葉末節の話題である。筆者は片山氏の発言にはITがらみの難問を解決するための視点や知識が欠けていると思った。
筆者は片山氏の公開プロフィールを眺めてみた。片山氏のキャリアは大蔵省から始まっているが,情報システムの計画,開発,運用支援に関わる業務に従事されたと思わせる内容はなかった。
片山氏の「できる発言」,「SEがいない発言」は,社保庁のITがらみの混乱に輪をかけるだけだったのではないか。片山氏は今後,ITに絡んだ話題について発言するのは避けた方がいい,と筆者は思った。ただ,こんな筆者の心配をよそに,システム開発のことを少しでも知る人々は皆「仕方がない」と流しただけなのかもしれない。