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ITから見た年金問題考察【ITpro】
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投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 8 月 12 日 01:08:26: sypgvaaYz82Hc
 

ITから見た年金問題考察【ITpro】(戸並隆:SEは中流を目指せ!より)

2007年07月26日

ITから見た年金問題考察(1)
COBOLや名寄せシステムの問題ではない

 多田正行さんのコラム『片山さつき議員の「システムは数カ月でできる」発言に思う』は,ITpro Watcherで長らくアクセスランキングのトップを占めていました。このコラムは,テレビ朝日の「朝まで生テレビ」での片山さつき氏の発言について,システム開発の実情を知る多田さんの疑念を表明したものでした。

 情報システムを作り直せば年金記録の紛失問題が解決するかのような発言は,片山さつき氏だけではありません。「朝まで生テレビ」の司会者である田原総一朗氏は,「国民はなぜ安倍内閣を見放したか」というコラムの中で,「“COBOLを使っていたら数字が無茶苦茶になって企業は倒産する”40年前の骨董品のようなシステムを使い続けたことに問題がある。社保庁問題はコンピュータの問題であり,直接には安倍内閣の問題ではない」との見方を示しています。

 年金記録紛失問題の原因を究明している「年金記録問題検証委員会(年金検証委)」の中間報告でも,「年金記録問題発生の主な原因,背景」の最初に「社保庁業務を十分考慮検討せず設計導入し,使い勝手の悪い旧式システムを更改しなかった業者(NTTデータ)側の問題がことを大きくした」という主旨の記述があります。

 田原総一朗氏や片山さつき氏の発言は,大衆そのものの感情を代表しています。しかし,年金検証委の報告は,田原氏や片山氏の発言とは重みが違います。コンピュータの問題にすり替えれば,それで世論の混乱は収まるかも知れませんが,「使い勝手の悪い旧式システムを使い続けた」の部分は,田原氏のピンボケ発言(安倍首相擁護の恣意的発言?)と同じようなものです。「ITガバナンスの観点から古いCOBOLで運用しているシステムはダメ!」なら,ITサービス業界が新規開発の需要を期待して,涎(よだれ)を垂らすだけです。

 さらに,「十分考慮して設計していない」とまで言われれば,我々SE(システムエンジニア)がほっておけることではありません。

 宙に浮いた年金記録5000万件は,「支払裁定時に決着するから問題ではない」というのが当時の認識だったのでしょう。今の世論では大問題ですが,年金制度は元来申請主義です。杜撰(ずさん)と言えば杜撰ですが,こんな程度の認識だったんでしょう。基礎年金番号を1997年に導入する以前の年金制度運営は無謀でおぞましいものですが,これも申請主義だからやってこれたのです。

 「年金請求権は時効5年」という法律もありましたから,頭の良い官僚は不明データ5000万件のほとんどが支払いに該当しないと想定していたはずです。保険料の支払いを減らすことは,国益から見ても「正しい」と本気で思っていた官僚もいたようです。共産党の試算では,宙に浮いた5000万件への支払いに20兆円が必要になるそうです。平成17年度現在の年金積立金総額は150兆円です。不明データ5000万件のうち2000万件以上が既に60才以上だそうですから,安倍さんが言うように最後の一人まで支払ったら年金制度は数年でパンクします。


選挙ごとに繰り返される年金問題

 転職した,会社を辞めて国民年金に移った,あるいは国民年金に加入している自営業者が事業所の住所を変更した。こうした場合,年金手帳を持って事業所や役場に届け出なければ,その年金は原則,宙に浮いてしまいます。前職を隠すため届けなかったケースも相当量あり,1人5,6冊の年金手帳はザラだったようです。制度の運用や国民への周知徹底はいかにも杜撰です。運用側は,倫理観の欠けた,桃源郷のような“親方日の丸”だったのです。こうした“寄らしむべし知らしむべからず”の思い上がりのビューロクラシーは,思考停止の国民が支えています。

 入力ミスは今回のサンプリングでは1%の確率で発生しているようです。5000万件のほとんどは複数の年金手帳を持っている方々です。ITで名寄せ・統合できるものは,既に統合されています。

 2004年の参議院選挙でも,国民年金の未納・未加入問題やその情報漏洩,制度改革で盛り上がりました。でも選挙が終わったら急激に冷めました。多分,今回も選挙が済んだら一気に冷めます。熱しやすく冷めやすい国民とメディアの体質。今後も選挙になれば,必ず年金問題がぶり返します。少子高齢化の日本が置かれたシンボル的問題ですから。

 年金の名寄せ問題は,金融機関の名寄せとは似て非なる文化風土が生み出したものだったのです。移行の杜撰さはそんな文化が根っこにあります。それが当時の常識だったのです。今はマスコミが正義の味方として叩いていますが,当時の関係者の思考の範囲内(常識)では,“お上”のやり方は問題でも何んでもなかったのです。人間は常識や思い込みにより思考範囲や思考限界を自発的に設定し,適切に思考停止をするように作られているようです。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070724/278095/

2007年08月02日

ITから見た年金問題考察(2)
私が社保庁プロジェクトのSEだったら?

 紙台帳への記載,役場と企業とのやりとり,命令系統の三層構造,コンピュータ入力…。「年金記録問題検証委員会(年金検証委)」の中間報告では,様々な問題が様々な段階で積み重なり,今日に至ったとしています。そんな状況で,社会保険庁のプライムコントラクタであるNTTデータのSE魂はどうだったのか? それとも,魂なんて元々なかったのか? 社保庁の理不尽な要求に毅然として「No!」を言ったのか? コンテンツはコンテクスト(文脈)の中で意味を持ちます。コンテクストが全く違えば,同じコンテンツでも全く違う意味になります。

 複数の年金手帳,オンライン前の処理の杜撰(ずさん)さ,アルバイト入力…。基礎年金番号を統合することで表面化した凄まじい件数の宙に浮いたデータを目の当たりにして,社保庁のSEたちはどのように感じたでしょう? 少なくとも,バラバラの台帳では出現しなかった潜在的問題が露呈したのは,コンピュータ統合した効果です。複数回にわたる名寄せ統合で,日本の総人口よりも多かった3億件の被保険者番号は絞り込まれ,宙に浮いた年金番号は5000万件にまで絞り込まれました。今後どのように問題を解決していくのか?そのプロセスに関しては相当の議論が重ねられたと思います。

 過去からの様々な杜撰(ずさん)な措置が積み重なった結果が,5000万件の宙に浮いた年金番号です。一挙に解決するのは不可能です。おそらく,社保庁の決断は「年金の裁定申請時に決着させる」だったでしょう。少なくとも,オンライン化で社保庁の業務運用の品質レベルが下がったわけではありません。今までの杜撰さの本質的(?)解決は,裁定時決着しかない。私が社保庁の担当者であっても,そう考えてあきらめただろうと思います。

 これも当時の文脈(コンテクスト)背景での判断です。宙に浮いた5000万件の半分以上が,裁定申請時を過ぎた60才以上の年金番号だと分かっても,方針の変更はありませんでした。政治的な“決着”だったからです。昨年,民主党の長妻議員から年金問題を追及された安倍さんの最初の答弁は,「不用意に国民を混乱させるな!」というものでした。メディアが年金問題を叩き始めた今年に入っても,最初は同じ反応でした。

 システムとは異なる要素が有機的複雑に組み合わされた,部分に分解できない全体系です。それをエンジニアリングするのがSE(システムエンジニア)です。ITのターゲットドメンは人間系システムですから,そのエンジニアリングはさらに難解です。

 社保庁とSEとの要求定義や機能設計の現場が実際はどうだったのかは,分かりません。SEの対象は,あくまでもIT化する業務です。ユーザーやクライアントが言えるのは,曖昧や冗長を含んだ要望や思いです。それをユーザー運用の観点から全体を見ながら本質をつかみ,ユーザーからの要求の行間を読み,その上で行間を読む必要のない明確な要求定義(Requirements)を策定するのがSEの仕事です。

 しかし,SEが納得できないRequirementsを無理強いするユーザーもいます。その場合,SEは断固として「No!」と言わねばなりません。それでもヤレと言うユーザー相手には,遂行せざるを得ない時もあります。しかし,優秀なSEであればそうした場合にも,必ず代案を用意しておきます。80%以上の確率で,問題が生じますから。

 ユーザーに対する「No!」は,システムの実装フェーズにおける技術的問題ではなく,ITをツ−ルとして利用するターゲットドメインのビジネス局面に対して申し立てできなくてはなりません。Requirements通りに作れば良いというユーザーとは,必ず「言った言わない」の不毛の議論になりますから,何故問題になるのかを説明した文書(議事録)を交わしておきましょう。「No!」と言わなかったばかりに,「専門家のSEが認めたから」と責任をIT側に押し付けるケ−スは山のようにあります。


運用維持はシステム規模に合わせて幾何級数的に難しくなる

 ここに「社保庁次期システム構想」があります。2006年の情報ですから,年金が国を揺らすような大問題になるなんて想像だにしていません。かなり詳細なデータです。これを見てNTTデータが悪いと簡単に言えるでしょうか?

 この中で,宙に浮いた5000万件の年金番号に関係する記述を探しました。もちろん,宙に浮いたデータがあるなんて言えるわけもありません。ぼかしながら「年金裁定時までに…(略)…確認整備を行っている」とだけあります。裁定時に決着するから,と軽く考えているわけでもないようです。社保庁システム全体の規模は,2100万ステップです。紛れもなく大規模システムです。何と700万ステップのプログラムもあるようです。Web2.0とかマッシュアップとかの問題ではありません。基幹システムの複雑性は,尋常ではないのです。

 COBOL言語とメインフレームは堅牢性に関して,オープンシステムの比ではありません。堅牢性は年金システムに求められる重要な視点です。ただ,制度改正や政治問題からバンバンにシステム変更があると思います。ユーザーである社保庁は,納期なんてほとんど聞いてくれなかったでしょう。

 システムの運用維持は,規模が大きくなると幾何級数的に難しくなります。コミュニケーションギャップが起き,それに関わるオーバヘッド作業だけで6,7割を占めます。つまり計画を進捗する本来の工数は残りの3,4割になってしまうのです。ソフト開発が労働集約である以上,どうしようもありません。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070724/278096/

2007年08月09日

ITシステムから見た年金問題考察(3)
システム問題へのすり替えは策謀である

 社会保険庁のシステムは,長年のメンテナンスや改良維持のため,ソースコードはスパゲッティ状態。改造改築の温泉旅館の曲がりくねった渡り廊下状態になっているはずです。メンテナンスコストも幾何級数的にはね上がっているでしょう。「年金記録問題検証委員会(年金検証委)」の中間報告では,使い勝手の悪い旧式システムを更改せずに使ってきた,と業者の責任にしていますが。とんでもない! 業者(ITベンダーやSE)には再構築したい!という強い気持ちがあるはずです。

 年金記録の紛失問題を,システムの問題にすり替えることは断じて許せません。NTTデータも,我々IT側を代表し,主張すべきは主張して欲しい。政府・自民党はITを“犯人”として前面に押し出すことで,国民やメディア,野党の目をそらし欺こうとする魂胆のようです。

 ITは経営システムを実現するためのツールに過ぎません。コンピュータの黎明期から40年経った今でも,「ITは神聖」なんでしょうか? ITオタクや特殊な技術を持っている人間達の閉鎖的世界なんでしょうか? こうした考え方こそが,ユーザーの無理解と技術を妄信するIT屋の奢(おご)りを生み,無数の「動かないコンピュータ」の温床になっているのです。ITの世界にいるトナチャンは,何か情けない気持です。

 そもそも“IT”という軽薄な言葉が,間違っているんです。“情報システム”と言わねばなりません。この連載で何回も繰り返していますが,「システムとは異なる要素が有機的に組み合わされまとまりをもった,部分に分解できない全体系」なのです。人間やITは,その要素なのです。

 正確に言うと,情報システムの要素の一つがITです。私は技術一辺倒のIT屋ではなく,情報システム屋です。「IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標」(独立行政法人情報処理推進機構のサイトより引用)とされるITSS(ITスキル標準)は,IT屋のスキル標準であり,開発の下流で使われるスキルです。上流では“デスマーチ・プロジェクト”という言葉の生みの親であるエドワード・ヨードンが言うように,政治力,交渉力,人間力が艱難(かんなん)を避けるために役立ちます。

 社保庁の宙に浮いた5000万件の問題は,情報システムの問題ではあります。しかし,ITの問題ではありません。まして,名寄せのような矮小(わいしょう)な話ではありません。

 政治家が逃げの手で使う“事務方”という言い方は,キャリアに対するノンキャリ。幹部に対するヒラ,セレブに対する大衆…,全くの差別用語です。百歩譲って事務方という言葉を使うとしても,事務方がやっている詳細が分からなくても全体を掴(つか)むことができなければ,上に立つ人間ではありません。


SE諸君,腐った政治に巻き込まれず毅然たる態度であれ!

 今回も,ITベンダー害悪説を唱えるITコンサルタント,大学の先生,政治家や評論家が,わかったようなことを言っています。私もITサービス産業をボロクソ言いますが,これは身内だからこそ,その不甲斐なさに腹を立てているわけです。勝手なようですが“部外者”である外資系コンサルタントやベンダーが適当なことを言って,政治家やジャーナリストを唆(そそのか)すのは許せない。

 選挙が終われば,マスコミも国民も野党も年金問題が頭から去ります。4000億円近い「グリーンピア」をたった48億円で売却したり,今回,社保庁はいかに杜撰(ずさん)でデタラメな組織だったかが白昼の下にさらされました。

 そんな政治の圧力を受け,SE諸君は良くやってきたと思います。NTTデータと社保庁の癒着構造がメディアで叩かれています。メディアが動くと政治が直ぐ反応します。選挙目当ての何でもアリです。しかし,どんなITベンダーが入っても,これらの問題の原因はビューロクラシーと政治にありますから,真面目なSEは泣くでしょう。e-Japanがどうだったのかを振り返れば,それは明らかです。

 NTTデータのSE諸君,毅然たる態度であれ! ただし,SEとしてやましいところがあるなら去れ! 腐った政治に真っ当なSEは巻き込まれるな。堂々とSEとして主張しよう!

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070724/278106/?L=r2

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