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2008/1/6
「長野県の医療、ピンチ」
1月6日の信濃毎日新聞は、医師不足問題のオンパレード。1面トップは「県内中核病院産科医三割減」、3面に「上伊那地方、公立3病院再編検討」、北信地域面には「須高地区、産科医療の再構築探る」、千曲市・坂城町「病院問題への対応急務」。
まずは1面トップの産科医不足の記事から。
県内中核的病院の産科医、4年で3割減
県外転出や産休で 信大講師調査
1月6日(日)【信濃毎日新聞】
県内で、妊婦の救急搬送を受け入れている地域の中核的病院に勤める産科医が、2004年1月時点の100人から、昨年末時点で73人にまで減少していることが5日、日本産科婦人科学会医療提供体制検討委員を務める金井誠・信大医学部講師の調査で分かった。本年度内にはさらに数人が辞め、70人を割り込む見通し。過重な負担からさらに離職が進む悪循環につながりかねない状況だ。
調査は、県内で妊婦の救急搬送を受け入れていた病院(07年1月時点で22病院)が対象。産科医の退職者はこの4年間で43人に上った。退職の理由は、信大以外の大学から県内の病院に派遣されていた医師が引き揚げなどで県外に転出したケースが12人と最多。次いで産休・育休が10人、開業や結婚に伴う県外転出が9人、県内での開業が7人などとなっている。
これに対し、この4年間で県内の中核的病院に新たに着任した医師は16人。信大への入局が7人、県外から着任が5人、産休・育休からの復帰が3人などで、差し引き27人が減少した。
金井講師によると、さらに本年度末で4、5人が退職する見通し。このほか、国立病院機構長野病院(上田市)に産科医4人を派遣している昭和大(東京)が、今年春から段階的に医師を引き揚げる方針を示している。
厚労省が07年3月時点で都道府県を通じてまとめた調査によると、開業医も含め県内で出産を扱っている医師は112人。ただ、この調査は初めて実施したため、過去との比較はできない。
産科医不足をめぐり、県内の産科医、小児科医でつくる県の検討会は昨年3月、広域圏ごとに医師の重点配置を提言。入院を必要とする2次医療や救急搬送に24時間態勢で対応する「連携強化病院」として9病院を選定した。
金井講師は、産科医1人が年間に扱える出産数を連携強化病院で100件、地域の開業医で200件などと設定。医療機関が06年に扱った出産数から、約50人の医師が不足すると試算している。
県の検討会委員も務めた同講師は「1人の医師が扱える出産の数には限界がある。最低限、連携強化病院の態勢を守らなければ、24時間救急を受け入れる病院が確保できなくなる」と話している。
(記事ここまで)
4年間で3割減少している。とんでもないペースだ。各地で産科医不足に対応して「集約化」を進めているが、以前に何回も書いたように、集約化では太刀打ちできない状況になりつつある。
少し余裕がある状況なら、当然対応できる。頑張れば何とかなる状況でも、何とかなる。しかしさらに医師が減少すると、「限界に挑戦」ペースで頑張っているのに「もっと頑張って」といわれる状況になる。「無理」と感じた医師はそこからいなくなり、残る医師はもっと「無理」になる。明るい要素が一つもない。
私が知っている範囲では、現場で頑張っている医師はほとんどみんな「やりがいはあるけど、あまりにもきつい。これが続くなら辞めたい」と思っているようだ。今現場に残っている人は、同僚が「辞める」と言った時に「辞めないで!」と説得できずに、自分からは「辞めます」と言えない性格の人が多いのではないかと推測する。
現場から去る医師も、ほとんどは「申し訳ない」と思って去っている。自分が残った方が産科崩壊を遅らせることができるのは、十分わかっている。しかしかなり頑張っているのに「もっと頑張れ」と言われて、どこまで頑張っても楽になる見通しがない状況で頑張り続けられるタフな人が、世の中にどれくらいいるものだろうか。特に産科医だけにそういう人の割合が高いとは思えない。
産科医が最後の一人になるまで産科は崩壊しないわけではなく、現場の医師が頑張りきれなくなったところから次々消滅していく。そうやって消えた産科がこれまでもたくさんあり、しわ寄せは残っている病院へ乗っかる。ここまで産科医不足が進んでしまったということは、このまま進めば数年で長野県の産科医療は絶滅してしまうという予想につながる。
どうすればいいのか全然見当がつかないが、今以上に産科医が減少せず、少しでも増えるようにしなければ崩壊は避けられない気がする。今頑張っている産科医も、今より楽になる見通しがなければ、いつか限界が来るだろう。「ここまで頑張れば少し楽になる」とか「これならもう少し頑張ってみよう」と思う希望が、長野県の産科医療が絶滅しないためには必要なのではないか。
続いて3面の「上伊那地方、公立3病院再編検討」の記事。
上伊那の公立3病院「再編を検討」小坂伊那市長が明言
1月6日(日)【信濃毎日新聞】
伊那市の小坂樫男市長は5日、市内で開いた後援会会合で、伊那中央(伊那市)、昭和伊南総合(駒ケ根市)、辰野総合(辰野町)の公立3病院について「医師不足に対応するため、抵抗感もあるだろうが、再編を目指したい」と述べ、上伊那広域連合長として経営主体の一本化も視野に検討する考えを明らかにした。総務省が昨年12月にまとめた公立病院改革ガイドラインに沿った対応としている。
ガイドラインは、病院を設置する地方公共団体に、経営の効率化や再編・ネットワーク化などを定めた「公立病院改革プラン」を2008年度中に作るよう求めている。
上伊那の公立3病院では、昭和伊南総合で4月に産婦人科の常勤医が不在となるため3月からお産の扱いをやめるほか、辰野総合では昨年4月に小児科の常勤医が不在となるなど医師不足が顕在化。一方、伊那中央の常勤医は昨年10月時点で、05年4月に比べ9増の58人となっている。
小坂市長は取材に対し、上伊那8市町村長や3病院関係者らによる検討会の設置を呼びかける考えを示した。経営主体の一本化で、3病院で医師の配置を融通し合ったり、診療科を分担したりできる利点があると説明。患者が3病院間を往来できるようバス運行も検討したいとした。
また、小坂市長は、医師不足問題や広域連合の新ごみ処理施設の用地選定などの課題に取り組むため「最後の任期を全うして、しっかりとやりたい」と述べた。
(記事ここまで)
クリックすると元のサイズで表示します 総務省が昨年12月にまとめた「公立病院改革ガイドライン」は、地方のどんな医療機関でも存続できるようにするものではない。地域に必須の医療機関であっても、母体となる自治体の財政が危ない場合、医療機関を切り捨てるか、規模を大幅に縮小するか、病院が生き延びるための借金をするしかない。
医療機関を切り捨てて民間に移譲するといっても、今の地方公立病院を買い取って運営しようという民間がそうそういるとは思えない。民営化といっても、収入の基本は医療の診療報酬であり、その診療報酬は現在のところ地域に必要な医療を提供していて利益が出るような値段設定はされていないからだ。
上伊那地域の3病院は、この地図のような位置関係にある。それぞれの病床数は町立辰野118床、伊那中央390床、昭和伊南300床。それぞれ効率の良い大きさとはいえないが、山だらけの長野県の地形を考えれば、それぞれの地域に必要で少しゆとりがあるくらいの病床数が丁度いいような気がする。しかしそのような医療のあり方では存続が難しくなってきた。
医療がなくなってしまわないためには、地域の中である程度は我慢してもらう必要があると、国は考えているのだろう。高度経済成長期ではないし、少子高齢化も進行するし、時代の流れの中ではある程度までは我慢しなければならないとは思う。しかしその我慢が、弱者だけに押し寄せるのは反対だ。
地図の北にある町立辰野総合病院から南の昭和伊南総合病院までは、30km弱の距離がある。地域の端から真ん中の伊那中央病院までは、やはりそれくらいの距離がある。3つの病院はいずれも高速道路のインターチェンジから近くにあるが、病院の通院に高速道路を使うような土地柄ではない。弱者は地域の辺縁には住めなくなるようになっていくだろう。
これも産科医不足問題と同様に、どこまで行ったら安心できる状況になるのか、明るい見通しが立たない。福田総理は年頭のあいさつで今年を「生活者・消費者が主役となる社会」へのスタートの年にしたいと表明した。今のところ医療・福祉・介護に関しては全く反対の方向へ進んでいる。生活者へ安心を提供できる社会になるには、大きな意識改革と構造改革(小泉改革とは別物)が必要だ。そこまで考えて発現しているのか、衆院選をにらんだ人気取りの発現なのか、これから見極めていきたい。
残りの2つの記事については、医療に関する部分だけ抜粋。
再構築探る「産科医療」 須高地区
須坂市、小布施町、高山村は、それぞれ地域産業の振興策やまちづくりのあり方を探り、自立に向けた取り組みが続く。
須高地区で唯一の出産施設である県立須坂病院が四月からの出産の受け入れを休止する。県や病院が産科医確保に取り組んでいるが、再開の見通しは立っていない。全国的な医師不足の中、産科医療の体制をどう再構築していくかが課題だ。
(抜粋ここまで)
病院問題への対応急務 千曲市・坂城町
千曲市は2008年9月、一市二町の合併による誕生から5周年を迎える。全国的な医師不足などの影響を受けて閉鎖方針が示された長野赤十字上山田病院問題、地方交付税削減による歳入減など、合併後の市を取り巻く環境は厳しい。(中略)
3月末の閉鎖方針が示され、後医療問題が論議となっている長野赤十字上山田病院。外来は95%、入院は84%が千曲市と坂城町の住民だ。長野赤十字病院側は、医療関係の一団体と経営引き継ぎに向けた交渉を進めており、当面はその行方が注目される。ただ、地域の医療・福祉体制再構築のために残された時間は限られており、早急な対応策が求められる。
(抜粋ここまで)
「何とかなる」「どうにかする」と言い続けて、精一杯頑張ってもどうにもならないことは、次第にはっきりしつつある。地域によっては、そういうどうにもならない状況になりつつあることはみんなで認識しておいた方がいい。マスコミも情報を小出しにするのではなく、今日の信濃毎日新聞のように「これでもか」と出した方がいいと思う。
医師不足はちょっとやそっとじゃ解消されない。抜本的な対策を取っても、医師が一人前になるまでには10年以上かかる。その間にもっと状況が悪化することは火を見るよりも明らかなのだから、そうなってから絶望するよりは、今のうちに覚悟を決めておいた方が精神的なダメージは少なくてすむ。
隠してる場合じゃないという判断なのかもしれないが、今日の信濃毎日新聞のように医師不足・医療崩壊問題を客観的な表現で書く姿勢は評価できる。みんなで実態を知って、みんなで愕然として、みんなでどうするのがいいか考えよう。文句を言ってるばかりの人は、今は何の役にも立たない。
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投稿者:hirakata
2008/1/7 0:47
3番目の落書きさま、こんばんは。
病院勤務医は、厳しい状況でも頑張り続けるように、鍛え続けられています。ちょっとやそっとの過酷さでは、へこたれたりしません。でもこの働き方では、医者の多くが定年になる前に、命か気持ちが擦り切れてしまうだろうという気がします。
医者を守るためには、それぞれの医者ができる以上の仕事はさせないようにする必要がありますが、圧倒的な医師不足の中でそれをすると、医療が必要な人の中に医療を受けられない人が出てきてしまいます。現在は、医師以外の人でもできる仕事が医師に回ってきているので、そういうものは医師以外に回すことで医師の負担を減らせますが、医師がいなければどうしようもない仕事だけでも、需要に対して医師数は不足しているだろうと思います。どうにかなるのでしょうか?私にはわかりません。
投稿者:3番目の落書き
2008/1/6 20:05
こんばんは。東京や大阪でも医師が不足しているのですから、地方でも多かれ少なかれ不足しているのには、もはや驚くことではないのですね。
さっき、読売系(関東だと日テレ系かな)のニュース番組で、八王子市の病院のある勤務医(小児科)が34時間密着取材の形で取り上げられていました(「やらせ」でないことを信じてますが)。
36歳のこの男性の勤務医。この番組を見ていると、私だったらとっくにやめているか、それともストレスから心を病んでしまうか。どちらにしても、私には難しい労働環境だと思います。彼のような人間が倒れないうちに、やめないうちに、手厚い人的サポートが必要でしょう。でも先生がおっしゃるように、一人前の医師を育てるのに十年かかるのでは、道は遠いといえましょう。いや、遠いだけならまだ望みはあるのですが。道はあるのでしょうか?