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【医者仕事の愚痴】 助産院のお産
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投稿者 どっちだ 日時 2007 年 12 月 04 日 13:43:04: Neh0eMBXBwlZk
 

---スーザンのスーザン的世界 から転載------------------------------------
http://blog.goo.ne.jp/takayarisa/e/241a0b83ab69d9829387072f2491ad28


2007年12月03日 医者仕事の愚痴

助産院のお産

医学的な分析ができないので、ジャンルは「医学的なこと」でなく「愚痴」とした。

産科医が少ない、今すぐ増える見込みもないので、お産は助産師に!
…という動きが日本全国で広がっている。
ところでみなさん、助産師の扱う分娩と、産科医の扱う分娩の違いを、
わかってますか?

簡単に言うと、助産師は「医療行為」ができない、けど医者はできる、ってこと。
たとえば、妊婦健診は「健」の字が示すように「妊婦さんが健康かどうか」を見る。
病気じゃない、ことが前提なので、医療行為は本来必要でない。
だから「助産師による妊婦健診」が成立する。

ただしここで、たとえば妊婦さんが「出血した」とか「お腹が痛い」と言ったとする。
病気なのか病気でないのか、診察しないと診断できない。
「診察」も「診断」も医療行為、ついでに「薬を出す」「注射をする」も医療行為なので、
助産師単独ではできない。
医者がいて「@@さんに注射して」とかいう指示があれば可能なのだが、
自分ひとりの判断で検査や治療を行うことはできない。

分娩も、基本的には「自然に起きる」ことなので、医療行為は必要ない、とされる。
だから「助産師の扱う分娩」が成立する。
しかしここで、お産途中でよくある「赤ん坊の心拍数が悪くなる」とか、
「出血が急に増える」「陣痛が弱くなってお産が進まなくなる」みたいなことがあったら?
助産師は「心拍が悪い」「出血が多い」のは(観察すれば)わかるけど
それが、いったい何によるものかは判断できない。
「判断する」のは「診断する」ことなので、権限がないのである。

一時的なもので、赤ん坊にも産む母親にも害がないならいいだろう。
でも、心拍低下や出血の増加が深刻な病気、たとえば、
胎盤が分娩完了(赤ん坊が無事に出てくる)より前に子宮壁からはがれてしまう
「常位胎盤早期剥離」みたいな病気が急に起きたことによるものだったら?

助産師は、観察結果から「早期剥離?」と思いつくかも知れない。
ただし、医療行為はできない。
そこが産科医もいる病院ならば、産科医を呼んで診断してもらえばよい。
医者が常に院内にいるわけでない助産院、もしくは自宅分娩に助産師が立ち会っていて、
すぐに医者が呼べないのなら、医者のいる病院に搬送するしかない。

世の中には「一刻を争う」、つまり「処置の遅れが命とりになる」病気がいくつかあるが、産科に関する救急は、ほとんどがそういう病気である。
この事実は、もしかしたら世間であまり知られていないかも知れない。
しかも、たとえば心筋梗塞なら、万が一のときも亡くなるのは患者さんおひとりだが、
産科救急では、いっぺんにふたりの命(子供と母親)が失われる可能性がある。

医者のいない助産院で、もしくは自宅で、上記のような緊急事態が起きたら、
病院に連絡して搬送受けをお願いして救急車を呼んで、では間に合わないかもしれない。
産科医もいる病院内でおきても間に合わないことがありえる、のが産科救急なのだから。
それにしたって、医者のいる病院内で何か起きるのと、いない場所で起きるのでは、
その後の対応の早さは絶対に違う。

実際に、助産院で「一刻を争う」状態になって搬送されてやっと助かったお方、
自分は助かったが赤ちゃんを失ってしまったお方、は世間に存在する。
そういう方々は、助産院をむやみに信用することに警鐘を鳴らすブログなど書いていらっしゃることもある。

でもなぜか、世間には「助産院のお産は最高」「医学的介入は無意味」という声が高い。

「自分が痛いめにあうまで、人間には痛いということはわからない」ということなんだろう。
妊娠出産の、8割近くは何も医療介入を必要としない、医者にかからなくても無事終わる、という事実もある。
問題なのは、残り2割に運悪く入ってしまった場合、どうするか、である。

これだけ産科医が減ってしまっては、あと数年、おそらく15年間くらいは、
産科医のいる病院でお産できる妊婦さんはどんどん減少するはずだ。
産科医がいないところでお産するなら、自宅でひとりで産むよりも
「異常」に気付くことができるくらい経験を積んだ助産師が立ち会うほうが安全だろう。
助産院における分娩数、助産師だけが単独で扱う(産科医が介入しない)お産の数はどんどん増えるだろう。
…増えるしかない、と言うのか。それ以外の手段がないのだから。

しかし、産科的な緊急事態が起きた場合の安全性は、今よりも悪化する。
搬送しても助からない子供と妊婦の数は絶対に増加する。
助産師はあくまでも、異常でない分娩を扱う職業だからだ。
助産院の分娩、助産師が単独で扱う分娩では、医療行為が行えないので、
異常事態が発生した場合にすぐには対応できない。
これは、皮肉でもなんでもなく、事実である。
異常でない分娩、というのは、分娩が終了してみないとわからない。
正常に進行しているように見えて、急に異常事態が発生するのが「お産」というものなのだ。

この事実を、これから子供を持とうとしている人たちに知っておいてほしい。
「だから助産院でお産をするな」といいたいのではない。
産科医がいないのだから、助産師が扱うしか選択肢がない、こともありえるこれからの数年間であるから。
「三(産)と四(死)はとなりあわせ」と古くから言われてきたとおり、
妊娠出産は、原則的には危険な、命がけの行為であることを知っておいてほしい。
助けようとしても助からないお産があることを、わかってほしい。

子孫を残すのが、地球上のすべての「生命」の絶対課題である。
(…残す予定のない私なんぞ、「生命」でないとも言える。)
子孫を残すための過程で、「親」にあたる生命が途絶えることがあるのは、
ある意味では「より強い生命」を残すための自然の仕組みである、とも言える。
人間は、長くこの仕組みにさからってきた。
産科医が減少して、安全なお産ができにくくなってきたことは、
「強い命を残す仕組み」に逆らえなくなってきたということであり、
もしかしたら「自然という神」のみわざなのかも知れない。

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