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(回答先: デフレに対する有効な政策がなぜ受け入れられないのか 日々一考 投稿者 TORA 日時 2007 年 9 月 11 日 08:32:19)
悪魔的インフレ政策は本当に国民に迷惑なのか? 日々一考
http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20070905/p1
財政健全化に関連して「名目成長率上げればいいという悪魔的インフレ政策は国民に迷惑」とは一昨日の与謝野官房長官の発言である。どの国民に対しての発言なのかは寡聞にして分からないが、少なくとも私が日本国と信じている極東の島国に住んでいる自分にとって、名目成長率を上げていくことは迷惑な話ではない。以下、簡単に「私の住む日本」の現状を敷衍しつつ、議論してみることにしたい。
1.先進国との比較を通じた日本の経済状況
容易に手に入る資料から国際比較を行うには、IMFが定期的に公表しているWorld Economic Outlook(WEO)を用いるのが容易だろう。以下は、名目GDP成長率(自国通貨ベース)、実質GDP成長率(自国通貨ベース)、物価上昇率*1、失業率、一般政府の財政バランスの対名目GDP比についてG7各国の状況と比較したものである。
(1)名目成長率
我が国の名目GDP成長率は、1980年代前半は5.7%、80年代後半は6.3%であり、ドイツを上回るものの、G7各国の中で6番目の水準であった。G7諸国の名目成長率は共に低下傾向にあるが、90年代後半以降の我が国の名目GDPの落ち込みは顕著であり、90年代後半以降の我が国の名目GDP成長率は先進国最低である。特にG7平均値(4%程度)と比較するとその格差は明らかである。
(注)対象期間の単純平均値(以下同様)
(資料)IMF,WEO(以下同様)
(2)物価上昇率
我が国の物価上昇率は80年代前半は3.1%、実質GDP成長率がG7各国の中で最大となった80年代後半においても1.5%と低位で推移しており、G7各国の中では最低の水準であった。G7全体でみても物価上昇率は下落傾向にあるが、我が国が他の先進国と異なるのは、90年代後半以降、物価上昇率がマイナスであったことである。
(注)対象期間の単純平均値。物価上昇率=名目GDP成長率−実質GDP成長率
(3)実質GDP成長率
我が国の実質GDP成長率は、80年代前半は2.6%、80年代後半は4.8%、90年代前半は2.2%であり、80年代前半はG7諸国の二番目、80年代後半はG7諸国の中で第一位、90年代前半は米国、ドイツに次ぐ第三位の水準であった。不況が深化した90年代後半には大きく落ち込み、G7諸国で最下位となった。2000年代前半は景気回復局面の2%台の成長率を反映して平均成長率は1.6%となっているが、G7平均値を下回っているのが現状である。
(4)失業率
我が国の失業率はG7諸国の中でも圧倒的に低いことが特徴である。但し、我が国以外の諸国の失業率は概ね低下傾向にあるのに対して、我が国の失業率は90年代以降上昇していることが特徴である。
(5)財政状況
我が国を除くG6諸国の一般政府財政赤字の対名目GDP比をみると、各国とも赤字ではあるもののその規模は年々縮小している。顕著な動きを示しているのは、我が国の状況である。特に90年代後半以降一般政府財政赤字の規模は大きく拡大している。
2.求められる経済政策
1.で挙げた基礎的な経済指標から90年代後半以降のわが国の状況について指摘できる点は以下だろう。
・名目GDP成長率は90年代後半以降G7諸国中最低水準に落ち込み、2000年代前半でもその位置づけには変化がない。
・実質GDP成長率は90年代後半にG7諸国中最低水準に落ち込み、2000年代前半は1.6%と回復したものの、G7諸国の平均水準には至っていない。
・物価水準は90年代後半以降G7諸国中唯一のマイナスに落ち込み、2000年代前半においてもマイナスの状況は持続している。
・失業率は90年代後半、2000年代前半を通じて継続して上昇している。同様の例に当てはまる国はドイツと日本のみである。さらに80年代前半と比較して失業率がほぼ倍増した国は日本のみである。
・90年代後半、2000年代前半を通じて財政赤字の対名目GDP比が悪化した国は日本のみである。さらに悪化幅が大きく拡大したのも日本のみである。
つまり、名目GDP成長率の急激な落ち込みが財政赤字を拡大させ、実質GDP成長率は回復傾向にあるもののG7諸国の平均は届かず、さらに失業率は継続して上昇した、というのが我が国の姿であったわけだ。
以上の比較から我が国にとって必要な政策は、実質GDP成長率を上昇させつつ、デフレを脱却し、その過程で失業率をできるだけ低位に抑えこむというものだろう。
釈迦に説法だが、政府は家計及び企業が得た所得の一部を税の形で徴収し、それを予算として各種政府サービスを行う主体である。家計及び企業が得た所得の大小は名目GDP成長率で定まり、名目GDP成長率が大きく低下したことが我が国の財政赤字拡大の根源であることは各国比較から明らかだ。
そもそも名目ベースの所得(名目GDP成長率)がほとんど増えていない状況で財政赤字を改善するという名目で国民に増税を強いるのは無茶な話である。所得が増えていないわけだから増税されれば必然的にそのしわ寄せは他にくる。つまり、支出を切り詰めるか貯蓄を取り崩すしかないだろう。支出を切り詰めれば所得はさらに下がり税収はさらに落ち込む。これは失われた十数年で得た教訓ではなかっただろうか。
勿論、一国の官房長官に任じられる程の御仁であればここで書いたような陳腐な事実は百も承知だろう。名目成長率を上げるというのが悪魔的政策であり、消費税増税を超えた幅広い視点、高い次元にたって財政を論じるというのであれば、政府としてなすべきは所得状況を十分に捕捉し、所得にみあった徴税を確実に遂行するための仕組みをまず作ることである。その過程では、徴収した税がどのような形で何に支出されているのかを明確にし国民の納得を得るとともに、経済成長をできるだけ阻害せず、出来るだけ増税等といった手段により国民へのネットの負担増をもたらさないような税の仕組みを模索すべきだ。これは社会保障に関する議論においても同様だろう。
現在の税制において最も問題だと感じるのが、政府と国民との間の信頼をいかに醸成するかという点である。財政赤字が累増しているから「幅広い視点、高い次元にたって」判断してほしいと言われても無い袖はふれないのではないか。名目成長率を上げることが悪魔的政策というのであれば、与謝野官房長官の「幅広い視点、高い次元」の判断とは何か、是非開陳してもらいたいところである。
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*1:名目GDP成長率から実質GDP成長率を差し引くことで計算