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(回答先: 老婆の金があれば、何百、何千という立派な仕事や計画が実施され、改善されるのだ!【罪と罰・ドストエフスキーより】 投稿者 hou 日時 2007 年 6 月 10 日 09:16:02)
http://www2.ncc.u-tokai.ac.jp/home0/moon/public_html/dostoev.html
ドストエフスキ−『罪と罰』研究ノート
工藤精一郎訳、新潮文庫、昭和62年より
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1.老婆殺害の社会思想(酒場での若い学生と士官の会話)
「何百人、あるいは何千人の人々が世に出ることができ、何十という家庭が
貧窮から、崩壊から、破滅から、堕落から、性病院から、救われるのだ。−
それがみな老婆の金があればできるのだ。老婆を殺し、その金を奪うがいい、
ただしそのあとでその金をつかって全人類と公共の福祉に奉仕する。どうかね、
何千という善行によって一つのゴミみたいな罪が消されると思うかね?一つの
生命を消すことによって−数千の生命が腐敗と堕落から救われる。一つの死と
百の生命の交代−こんなことは算術の計算をするまでもなく明かじゃないか!
それに社会全体から見た場合、こんな愚かな意地わるい肺病の老婆の死なんて、
いったい何だろう? たかだかそらみか油虫の生命くらいのものだ。いやそれ
だけの価値もない。あの老婆は有害だからな。あいつは他人の生命をむしばん
でいる。」上P.115
「きみが自分でやる決意がないのなら、正義もへったくれもないよ!」上116
【この飲食店で聞いたつまらない会話が、事態のその後の発展につれて、彼に
きわめて大きな影響をもった。まるで実際にそこに宿命とでもいうか、指示
のようなものがあったかのようだ。】上117
2.対決T
ポルフィ−リイ(予審判事)
「問題は、彼の論文によるとすべての人間はまあ《凡人》と《非凡人》に分
けられる、ということにしぼられているんだ。・・・非凡人は、あらゆる
犯罪を行い、かってに法律をふみこえる権利をもっている。たしかにこう
いう思想でしたね。」上453
ラスコ−リニコフ
「マホメットやナポレオン等歴史上の偉人たちはみな一人残らず血を流した
犯罪者であった。」上455ff。
ポリフィ−リイ
「良心の声にしたがって血を許すということは、・・・法律による許可より
もおそろしい」上461-462
ラスコ−リニコフ
「しかし、それほど心配することはありません。いつの時代も民衆は、彼ら
にこのような権利があるとは、ほとんど認めません、そして彼らを処罰し
たり、絞首刑にしたりします。」上457
ラスコ−リニコフ
「ぼくはナポレオンになろうと思った、だから殺したんだ」下248
「ぼくはしらみをつぶしただけなんだよ、ソ−ニャ、なんの益もない、いや
らしい、害毒を流すしらみを」下250
「頭脳と精神の強固な者が、彼らの上に立つ支配者となる!多くのことを
実行する勇気のある者が、彼らの間では正しい人間なのだ。」下253
「ぼくは婆さんじゃなく、自分を殺したんだよ!・・永久に!」下257
ラスコ−リニコフ
「罪?どんな罪だ?・・・誰の役にも立たぬあの金貸しの婆あを殺したこ
とか。これを罪というのか?おれはそんなことは考えちゃいない、それ
を償おうなんて思っちゃいない。どうしてみんな寄ってたかって、《罪だ、
罪だ!》とおれを小突くんだ。いまはじめて、おれは自分の小心の卑劣さ
がはっきりとわかった、いま、この無用の恥辱を受けに行こうと決意した
いま!おれが決意したのは、自分の卑劣と無能のためだ、それに更にその
ほうがとくだからだ、あの・・・ポルフィ−リイのやつが・・・すすめたよ
うに!」下435
3.対決U
ラスコ−リニコフ
「ぼくはきみに頭を下げたんじゃない、人類のすべての苦悩に頭を下げたんだ。」下82
ラスコ−リニコフ
「ラザロの復活はどこかね? さがしてくれ、ソ−ニャ」下88
ヨハネによる福音書の第11章「わたしを信じる者は、たとい死んでも生きる。」
ソ−ニャ
「どうすればいいって! お立ちなさい!いますぐ外へ行って、十字路
に立ち、ひざまずいて、あなたがけがした大地に接吻しなさい、それから
世界中の人々に対して、四方に向かっておじぎをして、大声で、《わたし
が殺しました!》というのです。そしたら神さまがまたあなたに生命を授
けてくださるでしょう。」下257
【ソ−ニャ自身が彼にはゆるがぬ判決であり、変えることのできない決定であった】下336
【彼は広場の中央にひざまずき、地面に頭をすりつけ、愉悦と幸福感にみちあ
ふれて汚れた地面に接吻した。】下448
【二度目に頭を地面にすりつけたとき、彼は50歩ほどはなれたところにソ−
ニャの姿を見た。・・・すると、彼女は彼の痛ましい行進にずうっとついて
来たわけだ!ラスコ−リニコフはその瞬間、はっきりと、ソ−ニャがもう永
遠に彼のそばを離れないで、たとい地の果てであろうと、運命が彼をみちび
くところへ、どこまでもついて来てくれることを感じ、そしてさとった。彼
は胸がじ−んとした・・・】下449
【彼は階段を下りきって、庭へ出た。すると庭の、出口からあまり遠くないと
ころに、死人のような真っ蒼な顔をしたソ−ニャが、なんともいえないけわ
しい目でじいっと彼を見つめていた。彼はソ−ニャの前に立ちどまった。・・
彼女はぱちツと両手をうちあわせた。・・・彼は、にやりと自嘲の笑いをのこ
すと、くるりと振り向いて、また警察署へのぼって行った。】下457f
4.再生
【被告は第二級の強制労働の判決を下され、わずか八年の刑期を言い渡された
のだった。】下463
【彼はきびしく自分を裁いた、しかし彼の冷酷な良心は、誰にでもあるような
ありふれた失敗を除いては、彼の過去に特に恐ろしい罪は何も見出さなかった。】下473
【この一事、つまり自分の一歩に堪えられず、自首したという一点に、彼は自
分の罪を認めていた。】下475
【彼は泣きながら、彼女の膝を抱きしめていた。・・・二人は何か言おうと思っ
たが、何も言えなかった。涙が目にいっぱいたまっていた。二人とも蒼ざめて、
痩せていた。だがそのやつれた蒼白い顔にはもう新生活への更正、訪れようと
する完全な復活の曙光が輝いていた。愛が二人をよみがえらせた。二人の心の
中には互いに相手をよみがえらせる生命の限りない泉が秘められていたのだった。】下483
【しかしそこにはもう新しいものがたりがはじまっている。一人の人間がしだい
に更正していくものがたり、その人間がしだいに生れ変わり、一つの世界から
他の世界へしだいに移って行き、これまでまったく知らなかった新しい現実を
知るものがたりである。これは新しい作品のテ−マになり得るであろうが、−
このものがたりはこれで終った。】下485
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以下、参考文献:江川 卓 「謎とき ”罪と罰 ”」(新潮選書、1986)より
登場人物
【ラスコ−リニコフ】=ラスコ−リニキ(分離派)=教会、国家の権力強化に反対し、
農民暴動などとも結びついた、ラジカルな民主的傾向を持つ運動
=ラジカルな反逆者
=ラスコロ−チ(割裂く)=割裂英雄
ロジオン・ロマ−ノヴィチ・ラスコ−リニコフ
(РОЛИОН・РОМАНЫЧ・РАСКОЛЬНИКОВ)=6・6・6
666=キリスト教の迫害者、アンチクリスト、悪魔
ロジオンという名は、最初、ワシ−リィという名で考えられていたが、執筆直前に
何らかの意図でロジオンに変更された。ここに666の秘密がある。P.32-P.56
そして、ロジオンは、イロジオン(ヘーロース=英雄)の一字違いで、ラズミーヒ
ンの場合と同様に、ドストエフスキーの仕掛である。111
【ラズミ−ヒン】は、「律導ヴラズミ−ヒン」なまって、「理智堂ラズミ−ヒン」か
ら考え出された名で、当初の構想では、重要人物であった。155
【マルメラ−ドフ】=マルメラ−ド(仏)=ママレ−ド=甘井聞太32
【カテリ−ナ】=カタリオス(ギ)=清い = 清子
【ソ−ニャ】=ソフィア=神の叡智 = 智恵子、叡子
【ド−ニャ】=ラスコ−リニコフの妹 = 悦子
【ピョ−トル・ル−ジン】=ル−ジャ(ロ、水溜り)・ペトラ(ギ、岩)=溜水岩男
【レベジャ−トニコフ】=レベジ−チ(相槌を打つ) =相槌勇
【ゾシ−モフ】=医者 = 延命
【ポルフィ−リィ・ペトロ−ヴィチ】=ピョ−トルの息子・緋 包=都司
【スヴィドリガイロフ】(地主、ド−ニャが家庭教師をしていた)
【ナスタ−シャ】 (下宿の賄い婦)
【イリヤ・ペトロ−ヴィッチ】 (火薬中尉という綽名の警官)
【ニコ−ジム・フォミッチ】 (警察官)
【プラスコ−ヴィヤ・パ−ヴロヴィナ】 (大家)
【マルファ・ペトロ−ヴィナ】 (スヴィドリガイロフの妻で死亡)
【アマリア・イワ−ノヴナ】 (カテリ−ナ一家が住んでいる家主で、ドイツ人)
【老婆】 (金貸し、有害なしらみとされる)
【リザヴェ−タ】 (金貸し老婆の妹で、ソ−ニャの友人)
【題名について】
チェザレ・ベッカリ−ア(18世紀のイタリアの刑法学者で啓蒙主義思想家)
『犯罪と刑罰』から「罪と罰」という題名が取られたのではないか。というのは
この両者は、ロシア語では複数と単数の違い(プレストウプレ−ニヤ・イ・ナカ
ザ−ニヤ)(プレストウプレ−ニェ・イ・ナカザ−ニエ)でしかないからであり、
ドストエフスキ−自身が編集長をしていた雑誌に、「罪と罰」執筆2年前に掲載さ
れているので、彼が知らないわけはないからである。140f
【罰とは何か】
罰とは、理性からの断絶、人類からの断絶、愛することが出来ないという苦悩、
つまり「死によって」のみ体験可能な地獄体験こそ、ラスコ−リニコフへの罰で
ある。156ff
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以下、作田啓一「ドストエフスキーの世界」(筑摩書房、1988年)より
【自我の分裂】
現存の社会秩序が個人にとって受け容れ難い時、自我の内部に分裂が生じる。
【スヴィドリガイロフの役割】
彼は主人公ラスコーリニコフの第二自己であるにすぎない。スヴィドリガイロ
フは主人公の全体的生を局部的に(性の追求)代行する戯画なのである。58
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以下、清水孝純「ドストエフスキー・ノート 罪と罰の世界」
(九州大学出版会、1981年)
ドストエフスキーの作品の中でも、これほど形式的にもっともまとまり完成度
の高いものはない。7
その問題性が、もっとも程よきバランスの中に置かれている。7
「罪と罰」とは、そこで近代というものの問題性が結集する結節点だといえる
かもしれません。・・・ラスコーリニコフこそ、その一身に、時代の問題性を担
っている存在にほかならないのです。13f
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以下、雑誌「現代のエスプリ ドストエフスキ−」No.164(昭和56年)より
桶谷秀昭
「信仰への渇望」と不信懐疑との二重性として知られているドストエフスキ−
の矛盾の内面構造を、作者はラスコオリニコフとソオニャのそれぞれの性格形象
に、というよりは、声のひびきや抑揚に、その視線に、そして二人の沈思に暗示
している。113
清水 正
殺人を犯さないまでのラスコ−リニコフは現実的事実世界の住人であり、殺人
を犯した後のラスコ−リニコフは虚構的世界の住人となる。(しかしなり切れて
いないところに錯乱が生まれる。)131
虚構の世界にあってリアルな登場人物、ポルフィ−リイは、作者ドストエフス
キ−その人である。137