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先の著作『“実物経済”の復活〜ペーパーマネーの終焉』副島隆彦/光文社‘02年の焼き直しであろう。その後の新しい事象・現象は付け加えられているが、新しい知見が盛られているとは思えない。主張していることの大要は正しいものと思う。しかし、いくつかの可笑しな議論が散見される。いちいち付き合うのもわずらわしいので主だったものだけを指摘させていただく。
@<バーナンキは米ドル紙幣を刷り散らかして大不況突入を阻止する>p60
ドルを刷り散らかして大不況突入を防げるのだろうか。パトロンのD・ロックが本気で不況突入を阻止したがっているのだろうか。1929年の大恐慌も、国際金融財閥が仕掛けたもので、その間、彼らは大儲けしたという、カーティス・ドール氏その他の諸氏の証言がある。大きな疑問である。
A<「IMF体制(金1オンス=35ドル/26年間)」→「修正IMF体制(ドル-石油リンク/36年間)→「コモディティ・バスケット体制(ドル-基本商品群リンク)」へと移行。>第3章
「コモディティ・バスケット体制」は前掲書でも主張している。さらにこのアイディア(フリードマンによるという)は、高橋乗宣氏が十数年前の著作のなかでも紹介していたと記憶する。その後、このアイディアは実現してこなかったし、今後も実現する見込みはないと筆者は判断する。
端的に言って、世界各国の中央銀行が何千億ドルかをFRBに持ち込んで、基本商品群あるいは基本物質群との交換を要求したとき、たとえばニューヨーク連銀の地下金庫にあるこれらの基本商品を組み合わせてバスケットに詰め込んで、交換するのであろうか。場合によってはトラック何十台分にも匹敵しよう。リンクするとは基本物質群と固定レートでリンクすることでなければ意味が無い。こんな馬鹿げたことは実現不可能ではないのか。学者の妄想が産み出したアイディアだと思う。その意味でドルと石油が固定レートでリンクしていない「修正IMF体制」という教授の説も怪しい。
B<アメリカは強大な軍事力で脅かしてドルの価値を維持してきた> p172-174
経済学として正しいのであろうか。その昔、一国の通貨の価値を裏付けるのはその国の軍事力だという説<竹槍論>があることを聞かされた。日本軍がアジア諸国に「軍票」をばら撒いたのも、この理論によるという。その<竹槍論>は間違いで、俗流経済学だとも。『資本論』第一巻では貨幣の成り立ちについて、くどいほど言及している。もちろん貨幣の価値を決めるのは軍事力だとも言っていない。
ドルの価値が維持されてきたのは、欧米二大国際金融財閥の支配下にある主要国の各中央銀行が協力して施策を講じてきたからではないだろうか。それが概観上は、学問的な論証抜きに「米国の軍事力は明らかに、米国通貨の信用力の後ろ盾である。…ドルの信用力の源泉はアメリカの軍事力なのである」(「ドル・軍事力世界通貨体制」)と、教授の目には映ってしまうのではないのか。「世界基準」の学問からすると、このような視点は落第なのであろうか。
C<アメリカはもうイスラエルを見放すつもり>p175
これは教授が本著作で始めて言及したと思う。この件に関してはすでに田中宇氏がさかんに議論を展開している。田中氏がはるかに先んじて論じていた見識であると思う。一言、田中氏に言及しなくてよろしいのか。いや教授が、相当遅れて独自に到達した見解なら仕方ないが。
D<アメリカは中国に北朝鮮問題を丸投げして、アジアから逃げ出した>p240
これも田中宇氏が、以前から展開してきた議論である。新しい知見ではない。
最期に本書を出版した動機である。著者は「渾身の力作である」と主張しているが、一読者の印象はそうではない。「そろそろ預言者になろうと思う」というのは、学問的厳密さから離脱するエクスキューズであろう。「国民を顧客にして生計を立てる論者」(M・U氏)の仲間入りをしているようにしか思えない。