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我ら鎌倉寺山猿の怨念はしかたがなかったではすまされぬ。我が亡き後、かならず原爆を投下したアメリカに復讐するのだ【新昆類】
http://www.asyura2.com/07/bd47/msg/827.html
投稿者 愚民党 日時 2007 年 3 月 11 日 19:58:56: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: アメリカ人は、我が国に原子爆弾を落としたトラウマから逃れようとして、無意識のうちに我が国を「悪」と決めつけておきたいのだ 投稿者 TORA 日時 2007 年 3 月 11 日 12:58:41)

http://plaza.rakuten.co.jp/masiroku/diary/?PageId=3&ctgy=11

小説  新昆類  (35−2) 【第1回日経小説大賞第1次予選落選】

[ 小説 新昆類 ]

 寛之に身体の底から慟哭が突き上げてきた。これ以上、恵子と恭子の前に立ち尽くすこ
とはできなかった。

「恵子、これを読め、おれがいなくなった後は、本を読むんだ。負けないで生きるんだ」

 寛之は中学用の布カバンからト壺井栄「二十四の瞳」を取り出し、恵子の手に渡した。
恵子はその本を動物的に強く握った。自分がいなくなった後の恵子が心配だった。

 寛之は涙を右腕を拭きながら、黙って山門を駆け下りた。四十八段ある山門の石段、
その第一段目に寛之の足が下りたのを見届け、有留源一郎は、山門の上で見守る寺山修
司寺住職渡辺日義に深々と頭を下げた。そして山門階段の真ん中で泣いている恵子を抱
きしめながら嗚咽を上げている恭子にていねいに頭を下げた。右手は拝礼し顔の下にあ
った。

「さあ、行くけんね」
 有留源一郎は、優しさの中に断固した意思と決意を寛之に波動させながら広島弁で云っ
た。

「寛之お兄ちゃーーーーーん、帰ってきてーーーーえ」
 
 そのとき、恵子のかん高い叫び声が、寺山修司寺を囲む山の空気に裂け目をつくった。
恵子の叫び声に鳥が一斉に空に飛び立つ。その羽音はさらに裂け目を増幅させていった。
有留源一郎は驚き樹木の枝に囲まれた空を見上げる。枝と枝の間を何匹の黒いむささびが
飛んでいる。有留源一郎は鳥肌がたった。動物としての危険信号を空気に感じた。身体よ
りの危機感と防衛本能を作動させながら、有留源一郎は山を降りていく。寛之は有留源一
郎の後に続き、寺山を降りていく。寺山修司寺が遠くになっていく、寺山に入る山道の入
り口まで来たときだった。猿の群れがふたりを待っていた。まだその場所は高原山の中腹
だった。周囲はひたすら山の森と林だった。

 有留源一郎は立ち止まった。寛之は源一郎の背中の後ろにいた。猿の群れの前にいる
大きな躯体をした猿王が一歩二歩と源一郎に近づいた。有留源一郎と猿王はしばらく動
かず相対していた。目線を相手からはずしたら終わりだと、源一郎はまっすぐに猿王の
眼を見ていた。

「おれは高原山の猿王トネリ。お前はその子をどこへ連れて行く」

 有留源一郎の意識下の意識に声が聞こえた。

「我は、広島、鎌倉寺山の有留一族の棟梁、源一郎なり。この子、寛之はわが有留一族の
古来よりの同盟軍、鬼怒一族の最後の人間なり。我は、高原山の鬼怒一族を再建せよとい
う先祖の霊声を鎌倉寺山で聞き、寛之を立派に鎌倉寺山で育てるために、ここにやってき
た」

 有留源一郎は意識下の意識、阿頼耶識で猿王トネリに返答した。
 
「その子は高原山にとって必要な者、返してもらわねばならぬ。その子を遠くへ連れて行
くことは、我ら高原山ばかりでなく、八溝山の怨霊、岩獄丸も許さぬと云っている。その
子をただちに返してもらうことは、高原山と八溝山の総意なり」

「返す、必ず高原山に返す。我は、この子、寛之を修行のために鎌倉寺山に預かっていく。
山県有朋一族に支配された高原山を奪い返すためには、この子の修行が必要なのだ」

 阿頼耶識で高原山猿王トネリと有留源一郎は真剣勝負の応答をしていた。
 
 そのとき、猿王トネリと有留源一郎の直線軸に対して、三角錐の地点に、新たなる猿が高
い木から降り立った。

「我は鎌倉寺山の猿王ウガンセンなり。有留一族の源一郎は必ず約束を守る。有留源一郎に
襲い掛かることは、鎌倉寺山の猿が許さぬ」

 ウガンセンの顔は幼少時にくらった、ヒロシマ原爆投下放射能の被爆風によって、頬の肉
が崩れ骨が見えていた。広島市安佐の鎌倉寺山に暮らしていた猿族は原爆投下によって、多
くの仲間が死んでいった。ウガンセンの姿態は高原山の猿に恐怖をもたらした。


 周りを囲む高い樹木の枝に、広島県の鎌倉寺山からやってきた猿の群れがいた。一斉に高
原山の猿は防衛体制に入った。一気誘発の緊張が森に波動する。

「鬼怒一族と有留一族の合言葉を言え」
 高原山猿王トネリは有留源一郎に迫った。
 
「ひえだみくりや、ひえだみくりや」
 有留源一郎は目を閉じ、両手で結界を験し、合言葉の呪文を唱えた。
 
「これにて疑いは晴れた。我ら、その子の高原山帰還を、ひたすら待っている」

 有留源一郎が指の結界と呪文をとき、眼を開いたとき、猿の群れは目の前から消えていた。
樹木の枝からも猿の群れは消えていた。山の空気は穏やかな静寂な森林へと転換されていた。
寛之は有留源一郎の後ろ、いつのまにか、草の上で眠っていた。有留源一郎は眠ったまま
の寛之を背におぶり、後ろに回した両手で、寛之の体を支えながら、高原山を降りていっ
た。道は寺山修司寺に登ってきた山道といつのまにか違っていた。迷ったのかもしれない。
寛之を背負う後ろの両手には、自分の旅行カバンと寛之の旅行カバンを持っていた。力が必
要だった。額と全身から汗が流れる。有留源一郎の背骨を感じ、眠っている寛之の肩には中
学生の布カバンが掛かっている。南方向に下界が見えてきた。矢板の町だった。有留源一郎
は高原山の麓の里、矢板市と塩原町の境界にある伊佐野村まで降りてくると、菓子屋の店先
にある公衆電話から、矢板駅前にあるタクシー会社に電話をかけ、タクシーを呼んだ。

 寛之は眠りから目覚め意識を回復させていた。覚えていたのは、有留源一郎の前に猿がい
たことだけだった。ふたりが矢板駅から上野行きの列車に乗ったのは、午後四時半だった。
広島県までは列車の旅だった。

 恵子は小学四年生へ、寛之は中学二年生へと進む矢先の出来事だった。早春の兄と妹の別れだった。


 高原山の猿と鎌倉寺山の猿は、これを機に固い同盟を結んだ。トネリの娘デイアは、同盟
契りの証として、ウガンセンの嫁となることになった。トネリは鎌倉寺山の猿が、原爆投下
による放射能によって、遺伝子が破壊され、子供が産まれてもすぐ死んでしまうことを、ウ
ガンセンから聞き、高原山と八溝山から選ばれた娘猿を十猿、ウガンセンに託すことにした。
鎌倉寺山の猿は子孫生存のため新しい血が必要だった。

「すまぬ、おれたち一族は何のお返しもできぬ」
 ウガンセンがトネリに恐縮してわびた。
 
「いや、あの子を、鬼怒一族の最後の人間を、鎌倉寺山にて守ってくれればそれでいい」
 トネリがウガンセンの心に応えた。
 
「我ら、トネリ殿のデイア姫と高原山と八溝山の娘猿を守り、無事、広島の鎌倉寺山に帰還
した後、鬼怒一族の最後の人間を守り、山県有朋一族から高原山を奪還するトネリ一族の悲
願達成を終生援軍するであろう」
 ウガンセンは鎌倉寺山の猿と高原山の猿、同盟軍の前で誓った。
 
 鎌倉寺山の猿はトネリの好意により、高原山裏、奥塩原の湯につかり、さらにそのルート
から奥那須の湯まで案内してもらい、原爆病にやられた遺伝子躯体を温泉で癒した。しばら
く高原山と那須山にウガンセン一族は逗留し、そしてディア、娘猿を守りながら鎌倉寺山へ
と帰還した。一年後、ウガンセンとデイアの息子ラフォーが産まれた。鎌倉寺山からのラフ
ォー誕生の報告を聞き、トネリは同盟契りの証に喜んだ。ラフォーは鎌倉寺山猿族の頭とな
るべくこの世に誕生した。ラフォーは青年になり、同盟契りの証として、高原山の娘猿アマ
テを嫁にもらった。アマテはラフォーの息子を産んだ。ラフォーは息子をディアラフォーと
名づけた。

 ディアラフォーが産まれた年の冬、ウガンセンは原爆の猿としてこの世から去った。死ぬ
前にラフォーに言った。

「鎌倉寺山の猿、原爆による生存継承の危機は、高原山の猿によって救われた。高原山から
来た女猿がわれらの子を産んでくれた。高原山との同盟契りは永遠に守るべし。我ら、後鳥
羽上皇、後醍醐天皇が隠岐に流されたとき、帝を密かにお守りした猿の一族なり、その誇り
をけして絶やしてはならぬ。我らの神は猿田彦なり。高原山が山県有朋によって支配された
ように、ここ鎌倉寺山は明治の大帝へと成り上がった長州の大室寅之祐王朝によって絶対強
権によって支配された。そして広島に原爆が投下された。それを大室寅之祐王朝昭和ヒロヒ
トは、是認した。我ら鎌倉寺山猿の怨念はしかたがなかったではすまされぬ。我が亡き後、
かならず原爆を投下したアメリカに復讐するのだ。そのためには高原山の猿、トネリ一族の
協力を仰ぐのだ。わが遺言、トネリ殿に伝えよ。わが一族の復讐、必ず理解してくれるはず
だ」

 ウガンセンは日本猿として死んでいった。ウガンセンのなきがらを鎌倉寺山に埋めると、
たたちにラフォーは、妻アマテと産まれたばかりのディアラフォーを連れ、高原山へと向か
った。トネリはウガンセンの遺言をラフォーから聞き、「ウガンセン殿の無念、何代かかろ
うが、晴らそうぞ」と言った。人間離れした日本猿の復讐こそに、日本の神々、猿田彦の系
譜、後鳥羽上皇と後醍醐天皇の御心があった。ラフォーは同盟誓いの証として、わが子ディ
アラフォーをトネリにさしだした。

 ディアラフォーはトネリの元で修行し、やがて高原山猿の棟梁になる運命となった。その
猿徳は八溝山にまで波及した。

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