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*06年4月記事
SAPIO, 2006年6月14日 掲載記事
頓挫した「中国版ホロコースト博物館」
http://www.yoshiohotta.com/sapio/2006/sapio060614.html
アメリカのある華僑団体が今、ひとつのプロジェクトを推し進めている。
首都ワシントンに中国版ホロコースト博物館を建設するというもので、
すでに「米国チャイニーズ・ホロコースト博物館(以下CHM)」という
非営利団体を設立している。
ホロコーストといえばすぐにナチスドイツが犯した大量殺戮が思い
起こされる。ヒトラー内閣が成立した1933年からベルリン陥落の
45年まで、約600万人のユダヤ人の他、ポーランド人や旧ソ連の囚人、
ジプシー、同性愛者など約500万人の命も奪われた。
そのホロコースト記念博物館がワシントンにオープンしたのが93年4月。
在米ユダヤ人を中心に、民間から寄付金を約185億円も集めて建てられた。
CHMは反日運動の最終的な目標として、中国版ホロコースト博物館の
建設を計画している。
CHMが反日団体として組織されたのは02年で、現在、西海岸の
サンフランシスコ市内サンセット地区に暫定的な博物館(一般民家に
展示物を陳列)を設け、寄付金を募っている。
彼らが掲げる活動目的は、「31年から45年にかけて、日本帝国陸軍の
手によって殲滅させられた3500万の中国人を慰霊し、アメリカ市民に
その蛮行を示すこと」としている。
具体的には、@帝国陸軍の行った残虐行為の文献、資料、証拠品の
蒐集と展示A学究的講義やセミナーの開催B南京大虐殺や従軍慰安婦、
731部隊、強制動労などの蛮行記録の積極公開C抗日運動の記録と
資料の蒐集、さらに歴史研究の積極的な支援などを挙げている。
活動の中心人物は館長のフィリップ・エング氏と理事とポーランド
・ハング氏という中国生まれの華僑で、ハング氏は教育学博士号を持つ
教育者だ。昨年春にアメリカで敢行された反日デモを組織した人物として
知られる血気さかんな女性である。
ハング氏は、小誌とのインタビューで、設立目的をこう述べている。
「中国人の威厳のために何かする必要があった。日本が犯した蛮行を
世界中の人に知ってほしい。特に若い世代に、その歴史を伝えなくては
いけない」
CHMを含めた反日団体の特色は、「華僑ネットワーク」と呼ばれる
広範な人脈を利用して、継続的な反日運動を展開する点で、昨年春の
時点で公に認められた団体数は52に達している。多くの団体本部は
CHMのあるサンフランシスコにある。反日団体の中でも過去10年で
最も求心力があるのが「アジアにおける第二次世界大戦の歴史を保存する
世界連盟」という組織で、昨年の反日デモでも中心的役割を果たした。
さらに「記録と正義を志す中国人連盟」、「日本の中国侵略を
研究する会」、「南京大虐殺犠牲者の慰霊連盟」、「中日戦争の真実保存
連盟」など、大仰な名前の反日団体が並ぶ。ほとんどが90年代に入って
組織されている。
ここで注目すべきなのは、CHMがこうした在米の反日団体と共闘する
と同時に、中国本土にある中国人民抗日戦争記念館や南京大虐殺記念館、
九・一八事変博物館などからも支援を受けている点である。これは中国
共産党からサポートを得ているということに他ならない。共産党の狙いは、
華僑ネットワークを通して反日運動をアメリカ国内で拡大し、日中間に
横たわるいつくもの政治課題を中国の思惑通りに解決していくことである。
ハング氏は「中国政府からの援助はまったくない」と否定するが、
以前、米メディアとのイタンビューでこう答えている。
「アメリカでは言論の自由が保障されているし、中国で活動するよりも、
運動がより効果的に行える」
もうひとつ特筆すべきことは、52という反日団体数だ。数が多い
割には活動目的が共通しているのだ。アメリカの華僑は中国本土系、
香港系、台湾系、ベトナム系などいくつにも分かれるが、52もの多数に
分かれる理由はない。昨春の反日デモは中国共産党によって意図的に
煽動されたとみられ、共通した目的を分かち合っていた。それは
各団体とも、日本の国連常任理事国入りの反対と小泉首相の靖国神社
参拝反対、さらに歴史認識問題と尖閣諸島問題を争点にしていること
でも明らかだ。
彼らは日本の歴代の首相がいく度も口にしてきた謝罪をホンモノとは
みなさず、国会での謝罪法案の立法化を求めている。天皇と首相が法律の
もとで謝罪するだけでなく、アジア諸国での「戦争の被害者」に賠償金を
拠出すべきとの政治姿勢を貫く。団体数をあえて多くすることで、内外
からの批判をかわすと同時に活動しやすくしたと思われる。
話を中国版ホロコースト博物館に戻そう。サンフランシスコにCHMが
オープンする前年の01年、博物館の展示品の一部が全米4都市で公開された。
展示数は「九・一八事変(満州事変)」にちなみ、918点で、蒐集を
担当したのは華僑の展(チャン)と楊(ヤン)の両氏。当時の弾薬や写真、
地図、通貨、新聞などを展示した。
当時のサンフランシスコ市長、ウィリー・ブラウン氏は拝観後、
「すべての市民が歴史を確認するために来館すべきだ」と述べ、CHMの
パブリシティーはある種の成功を収めた。そして昨年春の反日デモで、
アメリカの反日運動はピークを迎える。ここまではまさに沖天の勢いと
いえるほど、彼らの運動は盛り上がった。だが昨年夏以降、彼らの活動は
急に収束し始める。
まずCHM自体の活動が行き詰まっている。02年の設立当初、05年
までにはワシントンに中国版ホロコースト博物館を建設予定だったが、
まったく進行していない。CHMはウェブサイトも立ち上げていたが、
現在はアクセス不能になっている。
現在博物館が置かれている場所はサンフランシスコ市内の一般民家の
一角で、週末の午後1時から4時まで、予約のみで拝観させる部屋で
しかない。道路に面した「博物館」の窓は横5メートルもなく、黄色い
ビニール製の横断幕に「チャイニーズ・ホロコースト・ミュージアム
(日本侵華浩劫紀念館)」という文字が読めるだけだ。さらに何冊かの
第二次世界大戦関連の書籍が並べられているが埃をかぶっており、
休館に等しい。
当初はホームページで寄付金を募っていたが、ワシントンでの
恒久的な博物館建設の資金が集まらなかったことは明白だ。さらに、
首都ワシントンはコロンビア特別区と呼ばれ、多くの行政決定は
連邦議会の承認を得る必要がある。
サンフランシスコに本部を置く日系団体「日系アメリカ人市民協会」の
ジョン・タテイシ理事長は、その点について述べる。
「ワシントン市内に博物館を建設することは並大抵の努力ではできない。
連邦議会の承認を取り付けなくてはいけないし、莫大な予算が必要になる。
そもそも一般アメリカ人が、中国版ホロコースト博物館を求めているとは
とても思えない。すべての中国系アメリカ人が博物館建設に賛同して
いるかも疑問だ。ユダヤ人によるホロコースト記念博物館とでは
意味合いが違う」
反日団体が抱く建設の真意は、日本政府に対する懲罰的な意味
合いが色濃い。そこには過去の史実を忠実に展示するという姿勢より、
幾千万の中国人が殺害されたことを理由に、現在の日本政府に圧力を
加えるという政治的野望が見え隠れする。それはまさしく中国
共産党が嘱望することでもある。
CHMは現状から推察する限り、数万ドルすら集金できておらず、
中国本土から期待していた資金も途絶えているかに見える。さらに
1年前、最も活発な反日運動を展開していた「アジアにおける第二次
世界大戦の歴史を保存する世界連盟」も、最近は目立った活動をして
いない。ホームページも長い間更新されていないし、反日活動をすでに
放棄したような印象さえ受ける。
そんな中、昨年2月、カリフォルニア州議会に南京大虐殺を含む
旧日本軍の愚挙を教科書に記載すべきとの法案が提出され、議会を
通過した。だが10月、シュワルツネッガー知事は著名を拒否。反日団体の
思惑は外れた。
反日団体にとってさらなる痛打となった事件があった。それは
01年から日本政府を相手に係争していた「従軍慰安婦」訴訟で、
今年2月、米連邦最高裁判所が訴訟の終焉となる却下の判決を下した
ことだ。中国・韓国女性15人は、バージニア州に本部を置く「ワシントン
慰安婦問題連合」という非営利団体の支援を受けて活動していた。
6年に渡って訴訟を継続したが、最高裁は52年に発布された
サンフランシスコ講和条約で、賠償問題は解決しているとの立場をとった。
不思議なのは、最高裁の判決が出るはるか以前に、「ワシントン
慰安婦問題連合」は事務所を閉鎖している点だ。電話も不通だ。
こうした反日団体の活動が鎮静化している理由はいったい何なのか。
日系アメリカ人市民協会をはじめとする日系団体が、華僑ネット
ワークに反撃を仕掛けたためか。
前出のタテイシ理事長はその問いに「そうした動きはない」と、
日系団体からの政治圧力によるものではないと述べる。日本政府
関係者から事情を聴いても、大使館・領事館がロビイング工作で
反日団体の運動を抑止したわけでもないという。周辺を探っても、
日系団体を含む日本側がアメリカ国内で強い政治力を発揮した形跡
はない。これまでの外務省の所作を考察しても、反日団体を封じ込め
られる戦略を遂行しえたとは考えにくい。
これは推測の域を出ないが、中国共産党が過去10年ほどのアメリカ
国内での反日運動の結果を眺め、政府や議会、米メディアが反日運動を
喧伝する側につかない事実を悟ったということであるように思える。
それにより、共産党は在米の反日団体への資金援助を止め、思想的・
政治的な支援をも減らしていった可能性がある。
ただ、連邦最高裁が下した「従軍慰安婦」問題で今春、違った
動きがあった。それは反日団体ではなく、アメリカの女性団体が
立ち上がって日本政府に「従軍慰安婦」問題の責任を認めさせる
行動に出たことだ。
それを受けて、4月4日、レーン・エバンズ、クリス・スミス両
下院議員が日本政府に「従軍慰安婦」の公式な認知と責任を糺す
決議文を提出した。これは法案ではないので、採択されても日本政府に
執行義務はない。だが、エバンズ議員の側近に取材すると、今年2月の
最高裁判決を知らず、単に市民団体から陳情があったので決議文を
作成した事実が判明した。
アメリカの反日団体とその運動は今、行き場を失い始めている。