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成長信仰が格差を広げる(文藝春秋編 日本の論点PLUS)
http://www.asyura2.com/0610/hasan48/msg/988.html
投稿者 heart 日時 2007 年 1 月 14 日 14:46:59: QS3iy8SiOaheU
 

http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/enquete/070111.htmlより転載。

2007.01.13 更新

 1月5日、経済3団体のトップが顔をそろえた記者会見で、御手洗富士夫・日本経団連会長は「さらに日本経済は持続的な成長が見込める。ここで(規制緩和による民需主導の)改革の手をゆるめてはならない」と語った。

 2002年4月からはじまった景気拡大は、高度成長期のいざなぎ景気(57カ月)を超え、戦後最長となった。大手企業の3月期決算の経常利益も、4年連続過去最高を更新する見通しだ。しかし昨年末の企業の意識調査によれば、景気回復に「実感がある」と答えた企業は、ほんの3.7%、ほとんどの企業が「実感がない」(77.4%)と回答している。なぜ実態と気分にこんなに落差があるのか。

 答えは簡単で、景気拡大の恩恵をこうむっていているのは、金融をはじめ、自動車、家電、精密機器など、グローバル化や円安の波に乗った一部の大企業にすぎないからである。日本の会社の90%以上を占める中小企業および構造転換の遅れた大企業は、そうした恩恵に与っていない。その意味では、まだら景気といったほうが当たっている。

 GDPの60%を占める個人消費も落ちてきてきた。実際、ここ7〜8年、サラリーマンの給料は、減りこそすれ、増えてはいない。同じ1月5日におこなわれた経済3団体の新年祝賀会の席上、安倍首相が「景気回復が家計にも広がる経済にしていきたいので、ご協力いただきたい」といったほどだ。

 しかし経済界は、中国をはじめとする生産コストの安い新興経済圏の猛追をうけているいま、即商品やサービス価格のアップにつながる賃上げは、日本企業の国際競争力を削ぐことになるとして否定的だ。

 2007年度予算の歳入、50兆円台(53兆4670億円)は6年ぶりで、このうち、税収は7兆6000億円の大幅増。景気拡大による法人税の増加がその理由だが、増収分には、サラリーマンの定率減税の廃止(1兆2000億円)がふくまれている。今年は、消費税率の論議も用意されている。

「成長なくして財政再建なし」というのは、「財政再建のためには、なによりも税収を増やさなければならない」という意味である。それには、法人税収入の比率を高めるのが早道だが、企業は国際競争力をつける必要があるので、利益を研究開発や設備投資に回す分を差し引いて、残りを法人税として納めなさい、というわけだ。したがって給料アップは当分ありませんよ、ということになる。景気が回復しても、サラリーマンは、まだまだ続く構造改革の痛みに耐えなければならないのである。

 ところが、そうした痛みを感じることのない人たちがいる。勝ち組企業の経営者や株主である。06年の会社法改正に象徴されるように、かつて社長と社員のものだった会社は、いまや株主のものになった。利益を上げないと、社長は株主にクビにされてしまうのである。製品価格を上げないで利益を上げる一番手っ取り早い方法は、人件費のコストを下げることだ。中国のチープ・レーバーをあてにした企業の成長は、この単純方程式によった。

 昨年の世界経済の成長率は3.9%だった。英米では、90年代からすでに10年以上の長きにわたって景気拡大が持続している。インドは8.7%、中国は 10%を超えた。日本は、まだ2%そこそこである。もしこれからも日本が、インドやベトナムなど新興経済圏の猛追を引き離そうと努力してさらなる成長を遂げようとするなら、前述した景気のまだらは、もっと鮮明になる可能性が高い。サラリーマンの我慢はまだ続くのである。この競争の果てに格差が固定化される社会が待っていないと誰が言えるだろうか。

(舘石淳 たていし・じゅん=『日本の論点』スタッフライター)

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