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イスラエル人の「軍隊的思考」と「被害者意識」(2)【OhmyNews】
http://www.asyura2.com/0601/war84/msg/186.html
投稿者 gataro 日時 2006 年 9 月 01 日 12:06:30: KbIx4LOvH6Ccw
 

(回答先: イスラエル人の「軍隊的思考」と「被害者意識」(1)【OhmyNews】 投稿者 gataro 日時 2006 年 9 月 01 日 12:02:21)

http://www.ohmynews.co.jp/HotIssue.aspx?news_id=000000000432 から転載。

イスラエル人の「軍隊的思考」と「被害者意識」(2)

テルアビブ在住女性のレポート
桐島けい

イスラエル人の「軍隊的思考」と「被害者意識」(1)からの続き

 第2点として過剰なまでの「被害者意識」が挙げられる。

 ユダヤ人は有史以来、ヨーロッパを中心としたアンティ・セミティズムに脅かされ、ポグロム(ユダヤ人に対する集団での迫害行為)、そして第二次世界大戦中にはナチスにより約600万人の犠牲者を出したホロコースト(ナチ党政権下において、ユダヤ人などに対して組織的に行われたとされる絶滅計画)を経験した。それは悲劇であり、二度と誰にも起こってはならないと私は考える。しかし、常にパレスチナ人やアラブ諸国との戦争・生存競争などを繰り広げてきたイスラエル人の多くにとって、これは「ユダヤ人に二度と繰り返されてはならない」のであって、「誰にも」という視点が欠如しているのではないか。置かれた状況から見て仕方のない面があることも否定できないが、そう思わざるを得ないことが多い。

 先日、60歳代の上品なイスラエル人女性は言った。「あなたもご存じのようにユダヤ人は離散後、世界中で迫害を受けてきたの。だからイスラエルにはユダヤ人以外が住むのは好ましくない。例え日本人といえどこの地に定住したいのならユダヤ人になるべきなの(ユダヤ教へ改宗すればユダヤ人になることも可能)」。ここには「迫害されたユダヤ人」との犠牲者意識があるが、このように考え、実際の政策を取ることで、パレスチナ人などを迫害し新たな犠牲者を作り出しているという視点が欠けている。

 例えば、エルサレムにあるホロコースト博物館「ヤド・バシェム」。丘の上にある立派な建物の中にはナチス時代にいかにユダヤ人が迫害され収容所で虐殺されたか、ふんだんな映像や写真、絵などで展示されている。広大な野原に累々と積まれたユダヤ人の死体やガス室に送られる子どもの写真、ダビデの星(2つの三角形を逆に重ねた形で、ユダヤ教もしくはユダヤ民族を象徴する印)をつけさせられ追い立てられてゆくユダヤ人とそれを揶揄するドイツ人の映像―。涙を流しながら見入る若い見学者も多い。そして、迫害を逃れ、助けを求めるユダヤ人の乗った船を追い返す欧米諸国、ナチスの蛮行を止めなかった当時のローマ教皇の姿なども描かれた後、イスラエルの荒地に渡って土地を豊かにし、皆で力を合わせてイスラエルを建国した、希望に燃えた目の開拓団がフォークダンスを踊る場面で主展示室は終わる。

 これを見た人々は「ああ、なんてひどいことが起こったのだ。イスラエルしかユダヤ人が安住できる地はない」と思うだろう。しかしパレスチナの歴史を少しでもかじったことがある人は違和感を持つはず。そう、まったくパレスチナ人の記述がないのだ。学校教育においても、知り合いのイスラエル人などによると、歴史教育は旧約聖書の歴史やポグロム、ホロコーストから始まり、いきなりパレスチナでの建国、度重なる戦争になるといい、パレスチナ人がもともとこの地に住んでいたということにはほとんど(あるいはまったく)触れないという。

 知らないのか、知ろうとしないのか、触れないようにしているだけなのか、人それぞれだろうが、「もともとこの土地にはパレスチナ人なんて存在しなかった」「神が2000年前に我々に与えた」「荒地を豊かにしたがためにアラブ人はこの土地が欲しくて攻めてくるんだ」との意識の人があまりにも多い。たとえパレスチナ人がいたことを認めたにしても、「1948年の独立戦争時、ユダヤ人は残れといったのにパレスチナ人が勝手に出ていっただけだ」と主張する。

 その一方で、初等・中等学校でのホロコースト教育は徹底し、何かあるたびごとに政治家やメディアは「ホロコーストを二度と繰り返してはならない」「非ユダヤ社会は我々に反目している」「アラブ世界はイスラエルを殲滅しようとしている」と人々の恐怖心を掻き立てる。

 なぜパレスチナ人、アラブ人が攻撃してくるのか。その理由が分からない(分からないようにしている)。※「我々がオスロ合意などで譲歩したのに(オスロ合意がいかにパレスチナ人に不利か、占領地の実態などには意識が及ばない)、奴らは理由もなく攻撃してくる。そうだ、アンティ・セミティズムで我々を滅ぼしたいからだ※」イスラエルの政策を批判する国々、人々も「アンティ・セミティズムだからだ」と反論し、戦争の方法や占領政策への反省にはなかなか結びつかない。安住の地・イスラエルの存続のためにはあらゆる手段を使って国を守らなければならない。そうしなければまたホロコーストが繰り返されるー。

 このようにして軍隊的思考回路と被害者意識、それに情報摂取の著しい偏りが相互作用して、レバノン紛争のみならず、これまでの占領政策など、あまりにも攻撃的でやりすぎとしか考えられない政策・行動が発生、継続してきたのではないか。

 イスラエルの中にも「すべての人との平等を」「パレスチナ、アラブとの共存を」と熱心に活動している人もいるし、歴史の見直しを行う知識人も1980年代から輩出されている。普段接する分にはイスラエル人は外国人に対してもオープンでカジュアル、友人、家族を大切にし、進取の気性に富む人も多い。

 しかし、紛争、対パレスチナ及びアラブ世界関係に対しては、イスラエルの多くの人々がこのような心理・情報摂取状態を転換、イスラエル史を見直し、ホロコーストやポグロムの歴史を「ユダヤ人固有の歴史」として強調するだけでなくどんな人々にも起こってはならないもの、と普遍化することなしには、今後もレバノン紛争のような戦争が繰り返されるのではないだろうか。ただ、これにはパレスチナとの和平の進展、アラブ諸国との関係正常化も必要で、イランの大統領が「イスラエルの殲滅」を唱え、ヒズボラの指導者ナスララ氏が英雄視され、イスラエル人・ユダヤ人を「殺戮者」「悪の手先」とのみ描く言説がアラブ諸国などで広く流布する状況下では非常に困難なようにも思える。鶏が先か、卵が先か、の議論ではないが、現状況は悪循環に陥っているように見えてならない。

 最後にー。戦争目的が変化するのに不安感を抱き、停戦間近の8月初旬、ヒズボラの捕虜となった兵士の家族が「息子たちのことを忘れないでほしい」と国会議員たちに嘆願したという。皮肉なことだ。

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