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「敵基地攻撃論」実際には実行不可能 [五十嵐仁の転成仁語]
http://www.asyura2.com/0601/war82/msg/586.html
投稿者 i^i 日時 2006 年 7 月 16 日 20:44:59: uYCM.EuCxbqec
 

(回答先: 敵基地攻撃論は国連憲章でも自衛権の発動の要因として先制攻撃を合法と認めているので全く正当な意見です。 投稿者 TORA 日時 2006 年 7 月 16 日 13:16:19)

五十嵐仁の転成仁語
http://sp.mt.tama.hosei.ac.jp/users/igajin/home2.htm

7月13日(木)

額賀防衛庁長官と安倍官房長官を罷免するべきだ

小泉外交の失敗は、日本の安全保障にとって極めて大きな意味を持っています。それは、小泉政権では日本の安全を守ることができないということを証明したからです。


 北朝鮮によるミサイル発射を契機に、ミサイル防衛論、軍備増強論、「敵基地攻撃論」などが一斉に噴き出しました。そのために麻生外相は、「金正日に感謝しないといけないのかもしれない」と口を滑らせたほどです。
 タカ派軍国主義的潮流にとって北朝鮮がいかに「有り難い」存在であるか、今まで隠されていた本音が堰を切ったように現れているというのが現状です。テレビの報道記者やコメンテーターも、「丸腰では危ない」などと言い出しています。
 日本が「丸腰」であることは、憲法9条の要請です。しかし、現実には「丸腰」ではありません。この両側面が、全く理解されていないということになります。


 これらの議論は、全て誤っています。ただ一つの真実を、見逃しているからです。
 北朝鮮に対して、日本を軍事的に「防衛」することは不可能だという真実です。軍事的に「守る」には、日本は北朝鮮に近すぎます。
 だから、日本は外交的に守られる以外の手段を持ちません。それは、言うまでもなく、憲法第9条の指し示す道であり、同時に、それこそが現実的な安全保障の道なのです。
 外交的な防衛こそが、日本にとっての唯一の安全保障手段にほかなりません。今回の小泉外交の失敗は、この唯一の安全保障手段における対応能力の欠如を証明するものであり、決定的な失敗だったというべきでしょう。


 今回の事件をきっかけに、ミサイル防衛(MD)構想への注目が高まっています。パトリオット・ミサイルの配備を前倒しするというような案も浮上しているようです。
 何という、愚かなことでしょうか。またも、多額の税金をドブに捨てることになります。
 拙著『活憲』で繰り返し書いたように、MD構想は全く役に立ちません。それは、ハード、ソフト共に全く機能せず、軍事防衛上の意味はゼロです。


 ハードの面で最大の問題点は、「命中するのか」という点です。周到な準備をして、事前に狙いを定めて発射しても、これまでの実験での命中率は5割にすぎません。
 十分な迎撃態勢なしに、突然、発射されるミサイルへの命中率は、これよりも低下することは明らかです。「2〜3割でも良い」というような防衛網は、「防衛網」としての機能を果たしているとは言えないでしょう。
 しかも、改良スカッド型やノドンなどの中距離ミサイルは移動式で、いつ、どこから発射されるか分かりません。発射されれば、10分以内に着弾するミサイルを、どうやって迎撃できるのでしょうか。


 発射されてから着弾するまで最大でも10分しかないという時間的制約は決定的です。性能が向上すれば、この時間はさらに短縮されるでしょう。しかも、発射そのものの確認も、2〜3分後にしかなされません。
 スペースシャトルの発射とは違って、ミサイル発射にはテレビ中継もなく、移動式ですからどこから飛び立つか分かりません。レーダーに移るのは地平線の向こうに見えるようになってからですし、赤外線で探知できるのはロケット推力で飛行してからになります。
 発射後、2〜3分で探知されたミサイルは、着弾する2〜3分前に撃墜されなければなりません。地上スレスレで破壊しても、ミサイルの爆発を助けるだけです。


 つまり、ミサイルが発射されてから着弾する10分間のうち、迎撃にあてられるのは、わずか4〜5分しかないということになります。インスタントラーメンにお湯を入れてできあがる程度までの、わずかな時間しかありません。
 さて、ここで“問題”です。このわずか4〜5分以内に、閣僚や自衛隊幹部などの関係者を呼び集めて会議を開き、発射されたミサイルが“実験”ではなく“実戦”であることを確認し、それが確かに日本を狙っているのだということを確かめたうえで、迎撃命令を出してミサイルの発射ボタンを押すことが可能でしょうか。この「問い」に「イエス」と答えられる人だけが、MD構想の有効性を主張することができます。
 事前に泊まり込んでいても、関係者を一カ所に集めるのにどれだけの時間がかかるか、一度、実験でもしてみたらいかがでしょうか。それとも、ただ1人に、日本を戦争に巻き込むかもしれないミサイル発射のボタンを押させようと言うのでしょうか。


 MD構想は、日米の軍需産業を喜ばせるだけの虚妄の防衛構想にすぎません。敵の攻撃目標となるだけであって発射することもできず、防御的兵器としては全く実用にならないということは、軍関係者であれば誰でも知っていることです。
 額賀防衛庁長官や安倍官房長官も、そのことを良くご存知なのでしょう。もし、MD構想に全幅の信頼を置いているのであれば、ミサイル発射以前に敵基地を攻撃するなどというリスクを犯す必要はないはずですから……。
 ミサイルが“発射された後”では、もう手も足も出ない、ということを分かっているから、“発射される前”に、その基地を攻撃しようというのです。発言した本人が自覚しているかどうかはともかく、「敵基地攻撃論」はMD構想に対する明確な不信感の表明にほかなりません。


 このような「敵基地攻撃論」も、実際には実行不可能です。ミサイルがどこから発射されるか分からないのに、どこを攻撃するというのでしょうか。
 今回、ミサイル発射の可能性が予測できたのは、それが固定式の発射台を必要とする長距離ミサイルのテポドン2(射程6000キロ)だったからです。テポドン2の発射には固定式の大きな発射台が必要であり、組み立てに一定の時間を要し、燃料の注入などを合わせると2〜3日間の準備期間を置かなければなりません。
 この間に対応を検討し、態勢を整えて攻撃することは可能です。それは、日本を飛び越えてしまう大型で長距離のテポドンだから可能なのです。


 しかし、前述のように、日本が攻撃されるとすればスカッドやノドンなどの中距離型が使用され、それは固定式の発射台も、直前に組み立てることも、燃料の注入も必要ありません。今でも、北朝鮮各地にはノドン200発、スカッド600発が存在し、日本に狙いを定めているといわれています。
 その発射地点は、発射されてからでなければ特定できません。額賀防衛庁長官は、そのような発射地点を、どのようにして“事前に”特定しようというのでしょうか。
 今回も、テポドンが発射された地点は特定されていますが、それ以外のスカッドC改良型ミサイル5発、ノドン型ミサイル1発がどの地点から発射されたのか、正確には分かっていません。着弾した後になっても特定できな発射地点を、額賀さんは事前にどのように特定し、攻撃しようというのでしょうか。


 さらに大きな問題があります。「日本を攻撃しようとしている」かどうかを、どのようにして“事前に”確認できるのか、ということです。
 それが、ただの“実験”なのか、それとも本当に日本を狙って発射しようとしているのか、神ならぬ額賀さんに、どのようにして分かるというのでしょうか。まさか、相手に問い合わせてみる、などと言い出さないでしょうね。
 今回の発射にしても、どうしてこのようなことをやったのか、未だに北朝鮮の“意図”は不明です。今回は分からなくても、将来は分かるようになるとでもいうのでしょうか。


 以上に指摘したのは軍事技術的な問題点ですが、政治的にはもっと大きな問題があります。相手が実際に攻撃をしかけてくる以前に相手を攻撃することは、憲法上も、「専守防衛」の国是からいっても、許されないということです。額賀さんも安倍さんも、この発言によって憲法尊重擁護義務に明白に違反しています。
 それに気づいたためか、その後、今回の発言は「先制攻撃論ではない」と弁解し始めました。相手が攻撃する以前に攻撃するのが「先制」ですから、ミサイルが発射される以前に攻撃すれば「先制」であり、「先制」でないとすれば発射された後だということになります。額賀さんや安倍さんが主張されているのは、どちらなのでしょうか。
 このような議論は、結局、北朝鮮そのものに対する「先制攻撃」論に行きつかざるを得ません。「ミサイルが発射されれば防衛は難しい、だから発射される前に基地を攻撃しよう。しかし、どこにミサイル基地があるか分からないから、片っ端から攻撃してしまえ」という形で……。


 この「敵基地攻撃論」は、もう一つ、重要な政治的効果を生み出しています。中国や韓国にまで警戒心を抱かせ、北朝鮮に対する国際社会の結束を乱すという犯罪的効果を……。
 それけでなく、北朝鮮のミサイル問題を利用して日本は再び侵略主義の道に歩みだそうとしているのではないかという“疑い”を、さらに強める結果になっています。首相が公然と靖国神社に参拝する、日の丸や君が代を強制する、米軍基地を再編して機能強化を図る、自衛隊と米軍との一体化を強める、海外に自衛隊を派遣する、憲法第9条を変え、教育基本法も変えようとするなどという一連の流れの中で、今回の発言も出てきました。その意味は明らかだ、と周辺諸国が受け取ってもやむを得ないでしょう。


 額賀さんと安倍さんの「敵基地攻撃論」は、ミサイルについての知識もなく、軍事論としては極めて稚拙で危険な憲法違反の妄言にほかなりません。それは、対外的緊張を引き起こし、中国や韓国など国際社会の一致した行動を困難にし、結果的に、北朝鮮を大いに利するものです。
 麻生外相が、「金正日に感謝しないといけないのかもしれない」と口走ったように、「額賀さんや安倍さんに感謝しなければならない」と、金正日は考えているに違いありません。安倍さんは、統一教会を通じて、実は北朝鮮とつながっているのだという噂を裏書きするかのような発言です。
 周辺諸国の懸念を一掃し、国際社会の一致した行動を可能にするために、小泉首相は額賀防衛庁長官と安倍官房長官を罷免するべきです。断固とした対応によって誤解を解き、そのことによって周辺諸国との協調行動を回復することこそが、日本外交を立て直す唯一の道ではないでしょうか。


 それにしても、不可解なのはマスコミ、とりわけ新聞の対応です。ここに私が書いたようなことは、この問題に関わる新聞記者の多くが知っている“常識”のようなものです。何故、それを書かないのでしょうか。
 事実を報ずるだけでなく、その背景や意味、深く理解するための追加情報の提供、そして、誤った主張や愚かな行動に対する批判こそが、新聞の役割ではありませんか。政府発表の内容をただ無批判に報ずることによって、結局は戦争の開始と遂行に手を貸すことになった戦前の教訓を忘れたのでしょうか。
 額賀さんや安倍さんの発言を聞いて、「戦争を始めるつもりなのか」という驚きと危機感を感じなかったマスコミ関係者は、自己の鈍感さを恥じて、今すぐにでも辞表を出すべきです。そして、今、世界で何が起きているのか、この日本で何が起きようとしているのか、腰を据えて勉強し直してもらいたいものです。


 「売らんかな」のセンセーショナリズムに毒されているのは、そのような形で情報を発信しているマスコミ関係者自身ではないでしょうか。戦争の臭いが漂い始めている今だからこそ、マスコミ人としての使命感と矜持を思いだしていただきたいと、切に願う次第です。

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