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(回答先: test 投稿者 gataro 日時 2006 年 9 月 11 日 09:27:13)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/060822.pdf
憲法改正手続に関する与党案・民主党案に関する意見書
2006(平成18)年8月22日
日 本 弁 護 士 連 合 会
はじめに
日本国憲法の改正手続に関し、自民・公明の与党は2006年5月26日、「日本国憲法の改正手続に問する法律案」(以下「与党案」という。)を衆議院に提出し、民主党も同、「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に問する法律案」(以下「民主党案」という。)を衆議院に提出し、6月1日から両案に関しての審議が開始され、現在、継続審議となっている。
与党は、2004年12月に与党協議会実務者会議において、憲法調査推進議員連盟が2001年11月に公表した日本国憲法国民投票法案に若干の修正を加えたものを日本国憲法国民投票法案骨子(案)(以下「法案骨子」という。)とし、この法案骨子を基に法案化の作業を進めるとの方針を示したが、今回の与党案は、この方針を具体化したものである。法案骨子に対しては、国民投票決を制定することの是非も含めて、各党各界から賛否の意見が寄せられたが、与党案は法案骨子を基にして、これらの意見を参考にしつつ、修正を加えて条文化したものといえる。
また、民主党は、かねて、多くの論点について法案骨子と異なる意見を提言しつつ、憲法改正手続のみならず国政における重要な問題に係る案件についての発議手続及び国民投票に問する手続も含めた法案を提案するとの方針を示していたものであり、今回提出された民主党案は、この方針に基づくものである。
当連合会は、2005年2月18日付けにて法案骨子の問題点を指摘する意見書「憲法改正国民投票法案に問する意見書」(以下「前意見書」という。)を公表した。この時期に、憲法改正を目的とした憲法改正国民投票決を制定すること自体の是非をめぐっても議論が存することを指摘しつつも、法案骨子には、国民主権の視点が重視されていない、過剰な報道規制を課している等々看過しがたい多くの問題点かおることから、これらの問題点を指摘して国民の議論に資するべきであると考え、意見書を作成・公表したのである。
その後、当連合会は、2005年11月に鳥取で開催された第48回人権擁護大会において立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」を採択し、改憲論議においても、憲法は国家権力を制限して人権保障を図るためのものであるという立憲主義の理念は絶対に堅持されなければならず、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義等の日本国憲法の基本原理は最大限尊重されなければならないことを訴えた。そして、このような原理原則は、改憲の内容のみならず、当然、その手続についても堅持・尊重されなければならないものである。
このような当連合会の視点からすると、今回の与党案・民主党案は、法案骨子に対して当連合会が前意見書で指摘した問題点につき、従来から批判の強かったメディア規制を削除する等、一定の改善が行われているものの、いまだ当連合会が指摘した基本的問題点のすべてを解消するものとはたっていない。 したがって、当連合会は、問題の緊急性、重大匠に鑑み、次のとおり、与党案・民主党案についても、その問題点を指摘するものである。
1 投票方式及び発議方式について
一括投票か個別投票かという論点につき、与党案、民主党案は、いずれも「投票は、国民投票に係る憲法改正案ごとに、一人一票に限る」とし、「憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定める。
法案骨子では、「投票用紙の方式、投票の方式、投票の効力その他国民投票の投票に関し必要な事項は、憲法改正の発議の際に別に定める法律の規定によるものとする」とされていた。これは国民投票手続の核心をなすべき「投票方式」について、法案中に定めを置かず、別法律に先送りするものであり、法案の必要性や存在意義そのものを疑わせるものであった。
当連合会の前意見書が厳しく指摘したように、国民投票手続の核心をなす「投票方式」については曖昧にするべきではなく、その内容を法案中に明確に明記すべきである。
与党案、民主党案は、このような批判に応えて、上記のような内容となったものと推測される。
しかし、憲法改正が国民投票の方法に委ねられる所以は、国民主権の原理に則って国の最高法規たる憲法の改正は最終的には国民の意思によることにあるから、一括か個別かということは、改正案の発議者・提案者に留まる国会側の判断に専ら委ねられてはならないことであり、主権者たる国民が改憲案について自らの賛否の意思を正確に表示できることが十分客観的に保障されていなければならない。そのためには、前意見書で指摘したように、条文ごと(さらに場合によっては項目ごと)に投票する個別投票を原則とすることを明記すべきである。複数条項を一括して投票することは、これらを一括で投票しなければ条項同士が相矛盾し整合性を欠くことが明らかであるような場合に限定されるべきである。
与党案、民主党案が「憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定めているのは、このような原案の発議がそのまま国会の発議する憲法改正案となりうる可能性を考えると、いまなお投票方式に関する基本的問題点を解消するものとはなっていない。
2 公務員・教育者に対する運動規制について
憲法改正を行うか否かは、国の最高法規たる憲法に関して、主権者たる国民の意思を直接的に問うものであり、最も根源的に国民・市民の自由な活動が保障され、憲法改正に関する正確かつ十分な内容の情報収集・提供が的確になされ、これに基づく国民の間での意見交換・意見表明の自由が保障されるべきものである。この点を確認することは、当然のこととはいえ極めて重要である。
この点、民主党案が従前から外国人の運動を禁止していなかったことに加え、与党案も外国人の運動禁止の規定を削除したことは評価しうるが、“国民投票運動”を「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」と定義し、これを規制する規定をおいていることは、この場合に選挙運動と同様の「運動規制」という概念が妥当するか否かの疑問もあり、また、いずれにしても、意見交換・意見表明の自由を制限するものと言わざるをえない。
なお、いずれの案も「(国民投票運動に問する)規定の適用に当たっては、表現の自、学問の自由及び政治活動の自由その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と定め、意見交換・意見表明の自由の重要性を認識しているようであるが、この規定は、憲法に違反してはならないという当然のことを条文化して確認したものにすぎない。
むしろ問題であるのは、与党案においてはその規制の在り方を見ると、意見交換・意見表明の自由の重要性が十分反映されていないことである。
民主党案は、投票事務関係者、中央選挙管理会の委員等の国民投票運動を禁止しているのみであるが、与党案はさらに、裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官にまで全面的に国民投票運動を禁止し、その他の公務員と教育者についても、地位を利用して国民投票運動をすることを禁止し、違反者に対する罰則規定を設けている。
しかし、国の根幹を成す規範を定める憲法の改正という重要問題については、公務員といえども、国民・市民の一人として、その活動・運動の自由は、最大限に尊重されなければならない。投票事務関係者、中央選挙管理会の委員等のように国民投票について特に公正さを要求される立場にある者はともかく、裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官であっても例外とされるべきではない。
公務員と教育者について、地位を利用して国民投票運動をすることを禁止すること、公務員・教育者の自由な活動・運動を不当に規制し、萎縮させる現実的危険性を特つものである。ましてや、罰則をもってまで禁止することは、「地位利用」の概念が曖昧であることが罪刑法定主義に抵触することともあいよって、到底容認しがたい。
3 組織的多数人買収・利害誘導罪の設置について
与党案は、組織により、多数の投票人に対し、買収や利害誘導等をした者に対する罰則規定を設けている。
しかしながら、特定の候補者や政党に投票させるために買収行為をする者を処罰する公職選挙法と異なり、そもそも憲法改正国民投票に関して買収等や利害誘導等がなされうるのか、また、罰則で禁止することは投票についての自由な活動を阻害することとならないか等について十分検討されていないままに、このような罰則規定を設けること自体疑問かおる。
そのうえ、同罪の構成要件は「組織により、多数の投票人に対し、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をし又はしないことの報酬」として、「金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与をし、若しくはその供与の申込み若しくは約束を」することや、「その者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄付その他特殊の直接利害関係等を利用して憲法改正案に対する賛成又は反対の投票をしないことに影響を与えるに足りる誘導をしたとき」等、極めて不明確な要件の下に、広汎な規制を招きかねない内容になっており、罪刑法定主義に抵触するとともに、憲法改正に関わる国民の自由な表現活動を萎縮させる危険性が高い。
かかる罰則規定を設けることには反対である。
4 メディア規制の削除と積極的な情報提供について
(1)メディア規制の削除について
国民投票運動に関してメディアを規制する規定を設けることについては、従来から批判が強かったため、与党案、民主党案、いずれも後に述べる投票目直前の広告放送の制限を除き、メディア規制の規定は設けないこととし、報道機関による自主的規制についての規定も定めないこととなった。
(2)広報協議会について
主権者たる国民の改憲案に対する主体的判断を保障するためには、メディアに対する規制をしないのみでなく、国民に対し、憲法改正に問する十分な情報が公正、的確に提供されることが必要である。
その際には、発議された改正案の内容を周知させるだけでは十分でない。改正案に対する賛否の内容を明らかにし、改正案の長所短所是非にかかわる問題点を国民の目線に立って正確かつ分かりやすく丁寧に、公正な立場から周知させることが重要である。
また、そのためには、このような広報活動を国民や市民の自主的な取り組みに委ねるだけでは十分でない。なぜなら、全国的規模でそれらの活動を行うためには、莫大な資金が必要であり、資金力の大小によって広報活動に大きな格差が生ずることが予測されるからである。主権者たる国民に対し、十分な情報を公正かつ的確に提供するためには、できるだけ資金力の有無・格差による弊害を除去する方策が求められる。
この点、与党案においては「憲法改正案広報協議会」、民主党案においては「国民投票法案広報協議会」を設置し、これらの協議会により「憲法改正案並びにその要旨及び解説等並びに憲法改正案を発議するに当たり出された賛成意見及び反対意見を掲載した国民投票公報の原稿の作成、憲法改正案に問する説明会の開催その他の憲法改正案の広報に問する事務」を行わせる旨定めている。これは、上記のような意味において、一定の評価をなしうるものである。
しかしながら、与党案・民主党案の構想する協議会の構成には、大きな問題点が存する。
まず、内案とも、広報協議会の構成を各会派の所属議員数を踏まえて各会派に割り当てるとしているが、各議院の議員の3分の2以上の賛成で国会の発議はなされるのであるから、憲法改正に賛成している国会議員は3分の2以上いることになる。そうすると、各会派の人数割りをした場合には、必然的に賛成派の議員が3分の2以上の多数を占めることとなる。そのような構成の広報協議会が周知・広報するとすれば、憲法改正賛成の論拠ばかりが広報され、反対派の意見は十分に広報されないのではないかとの疑念を生じさせる。
この点については、両案とも、各合派の所属議員数を踏まえて各合派に割り当てる方法では、反対の評決を行った議員の所属する合派から委員が選任されないこととなるときは、当談合派にも委員を割り当て選任するようできる限り配慮するものとするとともに、協議会がその事務を行うに当たっては、「憲法改正案並びにその要旨及び解説等に関する記載、憲法改正案に関する説明会における説明等については客観的かつ中立的に行うとともに、憲法改正案に対する賛成意見及び反対意見の記載、発言等については公正かつ平等に扱うものとする」と規定している。
しかし、この規定だけでは広報の公正性を担保しうるとは評価できない。これを担保するためには、賛否の意見が平等に反映されるように委員を選出すべきである。
さらに、公正な情報を国民に的確に提供するという広報協議会の役割からすると、その構成員は、憲法改正案を発議した側である議員のみに限定するのではなく、有識者等十分な数の外部委員の選任も検討されるべきである。
(3)ラジオ、テレビ、新聞の利用について
また、憲法改正案に対する賛成意見、反対意見の広報については、メディアを利用した広報、とりわけ、ラジオ、テレビ、新聞を利用した広報が重要である。この点、与党案、民主党案は、「政党等」が「広報協議会の定めるところにより」、無償で、ラジオ、テレビの放送による広報活動、新聞広告を行うことができる旨定めている。しかし、「政党等」とは、1人以上の衆議院議員又は参議院議員が所属する政党その他の団体であって、広報協議会に届け出たものとされているのであり、学識者や各界各層等の幅広い国民・市民が利用できるものとはされていない。 しかも、放送時間や広告回数は、当該政党等に属する議員の数をふまえて、広報協議会が定めるものとされている。これでは、結局、憲法改正案を提案した側の多数意見の政党等が無料で多くの時間の放送や多くの回数の広告ができることとたってしまうのである。
国会における多数意見、少数意見がそのまま反映されることかく、賛成意見も反対意見も、同等の時間、同等の回数の放送や広告が利用できるようにするべきである。
また、政党等以外の団体や市民も、無料で放送や新聞広告による広報活動ができるようにするための工夫も検討されるべきである。
(4)投票日直前の放送規制について
なお、与党案、民主党案では、投票の7目前からは、前記の政党等によるものを除いては、テレビやラジオを利用した広報活動が一切禁止されている。投票直前は憲法改正に関する議論がもっとも活発になされる時期であり主権者たる国民の関心も最も高まる時期でもある。テレビやラジオが、国民の情報取得の大きな手段であることを考えたとき、これを利用した広報活動の一切を禁止することは、主権者たる国民の正しい判断の途を著しく損ねることにもなりかねず、到底許されないというべきである。確かに、テレビ等の影響力の大きさは事実上無視しえないものがある一方、テレビ等の電波は限られた媒体であり、テレビ広告等を行うためには多大の費用がかかることからすれば、財力のある者のみがテレビ等を利用できるという不公平なことにもなりかねないとも言える。その点から、前項の政党のみが無償でテレビ放送等を利用できるという点とも関係して、テレビ等の利用については、広く国民が意見広告を平等・公平に利用できるようにするためのルール作りを慎重に行う必要はあるが、一律禁止を認めるべきではない。
5 発議後投票までの期間について
発議後投票までの期間について、与党案、民主党案、いずれも、発議後60日以降18O日以内と規定している。これは、法案骨子が30日以降90日以内としていたのに対して、短かすぎると批判が集中したことを踏まえてのことであろう。
しかしながら、60日という期間は、仮に憲法の個別条項の改正についての国民投票のみを前提としてもなお極めて不十分といわねばならない。
国民投票に向けた活動は、選挙と異なり、政党や議員候補者がその政策を国民に訴えかげろというものではない。主権者たる国民が、長い将来に亘って国のおり方を決めることになる憲法の改正について判断するためのものである。そこでは、国民が、単に情報の受け手の地位にとどまるものではなく、自ら様々な運動を行うことが想定されなければならない。資金力のない一般の国民にとって、現実に可能な運動は、個人やグループで、集会を間いたりビラを配布したりして、その考えを訴えていくことである。 ところが、現実に大規模な集会を間こうとすれば、会場の確保だけでも数ヶ月先の予約が必要である。公共施設を借りて集会を行うためにも、その準備には短くても半年は必要である場合もあろう。到底2、3ケ月で足りるものではない。また、憲法改正という問題は、将来の長きに亘って国のおり方を左右するものであるから、冷静な判断が必要となる。十分な活動が現実になしうるように、また、一人ひとりの国民が十分に熟慮した上で、投票できるようにするためには、最低でも1年という期間はどうしても必要であると考えられる。
なお、与党案、民主党案のいずれも、前記の広報協議会が国民投票広報を作成したときは、これを国民投票の投票目の30日前までに中央選挙管理今に送付しなければならないとし、それから、中央選挙管理会は速やかにその写しを都道府県の選挙管理委員会に送付し、都道府県の選挙管理委員会はこれを印刷して国民に配布することとたっている。せっかく投票までの期間を長くしたとしても、これでは国民投票広報は投票日直前にしか国民に配布されないこととたってしまう。より早期に国民投票広報を国民に配布するようにし、これをもとに、国民の間で十分な検討、議論及び活動が行い得るようにすべきである。
6 最低投票率と「過半数」について
最低投票率と「その過半数」をどのように考えるべきかの問題は、結局、投票権者の中のどのくらいの割合の人が憲法改正に賛成した場合に、憲法改正が正当化されるといえるのか、という基本問題に帰着する。
この点、まず、最低投票率については、与党案も民主党案もその定めをしていない。
しかし、最低投票率を定めないと、投票権者のほんの一部の賛成により憲法改正が行われることとなってしまう。例えば、投票率40‰の場合に、投票者の過半数により憲法改正が承認されることになると、投票権者の20‰くらいの賛成で憲法改正がおこなわれることになる。 しかし、憲法改正という問題の重要性を考えると、投票権者の20%程度の賛成で改正を行うことができるとするのには、重大な問題が残るといえよう。
そもそも憲法改正とは現に存在し広く国民によって遵守されてきている現憲法の条項を削除、変更、追加等によって積極的に変更しようという、国の最高法規の現状変更行為なのであるから、この改正の是非の決定権者たる国民のこれを是として現状を変更する旨の意思表示は明白かつ積極的なものでなければならないと考えるべきであり、硬性憲法を定める憲法の趣旨にもより合致するというべきである。
ちなみに、イギリスの助言型国民投票においては、総投票数の過半数で、かつ、全投票権者の40%以上の賛成が必要とする40%ルールのような絶対得票率が採用されている。また、デンマークでも40%以上、ペルーでは30%以上、ウガンダでは過半数以上という絶対得票率が採用されている。このような絶対得票率の制度もわが国において参考に値するものといえよう。
したがって、投票権者のきわめて少ない賛成で憲法改正が行われるという事態を回避するためには、最低投票率の定めと絶対得票率の定めを併用する方法が望ましいが、併用しない場合でも、少なくとも最低投票率の定めは必要である。
どの程度の割合を最低投票率として定めるかは問題であるが、憲法改正の重要性や硬性憲法とされている趣旨からすれば、少なくとも投票権者の3分の2以上の最低投票率が定められるべきである。
7 賛成は少なくとも投票総数の過半数とするべきことについて
憲法96条の「その過半数の賛成」の意味について、与党案は、賛成の投票の数が「有効投票の総数の2分の1」を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとするのに対し、民主党案は、賛成の投票の数が「投票総数の2分の1」を超えた場合は、憲法改正について国民の承認があったものとする。
この点につき、当連合会は前意見書でも述べたとおり、憲法改正という事の重大性を考えれば、投票権者の過半数の賛成を必要とする考え方にも十分な理由があると考えられるが、仮に全投票権者を基礎とする考え方をとらずに、投票数を基礎とする場合でも、国民投票は何よりも国の最高法規たる憲法の改正という極めて重要な問題を問うのであるから、少なくとも改正に明白かつ積極的に賛成する者が、改正の是非・当否について投票したすべての者の2分の1を超えるか否かにより決すべきであるとするのが、民意を尊重する憲法の趣旨というべきであると考える。
したがって、白票や無効票を投じた者は、投票所に赴いて投票し、憲法を改正すべきか否かについての意思表示をしたものであるところ、改正に賛成の意思を表明した者でないことは明らかであるから、これらの者は、改正に賛成しなかったものとしてカウントされるべきである。
また、もし白票や無効票が多い場合には、ごく少数の賛成によって憲法改正が実現されることになり、この点からも、賛成投票数が有効投票総数の2分の1を越えたか否かではなく、少なくとも賛成投票数が投票総数の2分の1を超えたか否かにより決せられるべきである。
8 投票用紙の記載方法について
与党案は、投票人は、投票用紙の記載欄に、憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を、憲法改正案に対し反対するときは×の記号を自署しなければならないとする。これに対し、民主党案は、投票用紙の記載欄に、憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を自署し、憲法改正案に対し反対するときは何らの記載をしないものとする。
改正に賛成するか否かが国民投票の中心問題である以上、改正に賛成する者だけが○を書く投票方法が正当というべきである。
9 投票年齢について
投票権者の年齢に関して、与党案は、年齢満20年以上の者は投票権を有するとする。これに対し、民主党案は、年齢満18年以上の者は投票権を有するとともに、国会の議決により、当該国民投票に限り、年齢満16年以上満18年未満の者も投票権を有するものとすることができるとする。
この点につき、当連合会の前意見書は、18歳以上の未成年者についても十分な議論がなされるべきであるとの指摘にとどめた。選挙権が20歳以上の者に認められていることとの整合性も考慮したものである。
しかしながら、現在、選挙権も18歳以上の者に認めるのが世界の趨勢であること、憲法改正の効果は将来に現れるものであることを考えるならば、出来るかぎり若年層にも投票権を認めるべきであり、18歳以上の者に投票権を認めるべきである。
なお、一定の場合に16歳以上の者にも投票権を認めようとする民主党案は、傾聴に値するが、どのような場合に16歳以上の者にも投票権を認めるのかについては、慎重な判断がなされるべきである。
IO 国民投票無効訴訟について
国民投票無効訴訟に問しては、与党案、民主党案、いずれも重大な問題点がある。
まず、両案ともに、提訴期間を投票結果の告示の目から起算して「30目以内」としているが、この期間は憲法改正の効力という極めて重要な事項についての提訴期間としては、あまりにも短かすぎる。
また、短すぎる提起期間に加えて、管轄裁判所を東京高等裁判所のみに限定する点も重大な問題である。前意見書でも指摘したとおり、情報公開法の制定に際しては、当連合会を中心として国民的批判と要請が広く展開された結果、地方管轄が実現したが、憲法という基本法の改正についてであればこそ、特に広く国民の司法審査を受ける権利を十分に保障すべきである。一審裁判所を地方裁判所とするのが難しいとしても、全国の各高等裁判所をもってその管轄裁判所とすべきである。
次に、無効訴訟を提起しうる場合については、両案いずれも、管理執行機関の手続規定違反、違法な国民投票運動の結果が投票結果に影響した場合、投票数の確定に関する判断に誤りがあった場合と、きわめて限定しているが、無効訴訟を提起しうる場合については、もっと多様な場合かおるのではないかという点についても、より慎重な検討がなされるべきである。
なお、無効訴訟提起の効力について、両案いずれも、提訴があっても「国民の投票の効力は、停止しないものとすること」とし、憲法改正が無効とされることにより生ずる重大な支障を避けるために緊急の必要かおるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、憲法改正の効果の発生の全部又は一部の停止をするものとする。しかし、国民投票結果ひいては憲法改正がいつ確定するのかについても、憲法改正の重要性に鑑み、効力停止規定が実効性を有するのかの検討も含めて、より慎重な検討がなされるべきである。
おわりに
以上述べたとおり、与党案も、民主党案のいずれの法案もまだ解消されていない重要な問題点が多々含まれている。
当連合会は、今この時期に憲法改正国民投票決を制定することの是非について、国民がしっかりと議論をなしうる場が設けられることを強く求めるものである。そして、同法案の審議に際しては、本意見書に摘示した問題点について、国民が議論を尽くすために必要な情報が提供され、国民に問かれた審議が、十分な期間をもってなされることが重要であると考える。
当連合会は、関係機関、関係各位に対し、慎重な対応をなされることを求める次第である。
以 上