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(回答先: 海岸線は誰のもの、不動産でお金もうけか、食べ物を得る所か。先住民の強い信念 (ニュージーランド) 投稿者 東京音頭 日時 2006 年 9 月 19 日 12:52:01)
アオテアロア・ニュージーランドにおける前浜及び海底問題と先住民族マオリ
深山 直子 (ふかやまなおこ n.fukayama@gmail.com)
東京都立大学大学院社会科学研究科 社会人類学専攻 博士課程
1、始めに 先住民族マオリ
・ ポリネシア系
・ 分節的部族社会構造
waka(カヌー船団)> iwi(部族)> hapuu(準部族)> whaanau(拡大家族)
・ 現人口 約60万人(15%)
・ 1840年ワイタンギ条約締結→ 入植政策→ マイノリティ・社会的劣位
* 先住民族運動の歴史
・ 「land rights」奪還に向けて
・ 土地を軸に展開
・ 1970年代以降、訴訟活動が重要に。いかに法的効力持つ先住権が認知されるか
・ 一般の裁判所・マオリ土地裁判所・ワイタンギ審判所
・ 土地奪還に向けた訴訟活動の進展→ 部族と政府間の歴史的解決
2、ンガティ・アパ裁判の背景 @
・ 土地そのものの奪還の限界→ マオリ地、国土の6%
「水下にない土地だけを考えれば、(マオリ)慣習地はほとんど残っていない。だが、水下の土地については、そのほとんどが慣習地として残っている可能性がある」 [Brookfield 1999“Waitangi and Indigenous Rights”]
「水下の土地」という潜在的マオリ慣習地
2、ンガティ・アパ裁判の背景 A
・ 1986年 漁獲高割り当てシステムの導入・・・ 新しい水産資源管理
・ 1989年 マオリ漁業法制定
・ 1992年 ワイタンギ条約[漁業請求]解決法制定・・・ マオリ社会に、先住権として資産供与(漁獲高権利・資金、4億NZドル相当)
土地のみならず海も、先住民族運動の対象に
3、ンガティ・アパ裁判
・ 南島北端マルボロ・サウンズ
・ 原告はンガティ・アパをはじめとする8部族集団
・ 海浜・海底はマオリ慣習地であるとする訴え
・ マオリ土地裁判所→ 高等法院→ 上訴裁判所
・ 2003年6月判決
* 海浜・海底はマオリ慣習地の可能性がある≒ コモン・ローを根拠とした既存の所有権
* マオリ土地裁判所に司法権
* 慣習地の財産権は、国王のNZ主権獲得によって撤廃されていない
4、判決に対する反応
・ マオリ社会、歓迎。ついに「法、道徳、正義、平等が舞い降りた」[Mikaere 2004]
・ パケハ政治家の拒絶、危機感の扇動
・ パケハ社会、一種のパニックに・・・ 「マオリによる訴訟の激増」、「パブリック・アク
セスの制限」
・ 首相の公式声明
* 焦点、マオリの慣習権よりむしろパブリック・アクセスの確保に移動・・・ 「国王による海浜・海底の所有、マオリの慣習的利用権を明言した立法に向けて動き出す」
5、「ハウラキ宣言」(2003年7月)
・ 2003年7月 マオリ社会全体のフイ(集会)
(1)海浜及び海底は絶対のランガチラタンガ(「主権」)の下でハプ及びイウィに帰属する
(2)海浜及び海底での祖先伝来の権利の存在を、フェヌア・ランガチラ(「首長の大地」)の一部として際断言する
(3)全てのマオリ国会議員を、マオリ慣習的権限あるいは権利を廃止あるいは再定義することを目的とした立法に反対するべく、導引する
(6)海浜及び海底に関する最終的決断は、排他的にファナウ、ハプ、そしてイウィに拠る
(11)国王の提案を、マオリの慣習的権利と権限の否定であり、条約の明らかな違反であるとして、完全に否定する
6、「協議に向けた政府提案」(2003年8月)
1 アクセスの原則: パブリック・アクセスの確保
2 規制の原則: 国王が海浜及び海底の利用を規制
3 保護の原則: マオリの慣習的権益の保護、その認知プロセスの確保
4 確定性の原則: 海浜及び海底の利用と管理において、権利範囲の確定
* 大前提としての国王の所有
* 伝統性に限定されたマオリ慣習権
* 慣習地として認知する可能性/司法機関で訴える可能性自体を否定
7、協議のための巡回フイ
・ 政府団が「協議に向けた政府提案」を携えて、マオリ社会の理解を促すために、全国11箇所のマラエを周り、フイを開催
・ 2003年8月〜10月
・ 各フイには、当該地を拠点とする部族集団の代表が参加し、政府に向けて申し立て
・ 但し、時間が圧倒的に不足
・ マオリ社会の反応
* 海の所有や利用は、土地のそれと全く同じに、祖先から連綿と継続している実践
* 個別具体的な歴史、系譜、信仰、環境観等と不可分
* その権利は、カイチアキタンガという固有の概念に象徴される管理や保護といった義務と表裏一体
・ 明らかになった、政府との決定的な見解の相違
・ 民族対立的な様相を深めていく
8、オレワ演説(2004年1月)
・ 最大野党国民党の党首ドン・ブラッシュが、2004年年頭演説
・ 「one rule for all」
・ 「曽祖父母の冒した罪のために、マオリに対してどれほど謝罪できるかには限度がある」
・ エスニシティや人種の違いに基づいた政治を批判。現行のマオリ特別議席やマオリ優遇の福祉政策、ワイタンギ条約の下で認知されるマオリの特権等を、人種分離主義的であるとして否定。
海浜・海底問題に触れるなかで、「協議にむけた政府提案」を、なおも国王の所有を明言しておらず、またマオリに篤すぎる慣習的権利を与えるものであるとして、強く批判。
9、ワイタンギ報告書(2004年3月)
・ ワイタンギ審判所、マオリからの申し立てを受けて、2004年3月に緊急に報告書提出
・ 「海浜・海底がマオリ慣習地である可能性を奪う=マオリから慣習的財産権を奪う」
・ 「ワイタンギ条約第二条(先住権保護)、第三条(英国国民としての権利保護)の違反である」
* マオリの訴えを全面支持
* 政府に、協議のやり直しを勧告
10、デモ行進 ヒコイ
・ 第1回 2004年4月〜5月、第2回 2004年10月
・ 北島北端レインガ岬から首都ウェリントンまで、歩き通す
・ 1975年「マオリ・ランド・マーチ」と同ルート
・ 15,000人〜20,000人が参加(第1回)
* 「政府の海浜及び海底法案は、まさに1850年代以降最大規模の大地収奪を意味しているのだ」
* 「海浜・海底問題は部分的なことに過ぎない。このヒコイは一部の政治家の仕打ちに対するものだ」
11、マオリ党の発足
・ マオリ国会議員、マオリ社会と所属政党の間で板ばさみに
・ Tariana Turia・・・マオリ社会でも有力な労働党議員・マオリ省副大臣
・ 立法化政策に反対を表明、5月に離党・辞職
・ 補欠選で7月に再当選
* マオリ党を発足
12、立法
・ 2003年8月 「協議にむけた政府提案」
・ 2003年12月 「海浜及び海底政策提案」
・ 2004年4月 「2004年海浜及び海底法案」
・ 2004年11月 「2004年海浜及び海底最終法案」→ 2004年11月下旬、立法化
* 表面的には二転三転
* 他政党の圧力
* 合意には程遠い、慌しさ
@所有
・ 公的海浜及び海底の絶対の所有権は、国王にある。
* この際、公的海浜及び海底を地域、水域、空域、土壌、岩盤全てを含む領域とする。但し、既に私的所有領域となっている部分は含まない。
A慣習的権利
・ あらゆる人々は、非排他的・非領域的慣習権の申し立てが可能である。
B裁判所の司法権
・ マオリ裁判所・・・マオリによる、非排他的・非領域的慣習権の審理・認知
・ 高等法院・・・非マオリによる、非排他的・非領域的慣習権の審理・認知
・ 高等法院は、所有権の審理が可能だが、認知は不可能。立法以前にそのような財産権が存在したと判断された場合には、政府によって、保護区の設定あるいは補償案の考慮がなされる。
13、終わりに 二文化政策の転向?
・ 国王の絶対の所有権=海浜・海底の国家所有化(nationalisation)
⇒「法的位置付けが曖昧だった海浜・海底を、先住民の慣習地となる可能性を否定する」・・・ 「『terra nullius (無主地) 』とみなして、先住民から土地を収奪する」植民地主義原理 との相同性
・ 権利の一本化、マオリを特別扱いしない・・・ 「one citizenship for all」の進展
・ 現代における先住民運動の主たる舞台であった裁判所の司法権の削減
⇒ 先住権認知とは逆行
* 以後、法の実質的な影響を見る必要性
参考文献
《日本語文献》
スチュアート ヘンリ 2002. 「トランスボーダー・コンフリクトと先住民」秋道智彌・岸上信啓(編)『紛争の海―水産資源管理の人類学』人文書院,129-148。
田中英夫(編) 2000(1993). 『BASIC英米法辞典』東京大学出版会。
廣瀬孝文 2004. 「先住民による前浜と海底の所有権―ニュージーランドの2003年『マールバラサウンズ判決』」『岐阜聖徳学園大学起用』43: 1-11.
深山直子 2003a. 「ワイタンギ審判所に関する一考察―マオリの歴史が再構築される場」『日本ニュージーランド学会誌』10: 45-54.
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《英語文献》
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Brookfield, F.M. 1999. Waitangi and Indigenous Rights. Auckland: Auckland University Press.
Hingston, Ken. 2006. “Foreshore and Seabed.” State of the Māori Nation: Twenty-first Century Issues in Aotearoa (M. Mulholland and contributors), 107-114, Auckland: Reed Books.
International Research Institute for Māori and Indigenous Education, University of Auckland. 2004. Te Takutai Moana: Foreshore and Seabed (papers complied for the 4th national hui on the foreshore and seabed convened at Waipapa Marae, University of Auckland. Saturday 13 March 2004). Auckland: International Research Institute for Māori and Indigenous Education, University of Auckland.
Mana, 2004. “Hikoi 2004.”58: 32-46.
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Mikaere, Ani, Nin Thomas and Kerensa Johnston. 2003. “Treaty of Waitangi and Maori Land Law.” New Zealand Law Review, 2003: 447-484.
New Zealand Council of Law Reporting. 2002. “Attorney-General v Ngati Apa.” New Zealand Law Reports 2002(2): 661-685.
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―――, 2004c. New Zealand's Foreshore and Seabed Legislative Framework and Synopsis.
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Orange, Claudia. 1997(1987). The Treaty of Waitangi. Wellington: Bridge Williams Books Ltd.
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http://www.imadr.org/japan/event/2006/indigenous.commons/IP&Commons.5.Resume.rtf
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