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『日の丸・君が代』被処分者のいま 私だけが座っていた (東京新聞)
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投稿者 彗星 日時 2006 年 9 月 19 日 08:12:00: HZN1pv7x5vK0M
 

特報
2006.09.19

『日の丸・君が代』被処分者のいま
私だけが座っていた

 日の丸・君が代を強いる東京都教育委員会の通達は違憲だとして、教員らが事前に「処分しないこと」の確認を求めた「予防訴訟」の判決が二十一日、東京地裁で言い渡される。石原都政下、都が「君が代」がらみで教員の大量処分を始めてから二年半。教育現場では、校長の権限強化など上意下達の体制が築かれた。その流れは「安倍政権」が誕生すれば、全国に波及するのは必至。今回の判決の影響は東京のみにとどまらない。 (片山夏子)

 「国歌斉唱」。二〇〇四年三月、東京都日野市の都立七生養護学校の卒業式。百人を超える教員が一斉に立つ中で、河原井純子教諭(56)=現・八王子東養護学校=は驚いた。「えっ。みんな強制に反対していたのに立つの?」。周りを見回すと、座っているのは自分と数人の生徒だけ。「激震だった。林の中にいるような感じがした」

 前年の十月二十三日。都教委は入学式と卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱の厳守を通達した。いわゆる「10・23通達」である。

 「国旗は向かって左に、都旗は右に掲揚する」「教職員は国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」。生徒の位置や教職員の服装まで規定。「教職員が通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われる」と命じた。

■『10・23通達』無効求める

 予防訴訟はこの通達の無効を事実上、求めた訴訟だ。都立高校や養護学校の教諭ら二百二十八人(現在は約四百人)が〇四年一月、「思想・良心の自由」(憲法一九条)に抵触すると、都や都教委を相手取って提訴。河原井教諭も原告の一人となった。

 しかし、係争中の同年春、都は国歌斉唱で不起立だった教職員約二百五十人を懲戒処分。河原井教諭も、その一つの戒告を受けた。

 「10・23通達」前、七生養護学校では生徒と教職員が話し合って式典を計画。国旗は会場の隅に三脚で置かれ、国歌については内心の自由を説明した後、「ご賛同の方はお立ちください」とアナウンスし、伴奏をテープで流していた。起立していたのは、教員では数人だけだった。

 通達後も職員会議で「国旗国歌の歴史的な背景を考えると問題がある」「強制は教育現場になじまない」といった意見が相次いだ。従来通りを求める教職員側の要望を校長は「通達通りだ」と抑えた。そして、卒業式当日。反対していた大半の教員も校長に従った。

 不起立だった河原井さんは呼び出しを受け、立たなかった時刻を確認させられた。文字通り、取り調べだった。「答えたくない」と告げると、校長は「職務命令を出すぞ。処分が上乗せになる」と脅した。

■起立の同僚『退職金が』

 「起立」派の同僚には「かつて私たちを冷たい目で見た人たちも皆、立ったじゃない」と言われた。その「皆」たちは「国旗国歌には反対だけど家のローンがある」「退職金をふいにできない」とこぼした。

 現在まで、四回の不起立で減給や停職一カ月の処分を受けた。「職務命令が乱発され、職員会議は伝達の場に。学校はもの言えぬ場になった」。何が河原井さんの抵抗を支えるのか。

 「私はこれまで、生徒たちに自分で考えてイエス、ノーと意思表示をしなさいと教えてきた。ここで抵抗しないと、今度は自分が子供たちにあれこれ強制しなくてはならなくなる」

 「10・23通達」以外にも主幹制や人事考課制導入、さらに校長判断で同じ職場で一年の勤務だけでも「飛ばす」ことが可能となった異動要綱改正など、都教委は教員の管理を強めてきた。

■“服従の強要”雰囲気着々と

 今回の訴訟の原告ではないが、やはり処分を受け続けてきた町田市立鶴川二中の根津公子教諭(55)は「教育委員会が、あるいは校長が言うからと、おかしいと思っても従うように強要される雰囲気がどんどんつくられていった」と話す。

 根津さんはことし三月、卒業式の君が代斉唱に不起立で抗議したため、停職三カ月の処分を受けた。停職期間中、鶴川二中と異動前の勤務先だった立川市立立川二中の校門前にメッセージを記したプラカードを手に日替わりで訪れた。

 「給料もったいないから立っちゃいなよ」「君が代歌っても戦争になるわけじゃないでしょ」

 登下校する生徒が声を掛けていく。「私も含め大人たちの話をうのみにせず、自分で考えてみて」。生徒にはそれだけ告げた。

 警察に通報されたり、保護者から苦情がきたり。「信念貫くって大変ですね」「自分を守るため(上に)従っちゃう大人ばかりだから」。そう声を掛ける通りすがりの人々もいた。

 根津さんは「見えない苦情におびえない。見える励ましに希望を重ねる」と自らのインターネット上の日記(ブログ)に書いた。

 「日の丸・君が代は歴史的に問題があると思うが、いろいろな意見があっていい。でも、なぜ議論があることを生徒に知らせないのでしょう」。根津さんの心情はこれに尽きる。

 立川二中では、ある女生徒に「くびになっちゃうと困るから立ってよ」と言われていた。「くびになるかもしれないけれど、ちゃんと意見を発信しないと意味がないのよ」と答えた。

 根津さんの初めての処分は九四年。八王子市立石川中の卒業式で、職員の反対を押し切って校長が掲げた国旗を降ろして、減給処分に。「生徒らが降ろそうと言うので、生徒が処分を受けるならと私がした」

 校長は生徒に「全生徒が反対しても揚げる」「公務員だから上司の命令に従う」と言った。憲法には思想信条の自由が保障され、その憲法を公務員が順守する義務(憲法九九条)については触れなかった。

■“嫌がらせ”遠隔地異動

 それ以来、根津さんは処分の代名詞にもなった。日の丸・君が代に触れたプリントや不起立で受けた懲戒処分は八回。嫌がらせとしか思えない通勤往復四時間の学校への異動もあった。

 何回も、処分された教員を対象とした都教委の「再発防止研修」を受けさせられたが、「一度も国旗掲揚・国歌斉唱の根拠や意義を説明されたことはない」(根津さん)という。

 相次ぐ都教委の「教育改革」で「どんどんもの言えぬ現場になり、一人で悩み病気になったり、辞めたりする教員が増えている」。

 ただ、その一方で、予防訴訟に三百人弱の教職員が名乗りを上げたことをみて「異議ありと立ち上がった教師がいるのをみて、希望を感じた。上意下達の都の教育現場に少しでも歯止めがかかれば」と期待する。

 一方、次期首相に最有力とされる安倍晋三氏は教育分野に熱心だ。教育基本法改定をはじめ、首相直属の「教育改革推進会議」の設置、四十年ぶりの全国学力テストの実施、指導状況などを国が評価する「学校評価制」、教員免許更新制などの導入を掲げる。

 そんな「公約」を横目に根津さんはこう懸念する。

 「都教委のここ数年の施策とどれもこれも重なっている。結局、石原さんが『東京から国を変える』と言った通りになっていく」

<デスクメモ> 旗を振ってお題目を並べるのはヤボだが、旗ならぬ権力を振り回すのはもっとヤボ。それに迎合しちまって、長いモノに巻かれるやからは下品でいけねえ。江戸庶民の伝統は「意気地」と「心意気」。それが粋ってもんだ。「心の東京革命」? 革命たあ恐れ入った。こちとら根っからの「保守派」なもんで。(牧)

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060919/mng_____tokuho__000.shtml

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