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特報
2006.09.09
『安倍氏ブレーン』どんな人?
靖国、拉致、教育問題…
自民党総裁選が8日告示されたが、安倍晋三官房長官の当選は確実な情勢。その安倍氏を側面から支えるブレーンは「5人組」と呼ばれる保守系の論客たちだといわれる。どんな人物なのか。彼らの思想と経歴を検証すると、安倍氏が上梓(じょうし)したベストセラー本「美しい国へ」(文芸春秋)の原型が、くっきりと見えてくる。 (竹内洋一、山川剛史)
六月三十日。都内のホテルの一室に、安倍氏側近の一人、下村博文衆院議員を囲み、四人の学者・有識者が集まった。メンバーは、伊藤哲夫・日本政策研究センター所長、東京基督教大の西岡力教授、福井県立大の島田洋一教授、高崎経済大の八木秀次教授。ここに京都大の中西輝政教授を加え、安倍氏のブレーン「五人組」と称される。
この日は、靖国神社参拝問題などを議論し、「安倍氏は参拝に行くとも行かないとも明言しない」とする基本スタンスが確認された。出席者の一人は「以前から話し合っていたことで、その場で対処方針を決めたわけではない。この段階で安倍さんが四月に靖国神社に参拝していたことも知らなかったし、話題にのぼらなかった」と話す。
当の安倍氏は、四月の参拝が八月に明らかになった際に、参拝したとも、しなかったとも認めなかった。ブレーンの考え方を踏まえた対応のようにも映る。
■思いっきり保守5人組
関係者によれば、この五人のメンバーは今春からこの日までに三回程度、一堂に会し、「安倍政権」の課題について議論してきた。安倍氏本人にも政策的な助言をしてきたという。五人のブレーンたちは、どんな考え方を持ち、どんな活動をしてきた人物なのか。
伊藤氏は一九八四年に発足した保守系シンクタンクの所長。月刊誌「明日への選択」を発行し、憲法、歴史、教育、外交・安全保障など幅広い問題に保守の立場から提言を続けている。伊藤氏に「安倍政権」への期待を聞くと、「私は有識者でもないし、取材には一切応じないことにしています」とだけ話した。
伊藤氏は同誌一昨年五月号で「『個』と『自由』なるものは、家族や社会や国家という『共同体』の中でこそその内実を得るのであり、その意味でもまず最も基本的な存在である『家族』の意義に目覚めなければならない」と主張。安倍氏も近著「美しい国へ」の中で同様に家族の価値を強調している。
安倍氏を支持する民間団体「『立ち上がれ!日本』ネットワーク」の呼び掛け人の一人でもある。呼び掛け人には、中西氏、西岡氏、八木氏も名を連ね、「草の根」保守の結集を目指すとしている。八月末には都内で「新政権に何を期待するか?」と題したシンポジウムを開き、三百五十人を集めた。
西岡氏は、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」の常任副会長として、安倍氏と共同歩調を取ってきた。ただし、「安倍さんとは救う会の副会長として会うことはあるが、直接ものを聞かれたこともないし、助言をしたこともない。下村議員や伊藤さんを介した関係で、決してブレーンではない」と話す。
島田氏も「救う会」の副会長で、「安倍首相」にはこう求める。
「北朝鮮への国際的な圧力を高めることが大事だ。弾道ミサイルを発射した北朝鮮に対し、国連安保理の非難決議が採択されたのは、日本がリーダーシップを発揮したからで、外交面で安倍さんの実力が証明された。米国も日本が動かなければ、中東問題を優先しがちだ。安倍さんには、同盟国・米国を引っ張って北朝鮮への制裁決議を実現してほしい」
さらに、いわゆる「従軍慰安婦」の強制連行を認めた河野談話を修正すべきだとして、「安倍さんにも直接、何度も言っている」と話す。「北朝鮮は、日本は拉致被害者より多くの従軍慰安婦を連行したと主張する。これに対し、日本政府は『人数が過大だ。すでに謝罪している』と反論しているが、これでは相手の主張を認めているようなもので、反論として最悪だ」
自身を含むメンバーが「ブレーン」と呼ばれることについては「安倍さんは常に自分の考えを自分の言葉で表現している。ブレーンというのは大げさ」と控えめだ。同時に「安倍さんは助言に対してビビッドで早い反応を示す。慰安婦問題でどこまで修正に踏み込むか、重要なポイントだと思う」と期待も寄せる。
八木氏は憲法や政治思想が専門で、「新しい歴史教科書をつくる会」の会長も務めた。主な著書には「人権」にまつわる日本の現状を批判した「反『人権』宣言」(筑摩書房)などがある。
学者や教育関連団体、議員、俳優などを発起人に十月に正式発足する「日本教育再生機構」の準備室代表でもある。同機構はすでに「安倍政権の教育再生政策に期待し、全面的に協力」する立場を表明している。
同機構準備室は(1)伝統文化の継承と世界への発信(2)心を重視する道徳教育の充実(3)男女の違いを尊重し、家族を再興−など五つを基本方針に掲げている。
■皇位継承問題『女帝』に慎重
皇位継承問題では昨年五月、有識者会議で意見を求められ、「女帝」容認論を「天皇制廃絶論者の深謀遠慮」と批判。「初代の染色体は男系男子でなければ継承できない。(歴代の天皇は)一度の例外もなく男系継承されてきた。事実の重みがある」と主張した。
ちなみに、安倍氏も「女帝」には慎重な立場だ。
一方、国際政治が専門の中西氏も、「現在の日本は歴史的衰退期にある」との危機感から、健全なナショナリズムに基づいた教育改革ひいては国家観の形成が必要だと説き続けている。
著書「日本の『敵』」(文芸春秋)では、日本の新しい国家目標に「歴史と伝統を重んじ、自立する日本」を挙げており、「精神面での誇りと自立意識の回復なしに、国際社会において責任感を伴った本当の協調と共存も不可能だ」と主張している。
安倍氏も日本の将来像として「自立する国家」「自信と誇りのもてる日本」を掲げており、重なる部分が多い。
国家観の形成とは切り離せない教育についても、中西氏は積極的に発言。三年前、中央教育審議会基本問題部会で意見を求められ、「教育基本法は、国民が国や社会の安全や危機管理に義務を負うことが前提になっておらず、日本のアキレスけんになる」と批判した。
最近まで「つくる会」の理事を務め、八木氏を中心とする日本教育再生機構にも代表発起人として名前を連ねている。
<デスクメモ> 総裁候補の三人は、いずれも涼しげな面立ちで、アクがない。毛並みのいいサラブレッドばかりだからか。一昔前の脂ぎった大物政治家たちはいまや希少種なのだ。政治家の家系出身でない総理を探すと、実に四代前の村山富市首相までさかのぼる。「格差社会」をつくったのが、どんな人たちかよくわかる。 (充)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060909/mng_____tokuho__000.shtml
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