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(回答先: 光市母子殺害事件、最高裁は二審の無期判決を破棄 【朝日新聞・読売新聞】 投稿者 いいげる 日時 2006 年 6 月 20 日 17:03:33)
アメリカでは、少年法の厳罰化は犯罪抑止に逆効果だったそうです。
http://www.zenshiho.net/syotai21.html
(前半省略)
☆ 厳罰化の効果についての実証的研究
「厳罰」についての理論的、感情的な様々なレベルの議論の一方で、その効果についての実証的研究の努力も行われている。「厳罰化」の抑止効果については否定的な結果が報告されている。
1 一般的には厳罰化の導入で抑止効果を上げた例と信じられている1987年ニューヨーク州少年法(Juvenile Offender Law)の抑止効果について、S.I.シンガーは、実証的な調査を行った。法改正により直接影響を受ける年齢層のニューヨーク州の少年を実験群とし、対象年齢層ではないニューヨーク州の年長少年らと、ニューヨーク州少年法の厳罰化の影響を受けない他州の少年らとを統制群として、法の導入の前後で、殺人、傷害、強盗、強姦、放火の各犯罪による逮捕数を比較したのである。
その結果、厳罰化が本来ターゲットとしていた群に、法改正による抑止効果は何ら認められなかった(SimonI.Singer, RecriminalizingDelinquency : Violent Juvenile Crimes and Juvenile Justice Reform, 1996)。
2 D.M. ビショップ等は、フロリダ州において、刑事処分を受けた少年と少年裁判所での処分を受けた少年との再犯率を比較検討した。彼らは、1985年から2年間の間に係属した少年事件について、今回の事案の重大性、今回の事案の数、過去の犯罪数、過去の犯罪の重大性、年齢、性別、人種などの項目について評定して点数化し、刑事裁判に移送された群と少年裁判所で審判を受けた群の中から、丁度各項目の評定が一致するペアを約1000組作った。そして、そのペア毎に、短期間(1988年末まで)での再逮捕率、再逮捕までの期間、再逮捕事件の重大性などを比較した。その結果、刑事裁判群の方が、再逮捕率は高く、再逮捕までの期間は短く、再逮捕事件は重罪(felony)が多く、最初の事件よりも改善が見られた者(最初の事件は重罪であって再逮捕事件が軽罪(misdemeanor)である者)の割合は少なかった。従って、刑事処分を受けたことにより、むしろ多くの者がすぐに再犯に至り、犯罪傾向も進むことが認められた(Bishop, D.M. et al., The Transfer of Juveniles to Criminal Court : Does It Make a Difference?, Crime & Delinquency Vol.42, No.2, 1996)。
3 ビショップ等は、さらに、同州で、同様の調査方法で1987年から1994年までの長期の再犯率を比較検討した。やはり再逮捕までの期間は刑事裁判群の方が短く、再逮捕率も高いことが分かったが、最初から重罪で係属した者では刑事裁判群と少年裁判所群に大きな差がないことが分かった。2の研究結果と異なるのは、項目によって、刑事裁判群と少年裁判所群に大差がないものがあることであったが、罪種別に詳細を見ると、財産犯の重罪(felony of property offense)のみが、他の犯罪と異なる結果をもたらしていることが分かった。従って、財産犯の重罪を除いた犯罪については、長期の調査でも、刑事裁判群の方に矯正効果が認められず、むしろ少年裁判所群より犯罪傾向が早く深化していくことが認められた(Winner et al., The Transfer of Juveniles to Criminal Court : Reexamining Recidivism Over the Long Term, Crime & Delinquency Vol.43, No44, 1997)。
4 J.ファガンは、ニューヨーク州とニュージャージー州とでは法制度が異なることを利用し(15〜16歳の少年が、強盗、侵入盗で係属した場合、ニューヨーク州では刑事裁判所で、ニュージャージー州では少年裁判所で処理される)、1981年から82年にかけて、強盗と侵入盗を犯した少年達を両州からそれぞれ抽出し、比較を行った。その結果、強盗では、刑事裁判所で、より有罪率が高く、収容率も高いことが認められた。また、再犯率についても、刑事裁判所群の方が圧倒的に高いことがわかった。一方、侵入盗では収容率は刑事裁判所の方が高いが、有罪率、再逮捕率、再収容率について、少年裁判所と刑事裁判所で差はなかった。また、いわゆる収容期間については、強盗でも侵入盗でも、少年裁判所と刑事裁判所で差はなかった。以上より、刑事裁判所であれば、より厳しい処分(例えば長期に身柄収容されるなど)になることが期待されるわけではなく、また、決定が速やかなわけでもない(判決までの期間が少年裁判所では平均100日なのに対し、刑事裁判所では145日だった)ことが分かった。そして、特に刑事処分が矯正効果が上がることも認められなかっただけでなく、強盗の場合は、むしろ逆効果になっていることが分かった。
ファガンはこの結果から、基本的に現在の少年裁判所の枠組みを維持し、改革を重ねることを提言している(Jeffrey Fagan, Separating the Men From the Boys, in James C.Howell et al.(ed), A Sourcebook : Serious, Violent and Chronic Juvenile Offenders,1995)。
これらの研究が一様に強調するのは、厳罰化の効果を統計的に有意義なものとして測定することの困難さである。しかし、工夫を重ねた研究の結果、報告される厳罰化の効果は、国民が期待するような方向とはむしろ逆であることは注目に値する。
厳罰化の支持者はしばしば少年裁判所の「不透明さ」「力弱さ」「矯正力の低さ」を強調し、その対極にあるものとして刑事裁判の「確実さ」「厳罰さ」「矯正効果」ひいては抑止力としての機能を掲げる。しかし、これらの研究結果から、刑事裁判所の判決が必ずしも少年裁判所での処遇より厳しいわけではなく、矯正効果の点でもむしろ少年裁判所の方が効果を上げていることがわかる。特に、3項及び4項双方の研究結果からは、財産犯のみは例外になることがあるが、強盗などのいわゆる対人的な凶悪犯罪について、共通して、厳罰化が逆効果になっていることがわかる。また、処遇の中身より、むしろ、「厳罰の法を作ること」そのものに、少年に対する抑止効果があるという説は、前記のシンガーの調査結果により、根拠を失うことがわかる。従って、厳罰化の支持根拠とされているのは、むしろ、非常に感覚的、感情的な思い入れであるということが言えよう。少年裁判所の改革を放棄し、厳罰に走るとき、失うもののあることを、これらの研究は警告している。